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SBT短期目標の認定基準を体系的に読み解く -C1〜C12に基づく目標バウンダリ・方法論・排出量算定-

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SBTi短期目標の審査要件C1〜C12を、目標バウンダリ、Scope1・2・3、算定方法、クレジットの扱いまで実務目線で解説。Scope3の義務条件や67%ルール、SBTi認定手法など、つまずきやすい論点を網羅します。

※最終更新日 2025年12月

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SBTiの短期目標設定や申請を担うサステナビリティ・環境/経営企画担当者、Scope3対応や脱炭素戦略を実務として整理したい企業担当者向けの記事です。

目次

導入

SBTi(Science Based Targets initiative)は、企業の脱炭素目標を、科学的根拠に基づく経営目標へと引き上げる国際的な枠組みです。しかし実務の現場では、「どこまでを対象にすればよいのか」「Scope 3は必須なのか」「クレジットは使えるのか」といった疑問や誤解も少なくありません。本記事では、SBTi短期目標の審査要件C1〜C12に焦点を当て、目標バウンダリ、方法論の妥当性、排出量算定のルールという3つの軸から、実務でつまずきやすいポイントを体系的に解説します。

SBTiにおける「目標バウンダリ」とは何か

親会社・グループ全体での目標設定を原則とし、C1とGHGプロトコルに基づいて、どこまでの組織・排出を責任範囲として含めるかを整理しています。

主なポイント(要約/サマリー)

①:親会社・グループ全体での目標設定が原則
②:SBTiは「部分最適」を認めない
③:なぜSBTiは「連結財務範囲との一致」を推奨するのか

C1:組織バウンダリとは何か

SBTiクライテリアにおける「C1」は、「どの組織範囲の排出量を目標に含めるのか」を定める最も基本的な要件です。組織バウンダリとは、企業が気候変動に対してどこまでの排出責任を負うのかを示す境界線であり、この設定次第でSBTの実効性と信頼性は大きく左右されます。 SBTiでは原則として、親会社を含む企業グループ全体での目標設定を求めています。親会社がSBTを申請する場合、連結対象となるすべての子会社の排出量を含める必要があり、排出の大きい事業だけを意図的に除外することは認められません。これは、削減が困難な部分を切り離して「都合のよい範囲」だけで目標を作ることを防ぐためです。「C1」が重視しているのは、単なる手続きではなく、「企業グループとして排出責任をどこまで引き受けるのか」という姿勢そのものです。ここを曖昧にしたままでは、どれほど立派な削減目標を掲げても、SBTとしての信頼性は成立しません。そのため、申請の際には、組織構造をポータル内にアップロードする形式で提出することも必要となっています。

GHGプロトコルとの関係と3つのバウンダリ基準

「C1」の組織バウンダリ設定は、SBTi独自の考え方ではなく、温室効果ガス算定の国際標準であるGHGプロトコル企業基準に基づいています。GHGプロトコルでは、企業が排出責任の範囲を定める方法として、主に三つのバウンダリ基準を示しています。 一つ目が「財務支配力基準」で、連結財務諸表と同じ範囲の排出をすべて計上する方法です。二つ目が「経営支配力基準」で、出資比率に関わらず、実質的に運営や意思決定を行っている事業の排出を対象とします。三つ目が「出資比率基準」で、合弁事業などの排出を持分割合に応じて按分計上する考え方です。 GHGプロトコル上はどの基準を選ぶかは企業の判断に委ねられていますが、SBTiは実務上、財務会計上の組織バウンダリとの一致を強く推奨しています。これは、財務データと排出データを同一範囲で管理することで、投資判断や情報開示における整合性と透明性を高めるためです。いずれの基準を採用する場合でも、最も重要なのは「一貫性」です。途中で基準を変更すれば、排出量の増減が実態ではなく制度変更によるものになり、SBTの進捗評価が歪んでしまいます。なお、組織構造変化が発生した際には、構造変化後の完全な報告サイクル終了から1年以内にGHGインベントリへ統合することが求められています。

SBTで対象となる「温室効果ガス」と「Scope1・2」

7種GHGをCO₂eで一括管理し、Scope1・2は目標に含めるべき対象であること、その意義とリスクを実務目線で説明しています。

主なポイント(要約/サマリー)

①:7種類の温室効果ガスとGWPの考え方
②:CO₂換算(CO₂e)の意味
③:特定ガスを除外することのリスク
④:ネットゼロへの道筋としてのScope1・2

C2:なぜCO₂だけでは不十分なのか

SBTiクライテリアにおける「C2」は、「削減対象とする温室効果ガスはCO₂だけでは足りない」という考え方を明確にした要件です。企業の脱炭素対応というと、排出量の指標としてCO₂のみが強調されがちですが、気候変動の原因となるガスはそれだけではありません。GHGプロトコルでは、CO₂に加えて、メタン(CH₄)、一酸化二窒素(N₂O)、HFC、PFC、SF₆、NF₃といった合計7種類の温室効果ガスを対象としています。 これらのガスは排出量自体は少なくても、温暖化への影響度を示すGWP(地球温暖化係数)がCO₂の数十倍から数万倍に達するものもあります。たとえば冷媒に使われるフロン類は、漏えい量がわずかでも気候への影響は極めて大きくなります。そのためSBTiでは、すべての温室効果ガスをCO₂換算(CO₂e)という共通の尺度に置き換え、合算したうえで削減目標を設定することを義務付けています。 CO₂だけに注目した目標設定は、企業の気候影響を過小評価し、見かけ上「削減しているように見える」状態を生みやすくなります。「C2」は、こうした都合のよい評価を排し、企業活動が地球温暖化に与える影響を網羅的かつ正確に捉えるための前提条件として位置づけられています。なお、ある特定の種類のガスの測定が困難であること自体は除外理由とはならず、推計を用いた算定が求められます。

C3:Scope1・2は企業全体を対象として含める

SBTiクライテリアにおける「C3」は、SBTiの削減目標において、企業のScope 1およびScope 2排出を例外なくすべて含めることを必須とする要件です。Scope 1は、自社が直接排出する温室効果ガス、すなわち工場の燃料燃焼やボイラー、社用車などによる排出やプロセス排出、フロン類の漏洩排出を指します。Scope 2は、購入した電力、熱、蒸気、冷却などの使用に伴う間接排出です。いずれも企業活動の中核をなすエネルギー起源排出であり、脱炭素経営の「最優先削減対象」と位置づけられています。 SBTiでは、特定の拠点や事業だけを対象から外したり、排出の少ない部門だけを切り出して目標を設定したりすることは認められていません。これは、削減が難しい工場や海外拠点を除外することで、見かけ上の削減率を操作する余地をなくすためです。Scope 1・2は企業が自らの意思決定と投資によって直接コントロール可能な領域であり、この一部を含めないような目標は、SBTの趣旨に反すると考えられています。 またScope 2については、再エネ調達などの戦略とも密接に関係します。「C3」は、企業がまず自社の足元の排出に正面から向き合い、逃げ道のないかたちで削減に取り組むことを求める要件だと言えるでしょう。

C5:Scope 1・2総排出量の5%以上は除外してはならない

SBTiクライテリアにおける「C5」では、企業はScope1・2の合計排出量のうち5%を超えて、GHGインベントリのバウンダリおよび目標バウンダリから除外してはならないと定めています。

ここで重要なのは、「インベントリ上の除外」と「目標上の除外」を別物として扱い、結果的に二重に除外してしまう落とし穴です。SBTiは、(報告+除外)で見たScope1・2総排出量に対して、目標でカバーする排出量は95%以上でなければならないと明記し、インベントリで5%除外したうえで、さらに目標で追加の5%を除外することはできないとしています。
SBTiがここまで厳格なのは、SBTiが見かけの削減率を良くするための線引きを許さず、企業活動の中核であるScope1・2を、透明性のある形でほぼ全量カバーすることを求めているからです。目標期間中に5%を超過した場合も、インベントリバウンダリに含めなければならないとしています。

なお、例外的な扱いとして、Scope1またはScope2のどちらかが「Scope1・2合算の5%未満」で非重要(immaterial)とみなされる場合、企業は95%超を占める側のスコープだけでSBTを設定することも可能とされています(ただし、両スコープの排出量報告は継続し、必要に応じて目標も調整する必要があります)。

Scope 3はどこまで求められるのか

Scope3目標が義務となる40%ルールや、Scope3全体の67%以上を対象にするC6の考え方など、どこまでバリューチェーン排出を目標化すべきかを整理しています。

主なポイント(要約/サマリー)

①:Scope3が総排出量の40%以上なら、Scope3目標設定は必須となる。
②:主要排出源を特定し、Scope3全体の67%以上を目標でカバーする必要がある。
③:Scope3の15カテゴリすべてを目標に含める必要はないが、排出の大きいホットスポットを中心に設定する。
④:化石燃料関連企業は、Scope3の排出割合に関係なく、目標設定を行うことが要件とされている

C4:Scope 3目標が「義務」になる条件

SBTiクライテリアにおける「C4」は、企業がScope 3排出の削減目標を必ず設定しなければならない条件を定めた要件です。原則として、Scope 3排出がScope 1・2・3合計の40%以上を占める場合、Scope 3目標の設定は義務となります。多くの企業では、原材料調達、物流、製品使用などが排出の大部分を占めるため、この条件に該当することがほとんどです。さらに、石油・ガス・石炭などの化石燃料関連企業については、40%未満であっても例外なくScope 3目標設定が必須とされています。これは、販売した燃料の使用時排出こそが、これらの企業の本質的な気候影響だからです。

C5:企業に求められるスコープ3排出量管理:除外は総排出量の5%以内

Scope3は15カテゴリ全部に対して目標設定しなければならないわけではありませんが、SBTiはScope3に対しても都合のよい切り取りを認めません。C5では、企業は自社のScope 3 GHGインベントリ(総量)から、5%を超えて排出量を除外してはならないと定めています。

ポイントは、Scope3の「目標設定」以前に、インベントリとしての網羅性・説明責任が前提になることです。SBTiは、排出が「小さい」「重要ではない」という主観的な理由を、未報告・未算定の根拠として認めない立場を明確にしており、たとえ軽微に見える活動でも、算定して報告するか、少なくとも「除外」として開示することが求められます。

そしてScope3の目標バウンダリについては、C6で別途ルールが設けられており、企業は総量や原単位での排出削減目標やサプライヤー/顧客エンゲージメント目標を組み合わせて、(報告+除外を含む)Scope3総排出量の少なくとも67%をカバーする必要があります。

つまり、Scope3は「全量を対象に目標化しない」余地はあっても、大半を対象外として削減しやすい対象のみとすることはできない設計です。

C5(Scope3排出量の5%以内の除外)とC6(Scope3排出量の67%以上のカバー率)はセットで理解すると、Scope3対応が「どこまでやればSBTiの審査要件に耐えるか」を実務として線引きしやすくなります。

C6:Scope3目標の「67%ルール」の実務

SBTiクライテリアにおける「C6」は、Scope 3目標を設定する際に、その対象範囲がScope 3排出全体の少なくとも67%以上をカバーすることを求める要件です。15カテゴリの全量を対象とする義務はありませんが、排出量の大きい主要カテゴリ、いわゆるホットスポットを中心に目標化することが求められます。実務では、まず全カテゴリの排出量を算定し、排出量上位カテゴリを合算して少なくとも67%を超える形で範囲を設定します。このルールは、削減が容易な一部だけを選び、実質的な影響の大きい排出源を避けるような目標設定を防ぐために設けられています。

目標は「科学的手法」でなければ意味がない

SBTi認定の手法・ツールを使う義務と、「最新バージョンのみ有効」という6か月ルールを踏まえ、独自ロジックではなく科学的パスウェイで目標を作る重要性を解説しています。

主なポイント(要約/サマリー)

①:SBTiが認定した業種別手法・ツールを用いる
②:「最新の科学的手法」であることが絶対条件
③:旧ツールはいつまで使えるのか

C7:SBTi認定手法・ツールを使う義務

SBTiクライテリアにおける「C7」は、SBTiの削減目標はSBTiが認定した手法・ツールを用いて算定しなければならないと定める要件です。企業が独自に設定した削減率や、任意のシナリオに基づく目標は原則として認められません。これは、目標の水準がパリ協定と整合していることを第三者が客観的に検証可能にするためです。業種別手法や共通ツールが用意されており、企業は自社の業態に適した最新バージョンの手法を用いて、科学的に裏付けられた削減目標を設定することが求められます。

手法更新と6か月ルールの実務インパクト

SBTiの目標算定手法やツールは、気候科学や国際シナリオの更新にあわせて定期的に改訂されます。このとき、旧手法の使用が認められるのは原則として新手法公開から6か月以内までという「6か月ルール」が設けられています。これにより、企業は限られた期間内にデータ整備や再計算への対応を迫られることになります。一方でこのルールは、すべての企業が同じ前提条件で目標を設定・比較できる状態を維持するための仕組みでもあります。実務では、手法更新の動向を早期に把握し、余裕をもって対応準備を進める体制づくりが重要になります。

排出量算定の信頼性を支える5つの重要ルール

Scope2算定アプローチの一貫性、Scope3インベントリの網羅性、生物起源排出・クレジット・削減貢献量の厳格な扱いなど、排出データの信頼性を担保する中核ルール群を整理しています。

主なポイント(要約/サマリー)

①:C8:Scope2ではロケーション基準とマーケット基準のいずれかで目標設定
②:C9:15カテゴリに基づきScope3インベントリを整備
③:C10:生物起源排出・除去は「相殺してはいけない」
④:C11:短期目標でカーボンクレジットが使えない理由
⑤:C12:「削減貢献量(Scope4)」がSBTに使えない本質的理由

C8・C9:Scope2の算定方法とScope3インベントリの必須化

SBTiクライテリアにおける「C8」は、Scope2排出の算定および目標に対する進捗状況の追跡においてロケーション基準とマーケット基準の両方を併用せず、いずれか一方に統一することを求める要件です。両基準を報告の際に使い分けると、削減実態よりも有利な数値操作が可能になってしまうためです。「C9」では、Scope3目標に含まれるか否か、また重要度や規模の大小にかかわらず、15カテゴリに基づくScope 3インベントリの整備を原則必須としています。これにより、企業は自社のバリューチェーン全体の排出構造を把握したうえで、実効性のある削減戦略を立案することが求められます。なおGHGプロトコル・ガイダンスに基づき、SBTiではScope3におけるマーケット基準での算定は認められていません。これには、報告企業がサプライヤーや顧客等に代わってマーケット基準の再生可能電力証書等を購入する場合も含まれます。一方で、サプライヤーや顧客などのバリューチェーンパートナー自身がマーケット基準に基づいて算定した一次排出データに基づくScope3排出量の報告は認められています。

C10・C11・C12:バイオ、クレジット、削減貢献量の厳格ルール

SBTiクライテリアにおける「C10」〜「C12」は、SBTiが「実排出の削減」に徹底的にこだわる姿勢を示す要件群です。まず「C10」では、生物起源排出やバイオエネルギー由来の排出について、排出と除去を安易に相殺してはならないと定めています。バイオエネルギーを使用する場合、燃焼時には生物起源であってもCO₂が排出されるため、その排出量はグロスで把握する必要があります。一方で、バイオマス原料に由来する吸収・除去量は、生物起源の排出・除去として区別して報告します。また、バイオエネルギーの燃焼に伴って発生するN₂OおよびCH₄については、通常の温室効果ガス排出として、該当するScopeおよびカテゴリでの報告が求められています。

SBTiクライテリアにおける「C11」では、短期目標においてカーボンクレジットの使用は一切認められていません。これは、クレジットによる相殺は自社の排出削減そのものではなく、「お金で埋め合わせている」に過ぎないという考え方に基づいています。SBTはあくまで、自社の事業活動そのものを脱炭素化するための目標であり、オフセットへの依存は本質的な解決にならないと位置づけられているのです。 さらにSBTiクライテリアにおける「C12」では、自社製品やサービスを通じて社会全体の排出削減に貢献したとしても、いわゆる「削減貢献量」はSBTの達成には算入できないと明確に示しています。貢献は評価されるべき取り組みではあるものの、それは自社の排出削減とは別次元の話であり、両者を混同すればSBTの厳格性が失われてしまいます。「C10」〜「C12」は、「削減したつもり」を排除し、実排出の削減のみを正当に評価するための根幹ルールだと言えるでしょう。

まとめ

本記事では、SBTi短期目標のC1〜C12を基に、バウンダリ設定やScope 1・2・3対応、算定ルールを整理し、実排出削減を軸とした脱炭素経営の実務ポイントを解説してきました。

主なポイント(要約/サマリー)

①:SBTi短期目標は、C1〜C12の認定基準に基づき、目標バウンダリ、Scope1・2・3、算定方法やデータ管理まで一貫性と網羅性が求められる。
②:SBTは単なる数値目標ではなく、企業がどこまで排出責任を負い、科学的根拠に基づいて実排出を削減するかを問う経営フレームワークである。
③:部分最適や恣意的な除外、クレジットや相殺への依存は認められず、Scope1・2の全面削減とScope3主要排出源への本格対応が不可欠である。 ④:C1〜C12の正確な理解は、SBTi審査対応にとどまらず、脱炭素戦略を実効性あるものとして社内外に説明・実装するための基盤となる。

C1〜C12から理解するSBT短期目標の本質と実務対応

本記事では、SBTi短期目標の認定基準であるC1〜C12を軸に、目標バウンダリの考え方、Scope1・2・3の扱い、算定手法やデータ管理の厳格なルールまでを体系的に整理してきました。SBTは単なる数値目標ではなく、「どこまでを自社の責任範囲として引き受け、科学的根拠に基づいて実排出をどのように減らすのか」を問う経営フレームワークです。部分最適や都合のよい除外、クレジットや相殺への依存は認められず、Scope1・2の全面的な削減、Scope3の主要排出源への本格的な対応、そして最新の認定手法に基づく一貫した算定が求められます。C1〜C12を正しく理解することは、SBTi審査に通るためだけでなく、脱炭素戦略を実効性のあるものとして社内外に説明するための土台となります。本記事が、SBTを「形式的な認定対応」ではなく、「事業変革につながる目標設定」として進めるための実務的な指針となれば幸いです。


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