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「カテゴリ1」算定の要、産業連関表とは?―金額ベース排出原単位の仕組みと、一次データへ進む第一歩

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サプライヤー一社ずつから排出量データを集めなくても、購入額さえ分かれば上流の排出量はおおよそ推計できます。これを可能にするのが、産業連関表から作られた金額ベースの排出原単位です。本記事では、Scope 3カテゴリ1(購入した製品・サービス)の算定で広く使われるこの仕組みを、データの出どころと使い方、精度の限界まで整理します。

監修者:株式会社ウェイストボックス 木塚晴久(環境ソリューション第1事業部 部長)
最終更新日:2026年6月20日

この記事を読んで欲しい人

  • Scope 3、とくにカテゴリ1(購入した製品・サービス)の算定を担当する実務者
  • サプライヤーから一次データを集めきれず、まず金額ベースで全体像をつかみたい方
  • 産業連関表ベースの排出原単位がどこから来て、どう使うのかを正確に理解したい方
  • 金額ベース原単位(GLIO)や環境省の排出原単位データベースの位置づけを整理したい方
  • 金額ベース算定の限界を踏まえ、次にどこから精緻化すべきか判断したい方

目次

  1. 産業連関表とは何か
  2. なぜカテゴリ1で産業連関表が要になるのか
  3. 金額ベース排出原単位の仕組みと算定式
  4. 排出原単位データの出どころと使い分け
  5. 金額ベース算定の限界
  6. 全体像から精緻化へ――一次データへ進む道筋
  7. よくある質問(FAQ)
  8. まとめ
  9. 参考資料
目次

1. 産業連関表とは何か

産業連関表とは、一定期間(通常は1年)に、各産業が「どの産業から何をいくら買ったか(投入)」と「どの産業へ何をいくら売ったか(産出)」を、行と列の行列形式で整理した経済統計です。日本では総務省など10府省庁が共同で作成しており、5年ごとに基本表が公表されます。最新の基本表は令和2年(2020年)表で、2024年に公表されました(総務省「産業連関表」)。

読み方のコツは、見る方向にあります。縦(列)方向に見ると、その産業が製品をつくるためにどの分野から原材料やサービスを調達したか、というコスト構造がわかります。横(行)方向に見ると、その産業の製品がどの産業や家計、輸出へ流れたか、という販売先がわかります。一枚の表で経済全体の取引のつながりを写し取った、いわば経済の地図といえます(図1)。

産業連関表の構造。縦=投入(調達・コスト構造)、横=産出(販売先)を示すマトリクス。図1 産業連関表の構造(縦=投入・横=産出)

産業連関表の特長は、需要の変化が経済全体に及ぼす「波及効果」を定量的に追える点にあります。ある製品への需要が増えれば、その製品をつくる原材料の生産(1次波及)、さらにその原材料をつくるエネルギーや素材の生産(2次波及)と、影響が連鎖していきます。この連鎖を計算できることが、サプライチェーン排出量の算定に直結します。なぜなら、環境負荷は目の前の最終製品だけでなく、その背後に広がる調達網の全体で発生しているからです。

2. なぜカテゴリ1で産業連関表が要になるのか

Scope 3は、自社の事業活動に関連する他社の排出量を15のカテゴリに分けて算定する枠組みです。そのなかでカテゴリ1「購入した製品・サービス」は、原材料や部品、外部サービスの調達に伴う上流の排出量を対象とし、多くの企業でScope 3全体の大きな割合を占めます。

カテゴリ1の算定では、本来であれば取引先ごとの実測値を積み上げるのが最も正確です。しかし、数百から数千に及ぶ取引先のすべてから排出量データを集めることは現実的ではありません。そこで、自社が把握している「購入金額」という身近なデータを手がかりに、上流の排出量を網羅的に推計する方法が用いられます。これが金額ベースの算定であり、その計算に使う排出原単位の土台が産業連関表です。

GHG Protocolの「Technical Guidance for Calculating Scope 3 Emissions」は、カテゴリ1の算定手法を4つに整理しています。サプライヤー固有法(supplier-specific method)、ハイブリッド法(hybrid method)、平均データ法(average-data method)、そして金額ベース法(spend-based method)です。前の2つは取引先からのデータ収集を前提とし、後の2つは業界平均などの2次データを用います。これらは「個々のサプライヤーにどれだけ固有か」という特定度の高い順に並んでいます(図2)。

カテゴリ1算定の4手法。サプライヤー固有法・ハイブリッド法は1次データ、平均データ法・金額ベース法は2次データを使用。図2 カテゴリ1算定の4手法と特定度

金額ベース法は4手法のなかで最も特定度が低い一方、購入実績の金額さえあれば調達全体を一度にカバーできるため、算定の出発点として広く使われています。GHG Protocolは、必ずしも最も特定度の高い手法から始める必要はないとしており、まず全体像を把握し、重要な部分から精緻化していく進め方を許容しています。

3. 金額ベース排出原単位の仕組みと算定式

金額ベースの算定式はシンプルです。環境省・経済産業省の「サプライチェーン排出量算定の基本ガイドライン」(Ver.2.8、2026年3月)は、カテゴリ1の算定方法②として、次の考え方を示しています。

CO₂排出量 = Σ{(自社が購入・取得した製品・サービスの物量・金額データ)×(排出原単位)}

ここで使う排出原単位が、産業連関表をもとにした「金額あたりの排出量」です。たとえば「鋼材を1百万円(100万円)分購入すると、その生産に伴って上流で何トンのCO₂が出るか」という係数で、単位はt-CO₂eq/百万円です。自社の支払額にこの原単位を掛け合わせることで、サプライチェーン上流(1次、2次、その先)の排出量を一括して推計できます。

なお、この基本ガイドラインは、サステナビリティ開示の文脈でも参照されます。SSBJ(サステナビリティ基準委員会)が公表した留意事項(2025年12月、環境省・経済産業省の確認済み)は、SSBJ基準でScope 1〜3排出量の開示が求められるなか、Scope 3の測定にあたり基本ガイドラインを参考にできるとしています。ただし、GHGプロトコル(2004年)と同様にScope 3測定を任意とする基本ガイドラインに対し、SSBJ基準ではScope 3が要求される点など、いくつかの差異に留意する必要があるとされています。なお、2026年6月には、SHK制度の方法で測定・報告する温室効果ガス排出を用いて気候基準に従う場合の実務対応基準第1号も公表されています。SSBJ基準への対応を見据える場合は、算定の段階からこの差異を意識しておくと、開示への移行がスムーズになります。

金額ベース算定の流れ。購入金額データ×排出原単位=上流排出量。計算例:熱間圧延鋼材10百万円×約23.2=約232 t-CO2eq。図3 金額ベース算定の流れ

具体的な原単位の水準を、環境省「排出原単位データベース」Ver.3.6の産業連関表ベースの値(GHG排出原単位、t-CO₂eq/百万円)から示します。実際の表(表5-1、GLIO:2005年表)から、本記事に関係する鉄鋼関連の行を抜き出すと図4のとおりです。たとえば熱間圧延鋼材は購入者価格ベースで約23.2、粗鋼(転炉)は約43.7というように、品目によって金額あたりの排出量が大きく異なることが読み取れます。

環境省排出原単位データベースVer.3.6 表5-1 産業連関表ベースの排出原単位(GLIO:2005年表)。見出しと、銑鉄・粗鋼・熱間圧延鋼材などの鉄鋼関連の行を抜粋し、中略部分を破線で示した。図4 環境省「排出原単位データベース」Ver.3.6 表5-1「産業連関表ベースの排出原単位(GLIO:2005年表)」より、見出しと鉄鋼関連の行(熱間圧延鋼材を含む)を抜粋(中略部分は破線) 出典:環境省「排出原単位データベース」Ver.3.6 [5]産業連関表ベースの排出原単位

たとえば熱間圧延鋼材を年間1,000万円(10百万円)分調達した場合、自社の支払額に対応する購入者価格ベースの原単位 約23.2 t-CO₂eq/百万円を用いると、10百万円 × 23.2 ≒ 約232 t-CO₂eqと推計できます。原単位には「生産者価格ベース」と「購入者価格ベース」の2種類があり、生産者価格は製品そのものの価格、購入者価格は流通マージンや輸送費を含めた購入時の価格を指します。自社の支出データがどちらの価格基準かを確認し、対応する原単位を選ぶことが、金額ベース算定の精度を左右する基本動作です。

4. 排出原単位データの出どころと使い分け

金額ベースの原単位がどこから来るのかを整理しておくと、データの選択や説明責任の場面で迷いにくくなります(図5)。

金額ベース排出原単位の系統。産業連関表(2005年表)をもとに国立環境研究所がGLIOとして環境負荷を結合し、環境省排出原単位データベースに実務用として収録。図5 金額ベース排出原単位の出どころ(系統)

出発点は、第1章で述べた総務省などの産業連関表です。これは経済の取引構造を示す統計であり、それ自体には環境負荷の情報は含まれません。この経済統計に各産業のエネルギー消費や温室効果ガス排出のデータを結びつけて、産業ごとの「金額あたり排出量」を算出したものが、産業連関表ベースの排出原単位です。

環境省データベースの金額ベース排出原単位(表5-1)は、国立環境研究所が産業連関表をもとに国際的なサプライチェーンの環境負荷を推計した「GLIO(グローバルサプライチェーンを考慮した環境負荷原単位)」の購入者価格原単位から算出されています。その基礎となる産業連関表は2005年表で、輸入を含む海外での排出まで捉えられる点に特徴があります。なぜ2005年表が使われているのかは、後半のFAQでも補足します。

実務で直接参照することが多いのは、こうした原単位をScope 3算定用に取りまとめた環境省「排出原単位データベース」です。同データベースは、産業連関表ベースの金額原単位(本記事で引用した値)に加えて、製品を工程ごとに積み上げる「積み上げ(プロセス)ベース」の原単位も収録しています。基本ガイドラインは、物量データが得られる場合は物量ベースが望ましく、得られない場合に金額データを用いる、という優先順位を示しています。

なお、積み上げ(プロセス)ベースの代表的なデータベースとして、産業技術総合研究所が開発するIDEA(Inventory Database for Environmental Analysis)があります。IDEAは物量ベースで製品単位の排出原単位を提供する有料データベースで、産業連関表から導かれる金額ベースの系統とは出自が異なります。図5の系統にIDEAを含めていないのはこのためです。IDEAの内容と使いどころは別記事で改めて整理する予定のため、本記事では金額ベース(産業連関表ベース)に焦点を絞ります。

簡潔に整理すると、産業連関表(経済統計)を土台に、国際的なサプライチェーンの環境負荷を結合した原単位が国立環境研究所のGLIO、それを実務向けに収録したものが環境省データベース、という関係になります。金額ベースは網羅性に優れ、積み上げベースは個別製品の精度に優れる、という役割の違いを押さえておくと、状況に応じた使い分けがしやすくなります。

5. 金額ベース算定の限界

金額ベースの算定は便利な一方で、いくつかの構造的な限界があります。これらを理解しないまま結果を扱うと、削減施策の判断を誤りかねません。

第一に、平均値の壁です。産業連関表ベースの原単位は、業界の平均的な生産活動を表します。そのため、自社がどれだけ環境配慮型の原材料を選んでも、金額ベースでは「平均的な製品」として計算され、調達努力が排出量に反映されにくいという弱点があります。

第二に、価格変動の影響です。金額ベースは「支払額×原単位」で計算するため、製品の価格が上がると、実際の使用量が変わらなくても排出量が増えたように見えてしまいます。インフレや為替の影響を受けやすい点は、経年比較の際にとくに注意が必要です。

第三に、タイムラグです。産業連関表は5年ごとの作成で、集計・公表にも時間を要します。最新の技術革新や急速な調達構造の変化が、原単位に反映されるまでには相応の遅れが生じます。

第四に、分類の粗さによるミスマッチです。自社の購入品目の区分と、原単位データの部門区分が完全には一致しないことがあります。基本ガイドラインも、保有する物量・金額データの分類区分と使用する原単位の区分がどの程度適合しているかが算定精度に影響する、と指摘しています。どの部門の原単位を当てるかの判断には、一定の知識と一貫性が求められます。

6. 全体像から精緻化へ――一次データへ進む道筋

これらの限界は、金額ベース算定を否定するものではありません。むしろ、金額ベースを「精緻化の出発点」として位置づけることで、その価値が生きてきます(図6)。

金額ベースで全体像を把握、ホットスポットを特定、重要先から一次データ収集へ進む3ステップ。図6 金額ベースから一次データへの精緻化ステップ

現実的な進め方は、次のようになります。まず金額ベースでカテゴリ1全体を網羅的に算定し、排出量の大きい品目やサプライヤー、すなわちホットスポットを特定します。次に、影響の大きい上位の調達先から優先的に一次データ(サプライヤー固有の排出量データ)を収集し、その部分を実測値に置き換えていきます。金額ベースと一次データを組み合わせるこの考え方は、GHG Protocolのハイブリッド法に対応します。

一次データへの切り替えには、削減努力が数字に反映されるようになる、開示の信頼性が高まる、サプライヤーとの対話が進む、といった利点があります。一次データを活用した算定の具体的な手順は、媒体内の記事「一次データを活用したScope3排出量算定の実務手順ガイド」で詳しく整理しています。本記事の金額ベース算定を入り口に、次の段階として併せて参照ください。

重要なのは、最初から完璧を目指すのではなく、まず網羅的に全体像を把握し、影響の大きい部分から段階的に精度を上げていくという順序です。この段階的な進め方が、限られた工数のなかで開示の質を高める現実的な道筋になります。

7. よくある質問(FAQ)

質問:カテゴリ1では物量データと金額データのどちらを使うべきですか。

回答:基本ガイドラインは、算定精度の観点から物量データが望ましいとしています。物量データが得られない場合の代替として金額データを用いる、という位置づけです。まず金額ベースで全体像を把握し、重要な品目から物量ベースや一次データへ移行する進め方が現実的です。

質問:生産者価格ベースと購入者価格ベースの原単位は、どう使い分けますか。

回答:生産者価格は製品そのものの価格、購入者価格は流通マージンや輸送費を含む購入時の価格を指します。自社の支出データがどちらの価格基準かを確認し、対応する原単位を選びます。一般に企業が把握しているのは購入時の支払額のため、購入者価格ベースが適合する場面が多くなります。

質問:金額ベースの排出原単位は、どこが作っているのですか。

回答:環境省データベースの金額ベース排出原単位(表5-1)は、国立環境研究所が産業連関表をもとに国際的なサプライチェーンの環境負荷を推計した「GLIO(グローバルサプライチェーンを考慮した環境負荷原単位)」の購入者価格原単位から算出されています。実務ではまず環境省データベースを参照し、その算出根拠としてGLIOがある、と理解しておくとよいでしょう。

質問:金額ベースでは削減努力が反映されないなら、使う意味はあるのでしょうか。

回答:金額ベースの主な役割は、調達全体を網羅的に把握し、排出量の大きいホットスポットを特定することにあります。削減努力を数字に反映させたい部分は、一次データへ切り替えて精緻化します。全体像の把握と精緻化の出発点として、金額ベースは有効です。

質問:原単位がなぜ2005年(GLIO:2005年表)の産業連関表に基づいているのですか。

回答:環境省データベースの金額ベース排出原単位は、国立環境研究所のGLIO(グローバルサプライチェーンを考慮した環境負荷原単位)の購入者価格原単位から算出されており、その基礎となる産業連関表が2005年表であるためです。GLIOは輸入を含む海外での排出まで捉えられる点に強みがあります。一方で、基礎統計が2005年表であることは時間的適合性の限界であり、環境省データベースも、デフレータ等を用いて物価変動の影響を軽減することが有効と注記しています。最新年次に即座に更新されていない点を理解したうえで、傾向の把握やホットスポットの特定に活用するのが実務的です。

まとめ

産業連関表は、経済の取引構造を一枚に写し取った統計であり、そこから作られる金額ベースの排出原単位が、Scope 3カテゴリ1算定の土台になります。購入額に原単位を掛けるだけで上流の排出量を網羅的に推計できる手軽さは、算定の入り口として大きな価値があります。

一方で、平均値の壁、価格変動の影響、タイムラグ、分類のミスマッチという限界も併せ持ちます。これらを踏まえ、まず金額ベースで全体像を把握してホットスポットを特定し、影響の大きい部分から一次データへ切り替えていく段階的な進め方が現実的です。完璧な精度を最初から求めるのではなく、網羅と精緻化を順に積み上げていく姿勢が、地に足のついた脱炭素経営につながります。

(執筆者:木塚)

参考資料

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