SBT短期目標の審査要件を体系的にわかりやすく解説します。目標設定の基準、再計算ルール、公表義務、セクター別ガイダンスなど、企業が承認取得のために理解すべきポイントをまとめて紹介します。気候変動への取り組みを強化したい企業担当者は必見です。
※最終更新日 2025年12月
・自社でSBT目標設定や申請を担当しているサステナビリティ・ESG担当者
・排出量管理や脱炭素戦略を担う環境部門・経営企画部門
・取引先からSBT対応を求められている企業の営業担当者
・サプライチェーン排出削減に関心を持つ調達部門・企画部門
・CSR・サステナビリティの基礎を学びたいビジネスパーソン
SBTは、企業が気候科学に沿った排出削減目標を設定するための国際基準ですが、その短期目標の審査要件はC1~C28という細かな基準に分かれ、初めて取り組む企業にとって全体像がつかみにくい側面があります。本記事では、この28項目を体系的に整理し、目標設計の基本ルールから業種別の追加要件、さらに承認後の運用基準まで一連の流れを分かりやすく解説します。記事を読み進めることで、自社がどの基準を満たす必要があるのかを理解し、短期目標の設計・申請・運用に関する重要な点を、自信を持って理解し、適切に意思決定できるようになります。
SBT短期目標とは何か:基準全体の位置づけと目的
SBT短期目標の役割と意義を整理し、C1~C28が何を定めている基準なのかを概観します。企業がなぜ短期目標を設定する必要があるのか、その全体像を明確にします。
①:SBT短期目標が、企業の脱炭素戦略でどのような役割を果たすのかを整理し、その意義を明確にします。
②:C1~C28が、短期目標の「設計・適用・管理」を包括的に支える体系であることを解説します。
短期目標が求められる背景
SBTの短期目標は、企業が1.5℃目標と整合する排出削減に向けて、今後5〜10年で優先的に取り組むべき行動を示すための指標です。2050年ネットゼロに向けた長期計画だけでは、実際の排出削減が先送りされるリスクがあり、企業の努力や進捗の検証が困難になります。そのため、5〜10年以内の短期目標を設定し、気候科学に基づいた削減ペースを確保することが求められています。短期目標は投資家や取引先からも重視され、企業の信頼性評価にも直接影響します。こうした背景から、「今すぐ削減に取り組む姿勢を示すこと」が国際的に不可欠となっているのです。
SBT審査で重視されるポイントの全体像
SBTでは、企業の排出データが正確であること、目標が最新の気候科学と整合していること、設定後も継続的に管理・開示されることの3点が特に重視されます。具体的には、目標野心はScope 1・2が1.5℃整合、Scope 3がWB2℃(2℃を大幅に下回るレベル)整合であることが最低条件となり、目標やインベントリのバウンダリ、削減率、原単位指標の妥当性も審査されます。さらに、事業構造の変化や計算方法・データ変更に応じた再計算、毎年の排出インベントリと進捗報告、公表義務といった運用面も評価対象です。つまりSBTは、「正確なデータ」「科学的に整合した目標」「継続的で透明性の高い運用」という三つの要件がそろって初めて承認される仕組みとなっています。
C1~C28の基準がカバーする範囲とは
C1~C28は、SBT短期目標に関する審査要件を記載したもので、排出データ、目標設定から運用までの全プロセスを網羅しています。前半では、排出スコープの設定、基準年・目標年、最低野心度、目標種類(総量・原単位)など、目標設計の基本ルールを定義しています。中盤では、サプライヤーエンゲージメントや再エネ電力調達、化石燃料関連企業への要件、セクター別ガイダンスといった事業特性ごとの追加基準を扱います。後半では、5年ごとのレビュー、再計算、公表義務など、目標設定後の運用基準を定めています。これらの基準を確認することにより企業はSBTを包括的に理解できます。
短期目標の設計に関する基礎要件(C1〜C18)
目標バウンダリ、基準年、野心度、削減手法など、C1〜C18が定める基本ルールを解説します。企業が短期目標を設計する際の必須ポイントを整理します。
①:目標バウンダリ、基準年、対象範囲など、すべての企業に共通して求められる基本ルールを説明します。
②:Scope 1・2・3それぞれに課される最低野心度や目標設定方法の違いを整理します。
③:総量目標・原単位目標、回避排出の扱いなど、基礎的な考え方を実務的に理解できるよう解説します。
目標バウンダリと目標の種類(C1、C2)
SBTiの短期目標基準の入口となるのが「組織バウンダリ」と「温室効果ガス」です。ここを正しく理解することで、その後の目標設計がスムーズになります。 まずC1では「どこまでの組織範囲を目標に含めるか」を定めています。SBTiは、企業が部分的な事業や特定の子会社だけを対象にすることを認めていません。必ず「親会社(グループ全体)」を単位として目標を提出し、すべての子会社の排出量を統合して扱う必要があります。これは、企業全体としての実態を反映した削減計画を求めるためです。また、親会社と子会社がともにSBTiへ目標を出す場合でも、親会社側は選択した連結方式に応じて子会社分を含めなければなりません。ブランド単位や地域単位といった限定的な範囲での独立した目標提出は不可とされています。
C2では、「どの温室効果ガスを目標対象とするか」を明確にしています。対象とすべきはGHGプロトコルで規定される7種類のガス、CO₂、CH₄、N₂O、HFCs、PFCs、SF₆、NF₃ です。企業は、これら関連するすべてのガスを対象にする必要があり、測定が難しいという理由で除外することは認められません。SBTiは企業のGHGインベントリの完全性を重視することで、特定ガスの恣意的な除外による目標達成の“見かけ上の操作”を防ぎ、気候科学に基づく実質的な排出削減を確保しています。
C1とC2は、企業が対象範囲を正しく定めるための基礎ルールです。ここを押さえることで、以降の基準理解が格段に進み、SBTの確実な承認につながります。
目標バウンダリと排出スコープの基本ルール(C3~C5)
SBTでは、目標に含める排出範囲(バウンダリ)を明確に設定することが求められます。対象となるのは、企業が管理・影響できるScope 1(自社直接排出)、Scope 2(購入電力等の間接排出)、そして条件付きでScope 3(サプライチェーン排出)です。特にScope 3は、排出量が全体の40%以上を占める場合、必ず目標設定が必要となります。目標バウンダリの設定は「どの排出を削減約束の対象とするか」を定める重要工程であり、誤りがあるとその後の目標設計がすべて不整合になるため、最初に正確な排出インベントリを整備することが不可欠です。
SBTiは、企業が排出量をどの程度まで目標やインベントリから除外できるかを明確に定めています。Scope 1・2についてはインベントリと目標の双方で合計排出量の5%までしか除外できず、Scope 3のインベントリについても最大5%の除外しか認められません。小規模な排出であっても「無視できる」という理由で除外することは許されず、企業は排出量を正確かつ網羅的に把握する必要があります。
排出量算定と目標設定の必須ルールの概要(C7~C10)
SBTiは、企業が排出量を正確かつ一貫した方法で算定し、科学的根拠に基づく短期目標を設定するための必須ルールを定めています。目標設定手法は随時改訂されており、申請時には最新版の手法とツールを用いて目標をモデル化する必要があります。これにより、恣意的な基準変更による“見かけ上の達成”を防ぎ、信頼性の高い排出管理を確保します。
C8は、電力使用に伴う排出(Scope 2)に対して、ロケーションベースまたはマーケットベースのいずれか一つを選択し、目標設定から進捗評価に至るまで継続的に適用することを企業に義務付けています。C9では、サプライチェーン排出(Scope 3)はGHGプロトコルに従って関連する全ての排出量インベントリの完了を義務付けています。
またC10では、バイオ燃料・バイオマスに伴う生物由来炭素についても厳格な算定が求められ、バイオ由来ネットCO₂排出量をScope 1〜3の目標範囲に含める必要があります。目標文には「土地関連の排出・除去を含む」と明記することが義務付けられており、土地利用変化(LUC)、土地管理に伴うN₂O・CH₄、加工・輸送など、バイオエネルギーや生物由来原料に係るすべての上流排出をGHGインベントリに計上する必要があります。また、生物由来除去による負の排出を進捗として扱うことは禁止されています。
基準年と目標年の設定基準(C13、C14)
短期目標の基準年は2015年より前を選ぶことはできず、目標年はSBTiへの提出時点から5~10年以内で設定する必要があります。また、Scope 1とScope 2は必ず同じ基準年を使用し、複数年の平均基準年は原則認められていません。Scope 3はScope 1, 2と基準年が同一であることが推奨されるものの必須ではありませんが、Scope 3のカテゴリ間では統一する必要があります。この基準により、企業は適切な比較可能性を維持しながら、科学的に妥当な期間内で現実的かつ野心的な削減計画を立てることが求められます。
さらにSBTiは、企業が短期目標を設定する際に「すでにどれだけ排出量を減らしているか」を踏まえるための基準も定めています(C14)。企業は直近年の排出データを基準に、2050年のネットゼロと整合する直線的な削減軌道(総量・原単位・原単位収束のいずれか)を設定する必要があります。つまり、基準年から直近年までに大幅な削減が進んでいる場合は、その進捗を織り込んで“直近年から改めて”削減経路が引かれるため、基準年からの削減率とは異なる目標値となることがあります。なお現行基準では、申請年から概ね2年以内の最新インベントリが必要とされ、代理データの使用は認められていません。
Scope 1・2の最低野心度(1.5℃整合)(C15~C17)
Scope 1およびScope 2の短期目標は、世界の気温上昇を1.5℃に抑えるために必要な脱炭素化レベルと整合していなければなりません。これはSBT基準の中でも特に重要な要件であり、企業の自社領域の排出削減については最も高い野心を求めるという方針を反映しています。具体的には、1.5℃シナリオに基づく削減率以上の総量削減または原単位削減が求められ、再生可能電力調達や効率化、燃料転換などの取り組みにより確実な削減を実現する必要があります。これにより、企業の直接的な排出削減が気候科学に根拠を持つ形で担保されます。
Scope 3のカバー率と最低野心度(WB2℃整合)(C6およびC18)
Scope 3排出はサプライチェーンや顧客利用に伴って発生し、多くの企業にとって排出量の大部分を占めます。しかし削減のコントロールが難しい領域であるため、最低野心度は「2℃を大幅に下回る(WB2℃)」レベルで設定されています。これは、Scope 1・2に比べて要件がやや緩やかなものの、科学的に妥当と認められる削減ペースを確保するための基準です。絶対量目標・原単位目標のどちらでもよいですが、設定する場合は経済的または物理的指標が適切である必要があります。Scope 3排出量が全体の40%以上の場合、目標設定が必須となる点も重要です。
絶対量目標と原単位目標の違いと要件
絶対量目標は、企業全体の排出量そのものを削減する目標であり、最もストレートで成果が明確に示される方式です。一方、原単位目標は生産量や付加価値などで割った「排出原単位」の削減を目指すもので、成長と排出削減を両立しやすい利点があります。しかし、Scope 1・2で原単位目標を採用する場合は、企業の事業活動に適用可能であり、かつ SBTi が承認する 1.5℃セクター別パスウェイを用いてモデル化されている場合にのみ、適格とみなされます。また、成長率の予測とセットで示す必要があり、過度に緩い設定を避けるため、原単位削減率にも最低ラインが定められています。企業は、自社の事業特性に応じて適切な方式を選択することが求められます。
削減貢献量やクレジットを算入できない理由(C11およびC12)
SBTの短期目標では、削減貢献量(Avoided Emissions)やカーボンクレジット(オフセット)は算入できません。これは、SBTが「自社のバリューチェーン内の実質的な排出削減」を最優先とする考え方に基づいています。削減貢献量は、算定方法や前提条件にばらつきがあり、他社の行動や市場環境にも左右されるため、企業の排出削減として直接的に評価することはできません。また、カーボンクレジットについても、自社の活動によって実際に削減された排出量としてはカウントできず、排出インベントリに反映されないため、SBTの短期目標の達成手段としては認められていません。こうした理由から、短期目標では自社およびバリューチェーンの実質的な排出削減に重きが置かれています。
基礎ルールが企業に求める実務的ポイント
これらの基礎要件は、企業が短期目標を設定する前段階として、まず正確で網羅的な排出インベントリを構築する必要があることを示しています。基準年の明確化、Scope 1・2・3の排出算定方法の確立、データ品質の管理、成長見通しの把握など、準備が極めて重要です。また、サプライチェーンとの情報共有体制の整備や、削減ポテンシャルの把握など、関連部門横断の連携も求められます。SBTは形式的な目標設定にとどまらず、科学的に整合した削減水準を求める仕組みであるため、企業はこれらの基礎ルールを踏まえて実行性のある計画を立案することが不可欠です。
業種・事業に応じた追加基準と特別要件(C19〜C24)
サプライヤーエンゲージメント、再エネ電力調達、化石燃料関連企業への特別要件など、特定の業種に適用される追加基準をわかりやすく説明します。
①:サプライヤー・顧客エンゲージメントなど、特定の企業にのみ適用される追加基準の目的と内容を整理します。
②:化石燃料関連事業者に課される必須要件や制限を体系的に解説します。
③:セクター別ガイダンスが適用されるケースと、企業が判断すべき点をまとめます。
サプライヤー・顧客エンゲージメント目標の基準(C19)
サプライヤーまたは顧客に対し、SBTの導入を促す「エンゲージメント目標」は、Scope 3排出が大きい企業にとって重要な手法です。この目標では、対象範囲となるScope 3カテゴリにおいて、何%の排出量(もしくは何%の調達額)をカバーするかを明確に設定し、SBTi承認後5年以内に達成する必要があります。サプライヤーや法人顧客がSBT整合の目標を持つことが前提であり、B2C顧客は対象外です。エンゲージメント目標を設定するかどうかに関わらず、サプライヤーや顧客との対話や協働を通じて、自社以外のバリューチェーンにも削減行動を広げていくことは、サプライチェーン排出の多い企業にとって極めて重要な取り組みとなります。
統合スコープ目標の扱い(C20)
Scope 1・2・3 を一体化して目標を設定する「統合スコープ目標」は、個々のスコープごとの野心度がSBT基準を満たす場合にのみ認められます。具体的には、Scope 1+2の削減部分は必ず1.5℃整合レベル、Scope 3の削減部分は WB2℃整合レベルであることが必要です。企業が複数スコープをまとめて宣言する場合でも、各スコープが適切な最低野心度を満たしているかをSBTiが個別にチェックし、いずれかが不足していれば承認されません。また、Scope 3の最低野心度がセクター別に強化されている業種については、統合目標より優先してそのセクター基準が適用されます。
再生可能電力調達を用いた代替目標(C21)
SBTでは、Scope 2排出の削減方法として、再生可能電力の調達目標を設定する代替的アプローチが認められています。SBTiは、1.5℃シナリオと整合する水準として、2025年までに再エネ比率80%、2030年までに100% を達成することを閾値と定めており、これはRE100の推奨に基づくものです。すでにこれらの比率に到達している企業は、その水準を維持するか、さらに引き上げることが求められます。また、長期目標(ネットゼロ目標)においては、2030年以降も100%の再生可能電力調達を継続することが必須とされています。再生可能電力の調達目標を設定する企業は、普段ロケーション基準でScope 2を報告している場合であっても、マーケット基準の Scope 2 排出量を必ず併せて報告する必要があります。
化石燃料の販売・流通企業に課される必須目標(C22)
天然ガスや石油などの化石燃料を販売・輸送・流通する企業は、Scope 3 Category 11(販売した製品の使用)について必ず排出削減目標を設定しなければなりません。これは、その製品の燃焼が重大な排出源であり、自社の主要活動かどうかや排出比率に関係なく、1.5℃整合レベルの削減が求められるためです。短期目標のカバー率67%を満たすため、場合によっては他のScope 3カテゴリでも追加目標を設ける必要があります。なお、消費者向けのごく小規模な化石燃料製品などは例外とされる場合がありますが、基本的にはバリューチェーン下流の排出を除外することは許されません。
化石燃料生産企業に対するSBTiの制限(C23)
SBTiは現在、化石燃料の探査・採掘・生産を行う企業の短期目標を原則として検証していません。これは、化石燃料企業の排出構造が他産業とは大きく異なり、一般的な企業向けの基準では科学的な整合性を適切に担保できないためです。また、収益の50%以上を化石燃料の販売・輸送・配電、または化石燃料関連企業向けの機器・サービス提供によって得ている企業、さらに石炭鉱山などの化石燃料資産から5%超の収益を得ている企業も、検証対象から除外されています。これらに該当する企業は、SBTiによって別途策定されるセクター固有の基準が存在する場合に限り、その基準に従って目標を設定する必要があります。
セクター別ガイダンスが優先されるケース(C24)
SBTiは航空、海運、金融サービスなど一部セクターに対して専用のガイダンスを発行しており、これらの活動を行う企業は、発行から6か月以内にそのガイダンスに従う必要があります。セクターガイダンスは、一般基準よりも精緻に削減パスや設定ルールが定義されているため、該当する場合は通常の短期基準より優先されます。また、複数のセクターにまたがる企業は、各活動に対して個別にセクター別目標を設定することが推奨されています。これにより、事業特性に合った科学的に正しい削減目標が確実に設定されます。
追加基準が適用される企業の判断ポイント
企業が追加基準の対象となるかどうかは、事業内容・収益構造・提供サービス・Scope 3排出構成などに基づいて判断する必要があります。特に、化石燃料の扱い、再エネ調達の状況、サプライチェーン排出の多さ、法人顧客割合、特定セクターに属する活動の有無は重要な判断材料です。誤って一般基準のみで目標設計を行うと、承認されないリスクが高まります。そのため、企業はまず自社の事業ポートフォリオを整理し、どの基準が適用されるかを早期に特定することが、効率的なSBT申請の成功につながります。
目標の継続管理・更新・開示のための運用基準(C25〜C28)
年次開示、5年ごとのレビュー、再計算、公表義務など、承認後に求められる継続的な運用ルールをまとめ、目標維持に必要な体制を示します。
①:承認後6か月以内の公表義務に加え、排出インベントリの年次開示や進捗管理など、目標達成に向けた運用の必須要件を説明します。
②:5年ごとの必須のレビューや重大な変更が生じた時の再計算ルールなど、目標更新の仕組みを整理します。
毎年の排出インベントリ公表義務(C25)
C25では、企業が毎年、全社的な温室効果ガス排出インベントリと、SBTで承認された目標に対する進捗状況を公表することが義務づけられています。Scope 1・2に加え、Scope 3についても、インベントリ範囲に含まれる排出量を毎年公表する必要があります。開示手段としては、サステナビリティレポートやCDP、TCFDなどの公式プラットフォームが推奨されます。透明性を確保し、ステークホルダーが進捗を評価できるようにすることで、企業の責任ある気候行動を担保する基準として位置づけられています。
5年ごとの必須レビューと更新の仕組み(C26)
C26では、企業は最低でも5年に一度、すべての有効なSBT目標が最新のSBTi基準と整合しているかを確認するレビューを行うことが義務づけられています。基準が強化される場合や、企業の排出構造が変化した場合、既存の目標が非整合となる可能性があるためです。もし基準に合致しないと判断された場合、企業は目標を更新し、再度SBTiの検証を受けなければなりません。特に2020年以前に承認された目標を持つ企業は、2025年までに必ずレビューを完了する必要があります。これにより、SBTが長期間にわたり科学的妥当性を保つことができる仕組みが確立されています。
重大な変化があった場合の再計算ルール(C27)
C27は、企業の事業や排出構造に重大な変化が生じた場合、目標の再計算と必要に応じた再検証を求める基準です。再計算のトリガーには、スコープ3の排出割合が全体の40%を超える場合、組織構造の大幅な変化(買収・売却・合併など)、データ修正による基準年排出量の5%超の変動などが含まれます。また、排出がスコープ間で移行するような事業転換や、計算方法の重大な見直しも対象です。これらは既存目標の妥当性を損なうため、企業は変化発生後の次の報告サイクル完了から1年以内に再計算を行う必要があります。SBTの精度と信頼性を確保するための重要な仕組みです。
承認後6か月以内の公表義務と失効リスク(C28)
C28では、SBTが承認された企業は、承認日から6か月以内にその目標をSBTi公式ウェブサイトで公表する義務があります。期限内に公表されない場合、原則として再度検証プロセスを受け直さなければなりません。これは、企業が承認を得た後に公表を遅らせたり、非公開のままにしたりすることで透明性を欠く状況を防ぐための仕組みです。例外が認められるのは、SBTiとの間で書面による合意が成立している場合に限られます。目標承認は企業の外部コミットメントであり、それを迅速に公開することが信頼性維持に欠かせないという考えに基づいています。
運用基準が企業に求める体制整備とは
C25〜C28が示す運用基準は、SBT目標を“設定して終わり”ではなく、進捗管理・レビュー・再計算・公表という継続的なプロセスを企業が適切に運営するための体制整備を求めています。具体的には、毎年の排出データを正確に集約する仕組み、基準変更や事業再編に対応できる内部ガバナンス、部門横断でのデータ連携、そして迅速な公表プロセスの確立などが必要になります。これらの体制が整備されていないと、基準違反や再計算の遅れ、承認の失効などのリスクが生じます。SBTを持続的に運用するためには、企業内部の管理能力が極めて重要です。
まとめ:SBTの基準を正しく理解し、確実に目標承認につなげるために
記事の要点を振り返り、企業がSBT承認を確実に得るための重要ポイントを整理します。次のステップとして何を準備すべきかを示します。
①:28項目の基準を体系的に理解することの重要性と、目標設計を成功させるための基本姿勢を整理します。
②:よくある見落としや誤解を振り返り、企業が適切に準備するためのチェックポイントを提示します。
③:今後の申請に向け、実務でどのように次のアクションにつなげるべきかを示します。
C1〜C28を俯瞰する重要性
C1〜C28は、SBT短期目標の設定から運用までを網羅する包括的な審査基準であり、いずれかの項目に不整合がある場合には、修正が求められ、承認が遅れる可能性があります。SBTでは、個々の基準を個別に満たすだけでなく、目標全体として科学的な整合性が確保されているかが重視されます。排出範囲、野心度、目標形式、セクター別要件、報告義務といった要素は相互に関連しているため、全28項目の位置づけを俯瞰して理解することが欠かせません。全体像を把握することで、自社の弱点や追加で準備すべき点が明確になり、検証プロセスを効率的に進められます。
企業が見落としやすいポイントのおさらい
SBT申請に際して企業が最も見落としやすいのは、Scope1,2やScope 3の排出インベントリカバー率、インベントリの除外ルール、野心度の最低ライン、セクター別ガイダンス優先の原則、そして「設定後の運用義務」の存在です。再計算(C27)や5年レビュー(C26)、承認後6か月以内の公表義務(C28)を軽視すると、承認失効や再申請といったリスクにつながりかねません。また、基準年の制限や原単位目標に必要な成長予測を見落とすなど、目標設計段階の誤りも頻発します。これらを事前に把握することで、無駄な手戻りを避け、スムーズな申請準備が可能になります。
今後の申請に向けた次のステップ
SBT申請に進む企業は、まず最新の基準に沿って排出インベントリを整理し、基準年と目標形式を確定させることが重要です。次に、Scope 3の割合や事業内容を踏まえて、セクター別ガイダンスや追加基準(C19〜C24)の対象となるかを判断し、必要なデータ・体制を整える必要があります。そのうえで、削減計画や再エネ調達戦略を明確にし、申請資料の整備を進めます。目標設定後の運用体制(年次報告、再計算、レビュー)も同時に計画しておくことで、承認後も継続的に基準を満たし続けることができます。

