下流の買い手企業向けに、AFiの考え方に基づき、森林破壊ゼロ・土地転換ゼロ(人権尊重のコミットメント設定含む)、進捗ロードマップ、履行と評価の考え方を整理します。
※本記事は、環境コンサルティング専門のWasteBoxが、最新の気候関連開示・企業動向をもとに実務的な観点で整理しています。
最終更新日:2025年12月30日
監修:株式会社Waste Box 小澤
(GHG排出量算定、SBT認定、CDP回答支援)
・メーカー、ブランド、小売企業でサステナビリティ/調達/CSR/ESGを担当している方
・森林破壊ゼロ、人権尊重のコミットメントを掲げているが、実行や評価に悩んでいる方
・サプライチェーンが複雑で、「どこまで・どの順で進めるべきか」を整理したい方
・「達成/未達」ではなく、継続的に改善している状態をどう示すかを明確にしたい方
森林破壊や土地転換、人権侵害といった課題に対し、企業の責任はサプライチェーン全体へと広がっています。なかでも、メーカーやブランド、小売といった下流の買い手企業は、自ら生産を行わない立場でありながら、調達要件や購買行動を通じて、サプライチェーン全体に大きな影響力を持つ存在です。
一方で、下流の買い手は複数のサプライヤーや仲介業者を通じて商品を調達することが一般的であり、その規模やサプライチェーンの構成によって、影響力や管理可能性には大きな差があります。こうした違いは、コミットメントがすべての商品・すべてのサプライチェーンを対象とすべきであるという前提を変えるものではありませんが、実行方法や進捗のスピードには現実的な制約をもたらします。
本稿では、Accountability Framework initiative(AFi)の考え方に基づき、下流の買い手が責任あるサプライチェーンを実現するために、どのようにコミットメントを設定すべきか、どのような進捗経路(ロードマップ)で実行すべきか、そしてどのような状態に至れば「履行している」と言えるのかを整理します。
「下流の買い手(メーカー、ブランド、小売など)」向けの指針
下流の買い手は、サプライチェーンの下流に位置しながらも、調達要件や購買行動を通じて、森林破壊や土地転換、人権侵害のリスクに対して大きな影響力を持つ主体です。一方で、複数のサプライヤーや仲介業者を介して商品を調達することが一般的であり、その規模やサプライチェーンの構成によって、サプライヤーに対する影響力や、購入製品のコンプライアンス状況を管理できる度合いには大きな違いがあります。
こうした違いは、コミットメントが関連するすべての商品、すべてのサプライチェーン、そして企業グループ全体を対象とすべきであるという基本的な期待を変えるものではありません。しかし、その実行方法や、事業のどの部分で、どの程度の速度でコンプライアンスを達成できるかには影響を与えます。そのため、下流の買い手には、自社の事業特性や影響力を踏まえたうえで、実行可能性と実効性を両立させたアプローチが求められます。
以下では、下流の買い手が責任あるサプライチェーンを実現するために、どのようにコミットメントを設定すべきか、どのような進捗経路(ロードマップ)で実行すべきか、そしてどのような状態に至ればコミットメントを履行していると言えるのかについて、AFiの考え方に基づいて整理します。
森林破壊ゼロ・土地転換ゼロ・人権尊重のコミットメントをどう設定すべきか
生産者やトレーダーと同様に、下流の買い手に求められるコミットメントは、企業のサプライチェーン全体に広く適用される、森林破壊ゼロ、土地転換ゼロ、そして人権を完全に尊重することを目指した成果志向の目標であるべきです。
また、責任あるサプライチェーンの達成と維持には、1)製品量のコンプライアンス、2)サプライヤーレベルでの関与と実績、3)調達地域レベルでの関与と実績、という相互に関連する3つのレベルにおける行動と実績を考慮する必要があります。コミットメントを設定する際、下流の買い手は、自社の事業特性や、前向きな変化を推進できる影響力(レバレッジ)の大きさを踏まえ、これら3つのレベルのうち、どこにどの程度の重点を置くべきかを慎重に検討する必要があります。
具体的には、製品量のコンプライアンスにとどまらず、サプライヤーレベルのパフォーマンス改善や、調達地域レベルでの介入を重視した、より広範なコミットメントを設定することが考えられます。このアプローチは、事業規模が大きく、特定のサプライヤーや地域に対して相当な影響力を有し、かつ追跡が困難な製品量を大量に取り扱う企業にとって、持続的かつ体系的な進捗を推進するうえで特に有効です。 一方で、製品量レベルでの遵守に焦点を当てたコミットメントを設定するという選択肢もあります。このアプローチは、調達数量の追跡が比較的容易な買い手や、特定の生産者または一次加工業者と直接的かつ長期的な関係を有する企業、あるいはサプライヤーに対する影響力が限定的な中小企業にとって、現実的かつ実行可能な選択肢となり得ます。
どのような進捗経路(ロードマップ)で実行すべきか
進捗経路(ロードマップ)は、購入量(ボリューム)のコンプライアンスに対する買い手の管理度合いや、サプライヤーおよび供給基盤全体に対する影響力(レバレッジ)の大きさを反映したものであるべきです。
進捗経路ではまず、基盤となるシステムを早期に確立し、その上で、事業の各部門や調達カテゴリーに応じて、製品量のコンプライアンスを段階的に高めるとともに、サプライヤーレベルおよび調達地域レベルでのパフォーマンス改善を進めていきます。
買い手が直接的な商業関係を持ち、大きな影響力を行使できるサプライチェーンの部分では、迅速な進捗や短期間での達成が期待されます。これには通常、戦略的サプライヤーや調達量の多い主要カテゴリーが含まれ、買い手は契約への要件組み込み、購買条件の適用、直接的な支援の提供などを通じて、実効性のある対応を取ることが可能です。
一方で、レバレッジが低い、あるいは構造的に複雑なサプライチェーンの部分では、明確な期限を伴うマイルストーンを設定した段階的なアプローチが必要となる場合があります。ただし、構造的な複雑性は無期限の免除理由にはなりません。企業は、時間の経過とともにトレーサビリティや管理体制を向上させるための積極的な取り組みを示し、進捗を裏付ける明確な証拠を提示すべきです。
以下は、こうした考慮事項を踏まえた進捗経路の主要要素の例です。これらは企業の行動計画やマイルストーンに組み込むことができますが、具体的な措置や時間枠はあくまで目安であり、各企業の状況に応じて調整されるべきものです。
基盤構築(0~2年目)
- 全商品・全供給源を対象とした高レベルのリスク評価を実施し、サプライチェーンを区分、期限付き目標とマイルストーンを設定
- サプライヤー要件・契約をコミットメントに沿って整備・強化し、全サプライヤーに周知
- 新規サプライヤーを審査・整合させる体制を確立
- トレーサビリティ、モニタリング、データ管理の仕組みを構築・導入
- 苦情処理メカニズムおよび権利保有者との対話チャネルを整備
- 高リスク調達地域でのモニタリングや、優先分野での連携・投資を開始
優先領域での履行(1~3年目)
- 戦略的サプライヤーや高調達量カテゴリーにおいて、トレーサビリティとコンプライアンスを優先的に達成
- コンプライアンス違反に対し、期限付き改善計画を策定し、商業条件と連動させて管理
- 把握が不十分な商品や複雑な供給構造について、トレーサビリティ改善とリスク軽減投資を実施
- 最もリスクの高い領域でモニタリングを強化
- 優先調達地域における関与と投資を拡大
全体展開と継続的改善(3~5年目以降)
- 限定的かつ期限付きの例外を除き、サプライチェーン全体へコンプライアンスを拡大
- トレーサビリティの残存ギャップに対し、投資と上流改善を通じて段階的に対応
- サプライヤー支援・能力向上プログラムを全体へ展開(特に小規模農家等)
- 調達地域レベルでの関与を継続・深化し、構造的課題への対応を強化
- 継続的なモニタリング、適応的管理、透明性のある報告を維持
どの状態になれば「コミットメントを履行している」と言えるのか
下流の買い手にとってコミットメントの履行とは、製品量のコンプライアンスを高い水準で維持することに加え、残存するギャップに対して継続的に対処・解決できる強固なシステムと措置を備えている状態を指します。
サプライチェーンは本質的に動的であるため、コンプライアンス状況が不明な原材料の発生を完全に防ぐことは困難です。そのため重点は、予防、最小化、そしてタイムリーな解決に置かれるべきです。AFiでは、下流の買い手が以下の二つの要素をともに実証している場合、コミットメントを履行していると整理しています。
1.製品量レベルでの高いコンプライアンス
- 全体として製品量の適合レベルが高く、適合が証明されていないカテゴリーについても、合理的に可能な最善の努力とそれに関連する進捗ペースが反映されている
- 既知の不適合がある製品量は、持続可能性の成果に資する正当な理由により保護され、期限付きの改善プロセスが実施されている
- コンプライアンス状況が不明な製品量は全体として低水準に抑えられ、トレーサビリティや管理の改善、ならびに関連する調達地域への影響に対応するための投資が重点的に行われている
- コンプライアンスが適切な証拠(必要に応じて独立した検証を含む)によって裏付けられている
- サプライチェーン全体において、持続的・反復的・体系的な非適合のパターンが存在しない
- サプライチェーン変革に重点が置かれている場合、調達規模に見合った重要かつ効果的な措置を講じられ、サプライヤーおよび調達地域レベルで有意義なパフォーマンス改善に貢献している
2.コンプライアンスを長期的に維持・向上させるためのシステム
- 国連ビジネスと人権に関する指導原則に則った、効果的な苦情処理メカニズムや権利保有者・ステークフォルダーとの継続的な対話を含む、機能する人権デュー・ディリジェンス
- コミットメントに整合したサプライヤーのオンボーディング要件および管理システムを確立し、期待事項と改善期限を明確に伝達している
- リスク評価、トレーサビリティ、モニタリングの仕組みを通じて、既存および新興リスクを特定し、パフォーマンスとコンプライアンスを検証している
- 調査、エスカレーション、取引停止、是正措置に関する明確な対応手順を有している
- 非準拠の根本原因に対処し改善を支援するため、技術的・財政的支援を含むサプライヤーエンゲージメントおよび能力構築プログラムを実施している(特に小規模農家や能力制約のあるサプライヤーを重視)
- 調達パターン、リスクエクスポージャー、実施体制、コミットメントに対する進捗と成果について、透明性のある情報開示を行っている
まとめ
本コラムでは、Accountability Framework initiative(AFi)の考え方を軸に、**下流の買い手(メーカー・ブランド・小売)**が森林破壊ゼロ・土地転換ゼロ・人権尊重のコミットメントを、どのように設定し、どのような進捗経路(ロードマップ)で実行し、どの状態に至れば「履行している」と言えるのかを整理しました。
AFiが一貫して示しているのは、以下の両立です。
・全商品・全サプライチェーンを対象とする成果志向のコミットメント
・影響力(レバレッジ)や管理可能性の違いを踏まえた段階的・実務的な実行
特に下流の買い手にとって重要なのは、
- 製品量のコンプライアンスだけに閉じないこと
- サプライヤーおよび調達地域レベルでの関与と改善を並行して進めること
- 「達成/未達」という二元論ではなく、残存ギャップにどう向き合い、どう改善し続けているかを示すこと
です。
AFiが示す「履行している状態」とは、100%の完全性を即座に達成している状態ではなく、高いコンプライアンス水準と、非適合を予防・特定・是正し続けるための強固なシステムが機能している状態である、という点は、実務において非常に重要な示唆と言えるでしょう。
どこから・どの順で進めればよいかが分からないという悩みが、下流の買い手企業に非常に多いと考えます。
AFiの枠組みは、そうした現場の悩みに対し、理想論に偏らず、かといって実行の先送りを許さず企業の影響力と制約の両方を正面から認めたうえで「進捗の示し方」そのものを評価対象に含めている点に、大きな価値があると感じます。
参考文献:
AFi_Operational_Guidance_-_Commitments_and_Progress_Pathways__2025-12_.pdf

