SBTi Servicesポータル完全ガイド:登録手順・機能・申請フローを徹底解説 詳しくはこちら

なぜ海洋が注目されるのか?規制強化の最新動向と企業に求められる海洋情報開示をわかりやすく解説

  • URLをコピーしました!

なぜ海洋が注目されているのかを基礎から解説しつつ、SUP指令やIMO、日本の法改正など規制強化の最新動向と、CDP・TNFD等を踏まえた企業の海洋情報開示のポイント、リスクと機会をコンパクトかつわかりやすく紹介する企業実務者向けの解説記事です。

※本記事は、環境コンサルティング専門のWaste Boxが、最新の気候変動・自然関連開示・企業動向をもとに実務的な観点で整理しています。

最終更新日:2025年12月30日
監修:株式会社Waste Box 小澤
(GHG排出量算定、SBT認定、CDP回答支援・TNFD開示支援)

この記事を読んで欲しい人

本記事は、企業の脱炭素経営・自然関連開示に関わる部門の実務担当者を対象としています。特に以下のような方に有益な内容です。
・自社事業にとっての海洋リスクと事業機会を整理したい方
・海洋・生物多様性・自然関連資本の基礎と最新動向を押さえたい方
・海運・造船・水産・再エネ・食品・小売など、海洋との関わりが深い業種の企画・経営層

気候変動や生物多様性への関心が高まる中、海洋はいま規制と情報開示の両面で注目されるテーマの一つになっています。SUP指令やIMO、日本の法改正などにより、海洋汚染やプラスチック対策は一部業種だけの話ではなくなりました。さらにCDPやTNFDでは海洋関連のリスクと機会の開示が求められ、造船・海運・水産のみならず多くの企業に影響が及ぶ可能性があります。本記事では、なぜ海洋が注目されているのかという背景と、企業が押さえるべき最新動向と対応のポイントを解説し、自社の取り組みを考えるための第一歩を提示します。

目次

なぜ海洋が“今”注目されているのか

近年、気候変動や生物多様性の議論が加速するなかで、海洋というテーマがかつてないほど強く注目されるようになっています。なぜ、いま海なのか。その理由は、海洋が地球の安定性を支える根幹である一方、人間活動により深刻な影響を受け始めているからです。地球規模の気候、食料、資源、そして私たちの生活と経済を揺るがす「海洋の危機」が現実味を帯びる中、国際的な制度や企業の開示基準にも大きな変化が起きています。
本コラムでは、なぜ海洋が“今”これほど注目されているのか。その背景と国際的な潮流を分かりやすく解説します。

地球全体の生態系と気候の安定における海洋の重要性

海洋は地球規模の生態系を維持する上で不可欠な役割を果たしており、気候調整(炭素の吸収/貯蔵など)、生物多様性の維持、人類の食料供給や生計の支えなど、多面的な価値を持っています。
しかし現在、人間活動 -温室効果ガス排出による海洋温暖化・酸性化、過剰な漁業、海洋汚染(プラスチックごみ、化学物質、栄養塩流入など)- により、海洋の生態系/機能が大きく損なわれつつあります。
“海洋の危機”は単なる自然環境問題ではなく、気候・生物多様性・持続可能な食料/資源・人々の生活に直結する「地球規模のリスク」になってきています。

国際的な制度・枠組みにおける海洋保全の高まり

国際社会においては、地球規模・生物多様性・持続可能な開発の観点から、海洋の保全・透明性・持続可能利用を強く意識するように、海洋保全、持続可能な漁業、汚染対策などがいまや気候変動対策と同じように重要性を持つテーマとして捉えられています。
特に、海洋に流れ込むプラスチックごみや化学汚染、海洋生物多様性への影響に対しての社会的、法的な関心が強まっていることが、制度整備や報告義務化の圧迫を後押ししています。特に業種として造船、海運、風力発電、水産加工の企業は海洋に対しての影響、依存が高く注意が必要です。

現代においては「自然」と「生物多様性」という言葉を同じ意味で使うことが一般的になっていますが、実際には両者は異なる概念を指します。自然とは陸、海洋、淡水、大気の4つの領域で構成されていると定義され、生物多様性とは、これらすべての領域に渡る生物間の変異性を指します。
人々はこれらの自然からもたらされる自然資本に依存する存在である一方、自然へ人為的に影響を与えてしまっている存在でもあります。事業をするうえでもどのような自然へ依存し、自然にどのような影響を与えてしまっているか認識し、依存や影響が財務的にどのようなリスク機会になっているのかを把握して対策を打つことが求められます。

2026年からはCDP質問書に「海洋」関連の質問が追加予定です。制度面/投資家/社会のいずれにおいても、海洋に関するリスクや機会への関心が高まっていることが、CDPが質問書に「海洋」を組み込んだ主な背景と考えられます。
さらに、TNFDの開示フレームワークでも、「海洋/生物多様性/プラスチック汚染」が対象とされていることから、国際的な基準との整合性や比較可能性を強化する狙いもあるといえます。

海洋汚染に関する規制強化国内外の動向

海洋プラスチックごみの問題をはじめとする海洋汚染問題は、陸上由来と船舶由来の両面で対策が求められており、これに対処するために様々な規制強化がされています。
本章では、海外、国内における規制強化の事例を紹介します。

規制強化の動向(海外)

SUP指令(EU)

EUは、海洋プラスチック汚染の主要な原因となる使い捨てプラスチックの削減を目的に、2019年に「単回使用プラスチック指令(Single-Use Plastics Directive:SUP指令)」を採択しました。海洋ごみの多くが陸上由来であり、ストロー、カトラリー、皿、カップの蓋などの使い捨て製品が大きな割合を占めていることが背景にあります。

SUP指令では、特定の使い捨てプラスチック製品の販売禁止に加え、製品設計要件(ボトルとキャップを一体化させる等)、ラベリング義務、生産者責任(EPR)の拡大、分別回収やリサイクル目標の設定などが規定されています。
特に飲料ボトルについては、次のような具体的な数値目標が定められています。

  • 2025年までに、PET製飲料ボトルに少なくとも25%の再生プラスチックを含有
  • 2030年までに、すべてのプラスチック飲料ボトルで30%の再生プラスチック含有
  • プラスチックボトルの**別回収率を2025年までに77%、2029年までに90%**とすること

これらを通じて、プラスチック廃棄物の発生抑制と資源循環の加速が図られています。


International Maritime Organization(IMO)による船舶由来プラスチック対策

国際海事機関(IMO)は、船舶から排出される海洋プラスチックごみに対応するため、「船舶からの海洋プラスチックごみに対処するためのアクションプラン(Action Plan to Address Marine Plastic Litter from Ships)」を採択し、実行を進めています。

このアクションプランおよび関連する「戦略(Strategy to Address Marine Plastic Litter from Ships)」では、2025年までに船舶からのプラスチック廃棄物の海への排出をゼロに近づけることを目標に、次のような取り組みが位置づけられています。

  • 漁具の管理強化や紛失・放棄漁具(ALDFG)の削減
  • 商船からのごみ排出規制の遵守徹底と監視の強化
  • 港湾でのごみ受け入れ施設・体制の整備
  • 船員や関係者に対する教育・啓発活動
  • 船舶由来プラスチックごみの発生状況や排出実態に関するデータ収集・モニタリング
  • マイクロプラスチックや樹脂ペレットの流出防止策の検討・実施
  • 各国間の国際協力や技術支援の推進

最近では、このアクションプランは2025年を見据えた「2025 Action Plan」として更新・強化が図られており、進捗状況のフォローアップも行われています。

規制強化の動向(国内)

日本でも、国際的な海洋環境保護の潮流を踏まえ、海洋汚染防止に関する規制が段階的に強化されています。代表的な動きとして、2024年6月5日に公布された「海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律施行令」の一部改正(令和6年政令第204号)が挙げられます。今回の改正は、MARPOL条約やIMOの最新決議内容を国内法へ反映するために実施されたものです。

主な改正ポイントは次のとおりです。

  1. 北極海域における重質油を積載した船舶の航行禁止
     環境負荷の大きい重質油の使用・輸送に対し、国際的な規制強化が進む中、日本でも同様の基準を適用。
  2. 特定海域における食物くずの排出規制の見直し
     国際基準との整合を図るため、日本独自で設定していた排出規制の一部を解除。
  3. 地中海排出規制海域における燃料油中硫黄分濃度の基準強化
     これまでの 0.5%以下から 0.1%以下に引き下げ、より厳しい排出規制を適用。
  4. 紅海海域・アデン湾におけるバラスト水や貨物油を含む排水の排出禁止
     環境負荷の高い排出物に対し、国際基準に沿った規制を導入。
  5. 紅海海域における食物くず、貨物倉残渣、洗浄水、動物死体などの排出基準の強化
     生態系への影響に配慮し、排出をより厳格に管理。

本改正は、単なる規制強化にとどまらず、日本の海運・海洋産業における環境対応力や国際的な信頼性を高めるうえで重要な位置づけを持っています。船舶運航者や港湾管理者には新たな遵守事項が生じますが、長期的には海洋環境保全の推進と持続可能な海運への移行に寄与すると期待されます。

また、海洋汚染防止に関連する水質基準や排出基準についても、今後さらなる見直しが進む可能性があり、企業には動向を注視することが求められます。

なぜ企業側が自然関連(海洋)の情報開示が求められるのか

現在、企業には自然関連情報の開示が求められる流れが強まっています。特に造船、海運、風力発電、水産加工といった海洋への依存度が高いセクターにおいては、今後どのような開示が求められるかのかが大きな関心事となっているのではないでしょうか。

海洋汚染や海洋資源管理の問題は、企業のサプライチェーン、資源調達、廃棄物管理などに直結し将来的に、物理的、規制、評判リスクとして顕在化する可能性があります。一方、海洋関連の情報を開示することで持続可能な企業価値を維持/向上する機会にもなり結果財務的な影響を与える可能性も秘めています。

そのため企業は海洋に関連するリスクと機会を適切に把握し、戦略や事業計画に反映させることが求められています。特に、海洋生態系の保全や海洋資源の持続可能な利用に向けた取り組みは、企業が中長期的な競争力を確保するうえでは対応が必然的に求められるでしょう。

また、国際的な海洋関連の開示基準や規制が整備されつつある中、企業には自らの事業活動が海洋環境に与える影響を定量・定性の両面から評価し、その結果を透明性高くステークフォルダーに共有する姿勢が期待されています。これにより、投資家や取引先からの信頼を獲得し、資金調達や市場での優位性にもつながります。 本章では、海洋問題に関連する企業のリスクと機会について具体的に紹介します。

海洋に関連する企業のリスク

海洋問題が企業にもたらすリスクは多岐にわたります。
代表的なものとして、物理的リスク・移行リスク・評判リスクの3つが挙げられます。

<物理的リスク>

  • 海洋温暖化・酸性化:水産資源の減少、養殖生産性の低下による売り上げ減少
  • 海面上昇・災害:沿岸施設の浸水に伴う資産価値減、海上物流の混乱による売り上げ機会の損失
  • 汚染の進行:水質汚染・製品安全性リスクによる売上減
  • 生態系の劣化:海洋資源の価格高騰による調達コスト増

<移行リスク>

  • プラスチック規制・排水規制によるコスト増(設備投資・包装変更)
  • 海洋保護区拡大による事業制限(漁業・開発・観光)による売上減
  • 開示要求の高度化(TNFD)による対応コスト増

<評判リスク>

  • 海洋汚染(プラスチック流出・排水事故)によるブランド毀損による売上減

持続不可能な海洋調達(IUU漁業:違法・無報告・無規制漁業)批判による売上減

海洋に関連する企業の機会

海洋に関連する主な機会の例を以下に示します。これらの分野で事業を展開している企業は、海洋保全の潮流を背景に、中長期的に財務面でプラスの影響を受ける可能性があります。

<新市場・技術(ブルーエコノミー)>

  • 洋上風力・海洋発電などの海洋再エネ事業による売上増

*自然資本への依存・影響を適切に管理することを前提に、新たな市場拡大や事業創出につながる「機会」として評価される場合があります。一方で、生態系への影響評価や空間利用の調整が不十分な場合にはリスクにも転じ得るため、慎重な対応が求められます。

<海洋サプライチェーンの高度化>

  • MSC/ASC認証で市場アクセス拡大
  • トレーサビリティ技術(IUU対策、原料追跡)の需要増

<循環型社会(脱プラスチック・海洋保全)>

  • 代替素材、再生材の需要増
  • 排水処理、マイクロプラスチック除去技術

<ブランド価値向上・顧客獲得>

  • 環境配慮をアピールすることによるブランドの信頼性向上

企業の取り組み事例

海洋環境への関心が高まる中、多くの企業が自社の技術や事業特性を生かし、海洋保全に向けた新たな取り組みを進めています。これらの活動は、汚染削減や生態系保全といった社会的課題の解決に寄与するだけでなく、持続可能なビジネスモデルの構築や新たな市場機会の創出にもつながっています。本章では、海洋問題に対して企業がどのようにアプローチしているのか、その多様な事例を紹介します。

事例①:海洋環境を再現する解析サービスの開発

ある環境テクノロジー企業では、任意の海洋環境をラボ内で再現する解析サービスを開発。これにより、実海域では把握しづらい環境変化のメカニズムを精密に分析でき、養殖現場での大量斃死の原因究明やブルーカーボン量の評価など、新たな科学的知見の獲得が期待されている。


事例②:AIを活用した海洋リスクのモニタリングプラットフォーム

欧州のテクノロジー企業は、CO₂排出、海洋汚染、海中騒音、生態系への影響などをAIで解析するモニタリングサービスを提供。複数ソースからデータを統合し、海域の環境リスクの見える化や船舶運航の効率化に寄与している。


事例③:使用済み漁具のアップサイクル事業

循環型素材の開発企業では、使用済み漁具を買い取り、板材やペレットなどの新たな製品へアップサイクルする取り組みを推進。100%漁具由来の再生素材を活用し、漁業者の協力を得ながら持続可能な漁業と海洋保全の両立を目指している。


事例④:海洋プラスチックごみ回収の海域・河川オペレーション

非営利団体による取り組みでは、最新技術を搭載した装置を使い、海域および河川でプラスチックごみの大規模回収を実施。累計数万トン規模の回収実績があり、2040年までに海洋プラスチックごみを大幅に削減する目標を掲げている。


事例⑤:船舶での常時マイクロプラスチック回収技術の導入

海運企業では、航行中に海水を取り込みながら常時マイクロプラスチックを回収できる新型装置を開発・搭載。遠心分離技術を活用し、通常運航と並行して海洋環境の浄化に貢献する取り組みが進められている。


事例⑥:マイクロファイバー流出を抑制する衣類用洗濯ネットの開発

アパレル関連企業では、衣類の洗濯時に発生する繊維くず(マイクロプラスチック)の流出を80%程度削減できる洗濯ネットを開発。日常生活の中で発生する海洋汚染の抑制に貢献している。


事例⑦:生分解性素材を活用した化粧品原料の開発

化学素材メーカーでは、従来の合成プラスチック微粒子の代替として、天然由来の生分解性粒子を開発。化粧品使用後に排水を通じて海洋へ流出するマイクロプラスチック削減に寄与している。


事例⑧:マイクロプラスチックビーズの全面使用廃止

複数の消費財・化粧品メーカーでは、スクラブ剤などに使用されていたマイクロプラスチックビーズを早期に全廃。環境負荷低減とサプライチェーン見直しを進めることで、企業の環境責任とブランド価値向上を図っている。

 本記事のまとめ(要点)

海洋は、気候安定・生物多様性・食料・資源など多くの恩恵を支える重要な自然資本ですが、温暖化、酸性化、汚染、資源枯渇といった影響が急速に進んでいます。こうした状況を受け、欧州のSUP指令、IMOの船舶由来のごみ対策、日本の法改正など、海洋関連の規制強化が世界的に急速に加速しています。

同時に、CDPが2026年から海洋質問を追加するほか、TNFD開示でも海洋・生物多様性、への依存や影響を起因とするリスク・機会の把握と情報開示が求められています。

海洋はもはや一部企業だけのテーマでなはく、多くの企業にとって事業リスクと成長機会の両面につながる可能性があり、まずは自社事業が海洋とどのような接点があるか把握を進めるところから始めるとよいでしょう。早期に対応することで、規制対応だけでなく、投資家からの信頼性向上や新規事業の創出にもつながります。

海洋をめぐる状況は、今後の規制や市場環境の変化を考えても、企業が無視できるものではなくなっています。必要に応じ自社の事業との関わりを見直し、必要な対応を少しずつでも進めていくことが、結果的にリスクを減らし、新しい機会をつかむことにもつながります。海洋をめぐる動きが早まる中で、着実に準備を進めていくことが大切です。


この記事が気に入ったら
いいねしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次