人権侵害リスクの特定・評価は、人権デュー・ディリジェンスの出発点です。本記事では、経済産業省の実務参照資料に沿って、重大な事業領域の絞り込み、発生過程の把握、企業との関わりの評価、優先順位付けまでを、実務で使える視点で整理します。
サステナビリティ分野全般のアドバイザリーでは、本記事のようなトピック解説などもご好評いただいています。詳しく知りたい方は「アドバイザリーサービス」←こちらをご確認ください。
- 人権デューデリジェンスに着手したいが、どこから見ればよいか分からない担当者
- サステナビリティ、法務、調達、コンプライアンス部門で人権侵害リスクの整理を求められている方
導入
人権対応という言葉は広く浸透してきましたが、実務の現場ではなお、人権方針の策定や開示対応が先行しがちです。しかし、本当に問われるのは、方針の有無ではなく、自社の事業の中にどのような人権侵害リスクがあり、それにどう向きあうのかという点です。人権課題は、採用や労務管理だけでなく、調達、製造、物流、販売、海外拠点の運営など、企業活動のさまざまな場面に広がっています。しかも、その影響は社内にとどまらず、取引関係やサプライチェーンを通じて企業の外側にも及び得ます。
だからこそ、人権対応を実務として進める上では、まずリスクをどう捉えるかが重要になります。
本記事では、人権侵害リスクの特定・評価をどのように考えるべきか、その基本的視点を整理します。
人権侵害リスクの特定・評価が出発点になる理由
人権対応を実務として機能させるには、まず自社のどこに重大なリスクがあるのかを見極める必要があります。人権課題は、採用や労務管理にとどまらず、調達、製造、物流、販売、海外拠点の運営など、事業活動のさまざまな場面で生じ得ます。しかも、その影響は社内だけで完結するとは限りません。製品やサービス、取引関係を通じて、企業の外側へ広がることもあります。こうした広がりを持つ以上、対策に入る前に、どこでどのような負の影響が生じ得るのかを把握しなければ、実効性のある対応はできません。そのため、人権侵害リスクの特定・評価は、人権デュー・ディリジェンスの入口に置かれるべき工程なのです。
重要な事業領域を絞り込む
人権侵害リスクの特定・評価は、最初から個別事案を一つずつ洗い出す作業ではありません。まず行うべきなのは、どの事業領域に重大なリスクが集まりやすいのかを見極めることです。人権課題は幅が広いため、すべてを同じ重さで点検しようとすると、かえって重要な論点が埋もれてしまいます。最初の段階で必要なのは、細部まで洗い切ることではなく、どこを優先的に見るべきかという視点を定めることです。
「どの過程で起きるか」を見る
重要な事業領域を絞り込んだ後に必要なのは、負の影響がどの過程で生じるのかを捉えることです。結果だけを見ても十分には理解できません。どの工程で、どの立場の人に、どのような影響が及ぶのかを見ることで、対策は表面的なものから具体的なものになります。
企業との関りを見極め、優先順位をつける
最後に必要なのが、その負の影響に企業がどのように関わっているのかを見極めることです。自社が直接引き起こしているのか、他者による影響を助長しているのか、あるいは事業・製品・サービスを通じて直接関連しているのかによって、求められる対応は変わります。リスクの大きさだけでなく、自社との距離や関わり方まで見て初めて、優先順位のある判断が可能になります。
人権侵害リスクの特定・評価は、単にリスクを並べる作業ではありません。重大な事業領域を絞り込み、負の影響が生じる過程を捉え、自社との関わり方を見極めたうえで、どこから手を打つべきかを定めるための経営判断です。だからこそ、この工程では「何が起きているか」だけでなく、「なぜ起きるのか」「自社はどう関わっているのか」まで見通す必要があります。そうして初めて、特定・評価は形式的な点検ではなく、実効性のある人権対応の出発点になります。
参考文献
「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のための実務参照資料」(経済産業省)referencematerialonpracticalapproaches_japan.pdf

