SBT(Science Based Targets)の取得方法を、最新ガイドラインに基づき実務目線で解説。登録から目標設定、検証、開示までの全体像と注意点を網羅。
※最終更新日 2025年12月
・SBT取得を検討している企業のサステナビリティ担当者
・Scope 3やサプライヤー対応に不安を感じている方
・「何から始めればいいのか分からない」実務責任者
・経営層への説明資料を準備する立場の方
導入
SBT(Science Based Targets)は、今や「環境意識の高い企業の任意施策」ではなく、取引先や投資家から当然のように求められる経営基盤の一部になりつつあります。一方で、実際にSBT取得を担当する立場になると、「登録だけで何を聞かれるのか」「Scope 3はどこまで必要なのか」「本当に自社で対応できるのか」と、不安や疑問が次々に浮かんできます。
私自身、最初にSBTの資料を読んだときは、基準や用語の多さに正直戸惑いました。本記事では、そうした実務上のつまずきやすい点を踏まえながら、SBT取得までの流れと実際にやるべきことを順序立てて解説します。この記事を読み終える頃には、SBT取得の全体像を説明でき、次の一手を具体的に描ける状態になるはずです。
SBTとは何か:制度の全体像と企業に求められる背景
概要
SBTは、企業の温室効果ガス削減目標が「気候科学に整合しているか」を第三者が検証する国際的な枠組みです。近年は取得の有無が企業評価に直結しています。
・SBTは任意だが、実質的には標準要件になりつつある
・1.5℃目標・ネットゼロとの明確な関係
・投資家・取引先からの要請が急増
なぜ今、SBTが企業に求められているのか
かつては「環境に配慮しています」という宣言だけでも評価される時代がありました。しかし現在は、どの基準に基づき、どの程度削減するのかが明確でなければ、ステークホルダーの信頼は得られません。SBTは、その「物差し」を世界共通で提供している点に価値があります。
特に欧州を中心とした投資家や大手企業は、サプライチェーン全体での脱炭素を前提に動いています。その結果、「SBTを取得しているかどうか」が、取引条件や評価項目に組み込まれるケースが増えました。
実務の現場では、「まだ義務ではないから後回しにしたい」という声も聞かれますが、いざ取引先から要請を受けてから着手すると、社内調整やデータ整備が間に合わないことも少なくありません。SBTは、余裕をもって準備することが何より重要です。
・「義務化前」に動けるかが差になる
・取引先・投資家の視点で考える
・広報施策ではなく経営基盤として捉える
SBTと他の環境目標(TCFD・CDP)との違い
SBTはTCFDやCDPと混同されがちですが、役割は異なります。TCFDは気候リスクの「開示フレームワーク」、CDPは環境情報の「回答・評価制度」です。一方、SBTは削減目標そのものの妥当性を検証する仕組みです。
実務的には、SBTを取得するとCDP回答の説得力が増し、TCFDで示す移行戦略とも整合が取りやすくなります。つまり、SBTは他制度の「土台」として機能します。
この関係性を理解しておくと、社内説明や経営層への説得もスムーズになります。
・SBTは「目標の中身」を問う制度
・他制度との重複作業を減らせる
・社内説明では役割の違いを整理
SBT取得までの全体プロセスを俯瞰する
概要
SBT取得は、登録から開示まで6つのステップで進みます。最初に全体像を把握することで、途中の迷走を防げます。
・登録・コミットは比較的シンプル
・本当に大変なのは目標策定
・検証後も開示義務が続く
登録・コミットメント段階でやるべきこと
最初のステップは、SBTi Servicesの検証ポータルへの企業登録です。登録自体は難しくありませんが、ここで企業区分(企業/金融機関/SME)と料金ティアが確定します。
その後のコミットメントは任意ですが、行うと「24か月以内に目標を提出する」という対外的な宣言になります。社内の合意形成が不十分なままコミットすると、目標提出が間に合わないなどの事態に陥る可能性もあるため注意が必要です。
・企業登録=即申請義務ではない
・コミット前に社内合意を取る
・料金ティアを事前に確認する
目標策定から検証までの流れ
SBT取得で最も工数がかかるのが基準年排出量算定と目標策定です。Scope 1・2は比較的対応しやすい一方、Scope 3はデータ収集や範囲設定、目標設定の種類の検討に想定以上に時間を要する場合があります。
排出量算定、目標策定後は検証ポータルから申請し、レビュアーとの質疑応答を経て認定可否が決まります。この過程では、排出量算定がGHGプロトコルやSBT基準に沿って実施されているかどうかの詳細な確認や、開示情報と申請内容とのギャップに対する方針などを問われます。
・Scope 3は早めに着手
・説明できるロジックを残す
・修正対応の時間も見込む
Scope 1・2・3別に見る目標設定の実務ポイント
概要
SBTではScopeごとに要件が異なります。特にScope 3の扱いが取得可否を左右します。
・Scope 1・2は1.5℃整合が必須
・Scope 3でエンゲージメント目標を設定する場合には注意が必要
・手法選択で難易度が変わる
Scope1・2目標設定の考え方
Scope 1・2は、自社の直接排出・購入電力や熱蒸気の間接排出が対象です。SBTでは原則として1.5℃整合が求められ、提出から5~10年の短期目標を設定します。
多くの企業では、省エネ施策や再エネ調達計画と連動させることで削減活動が可能です。Scope 1・2については「達成手段が現実的かどうか」をあらかじめ社内検討を実施することで、合意形成もスムーズに進むことが多いです。
・再エネ調達計画と連動
・達成可能性を過大評価しない
・中長期投資計画と整合させる
Scope 3とサプライヤーエンゲージメント
Scope 3が全体排出量の40%以上を占める場合、目標設定が必須です。セクター横断の基本的な目標設定の種類としては、主に、総量削減目標、物理的原単位削減目標、経済的原単位削減目標、サプライヤー/顧客エンゲージメント目標が選択肢となりますが、この中でも注意すべき目標種類としてサプライヤーエンゲージメント目標が挙げられます。
総量削減であっても多くの企業にとって排出量ホットスポットであるカテゴリ1の主な削減手段がサプライヤーエンゲージメントであるため、サプライヤーエンゲージメント目標は検討の際に候補に挙がりやすい傾向にあります。「主要サプライヤーの◯%がSBTを設定する」といった形で目標化できますが、取引関係や影響力を冷静に見極める必要があります。形式的に設定すると、後で実行段階に苦しむため注意が必要です。
・エンゲージメント目標の場合は、影響力のある範囲に絞る
・調達部門との連携が必須
・実行計画までセットで考える
検証・認定取得後に求められる対応とは
概要
SBTは取得して終わりではありません。取得後の開示・見直しが重要です。
・年次開示が義務
・5年ごとの必須レビュー
・再計算トリガーに注意
情報開示と進捗管理の実務
SBT取得後は、毎年排出量と進捗を開示する必要があります。CDP回答や統合報告書作成と連動させることで、作業負担を抑えられます。
また、M&Aや事業構造の変化があると、目標再計算が必要になる場合があります。
・開示媒体を統合する
・進捗管理をルーティン化
・変更時は早めに確認
よくあるつまずきとその回避策
よくあるケースとして、「取得後の運用が回らない」ことが挙げられます。担当者異動や体制変更で知見が失われることもあります。
文書化と社内共有が、長期的な安定運用の鍵になります。
・属人化を避ける
・判断根拠を残す
・定期的に見直す
SBT取得を成功させるための実務的アドバイス
概要
最後に、実務担当者として感じた成功のコツを整理します。
・完璧を目指さない
・社内巻き込みが最重要
・早めの着手が最大の対策
社内調整と経営層説明のコツ
SBTは一部門では完結しません。調達、経理、経営企画、各事業部との連携が不可欠です。
経営層には「リスク管理と競争力強化」という視点で説明すると理解が得やすくなります。
・数字より意味を伝える
・経営リスクとして整理
・外圧をうまく使う
外部支援を使うべきタイミング
すべてを内製する必要はありません。特に初めてSBTに臨む際には、外部専門家のレビューを活用することで手戻りを防げます。
重要なのは、「丸投げ」ではなく、自社で理解しながら進めることです。
・初回は外部のレビュー活用
・判断は自社で行う
・知見を社内に残す
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