科学的根拠に基づく目標イニシアティブ(SBTi)は、企業が気候変動との闘いにおいて、その役割を果たすことを可能にする企業の気候変動対策の組織です。SBTiが開発する基準とツールは、地球温暖化を1.5°Cに制限するというパリ協定の目標に沿った排出量削減目標を設定する上で不可欠です。多くの企業にとって、スコープ3(バリューチェーン)排出量が総排出量の大部分を占めるため、SBTiは今回、「サプライヤー・エンゲージメント・ガイダンス」を公開しました。このガイダンスは、企業がサプライヤーと協働し、バリューチェーンからの排出量を大幅に削減するための体系的で明確な道筋を提供します。本記事では、この重要なガイダンスの概要と、企業に求められる協働戦略について、関連する公式文書に基づいて解説します。
※最終更新日 2025年12月
・科学的根拠に基づく目標(SBT)を既に設定している企業のサプライチェーン担当者。
・スコープ3排出量の削減目標の達成に課題を抱える企業(コーポレート)の関係者。
・サプライヤーとの排出量削減に関する協働戦略の構築を目指す担当者。
・SBTiのサプライヤー・エンゲージメント目標の設定と報告に関心を持つ人。
・企業の気候目標における信頼性(クレディビリティ)と透明性を高めたい経営企画部門。
サプライヤー・エンゲージメントの戦略的意義
科学的根拠に基づく目標イニシアティブ(SBTi)のサプライヤー・エンゲージメント・ガイダンスは、企業がサプライヤーと協働し、バリューチェーンからの排出量を大幅に削減することを可能にするためのガイダンスです。SBTiの使命は、企業の気候変動対策を科学に整合させることです。多くの企業にとって、スコープ3(バリューチェーン)排出量は総排出量の大部分を占めます。したがって、目標を達成し、気候変動の最悪の影響を緩和するためには、サプライヤーの排出量を削減することが不可欠です。サプライヤー・エンゲージメントは、企業がサプライヤーと連携して排出量の測定、報告、削減に取り組むプロセスと定義されます。これは、短期および長期の科学的根拠に基づく目標の達成に向けて、実質的で持続可能な変化を推進する戦略的な責務です。SBTiは、サプライヤーが自主的に排出量削減目標を設定し、達成することを奨励します。このガイダンスは、企業が排出量の削減に貢献する最も効果的なサプライヤーを特定し、関与するための実用的な道筋を提供します。エンゲージメントの成功は、企業が地球温暖化を1.5°Cに制限する道筋を追求する上で、企業自身の排出管理の範囲外にある排出量に影響を与えるための最も強力なツールであり、企業自身の気候目標の信頼性を強化します。
サプライヤーと協働することは、単に排出量を削減するだけでなく、企業に広範な戦略的な利点をもたらします。協働は、バリューチェーンにおける物理的リスクや移行リスクに対するレジリエンスを向上させます。企業はサプライヤーと密接に連携することで、排出量削減に関する革新と効率の向上を促進し、結果として競争優位性を獲得することができます。サプライヤーへの支援と能力構築は、より強固で信頼できる関係を構築し、サプライチェーンの安定性を高めます。成功したエンゲージメントは、コスト削減の機会を生み出すとともに、市場における企業の持続可能性リーダーシップを示します。また、排出量削減への取組は、投資家や顧客の期待に応えるための重要な要素です。サプライヤーが科学的根拠に基づく目標を採用することは、企業の長期的なネットゼロ目標への貢献を保証します。この協働を通して、企業はバリューチェーン全体で持続可能な慣行を定着させることができます。この協働は単に排出水準を下げるだけでなく、サプライヤーの環境パフォーマンスを全体的に向上させ、バリューチェーンの持続可能性を高めます。協働を通じて構築される強固な関係は、長期的な供給保証とリスクの低減に貢献します。
ターゲット設定のための評価と測定
サプライヤー・エンゲージメントを成功させるための最初のステップは、スコープ3排出量、特にサプライヤーに関連するカテゴリーの排出量を正確に定量化し、集計することです。企業は、サプライヤーから直接データ を収集するか、二次データや業界平均を使用して排出量を計算します。排出量を追跡し、報告する際の課題は、データの一貫性と利用可能な排出係数の品質にあります。企業は、サプライヤーの排出量を正確に把握するために、排出量インベントリの透明性を高める必要があります。集計された排出量データは、エンゲージメントの目標を設定し、進捗を測定するためのベースラインを確立するための基礎となります。排出量の定量化は、最も影響の大きいサプライヤーや排出ホットスポットを特定することを可能にし、エンゲージメント努力の優先順位を効果的に決定するために重要です。企業は、排出の算定と報告に関する国際的な基準を遵守しなければなりません。排出量の定量化は、排出インベントリの透明性によって裏付けられ、データ収集方法の一貫性が信頼性を高めます。
効果的なサプライヤー・エンゲージメントの目標を設定するためには、堅牢なベースラインの確立が不可欠です。ベースラインは、サプライヤーの排出量が削減努力の開始前にどの程度であったかを示す基準となります。企業は、サプライヤーの排出量の最新かつ包括的なデータを使用してベースラインを定義しなければなりません。SBTiは、サプライヤーが科学的根拠に基づく目標を自主的に採用することを推奨しており、これがサプライヤー・エンゲージメント目標の最も野心的で信頼できる形式の一つとされます。目標設定は、排出量の測定可能な削減を確実に達成できるように、明確で適切でなければなりません。目標の測定可能性を確保するためには、一貫性のあるデータ収集と報告プロセスが必要です。ベースラインの定義は、目標が時間の経過とともに進捗を正確に追跡し、適切な調整を行うための基盤を提供します。目標の信頼性は、その測定の堅牢性に依存し、ベースラインはエンゲージメントプログラムの開始を正確に示します。
効果的なエンゲージメント戦略の構築
限られたリソースを最大限に活用し、最大の排出量削減を達成するためには、サプライヤーの選定と優先順位の決定が重要です。企業は、排出量への影響度に基づき、サプライヤーを優先しなければなりません。これは、自社のスコープ3排出量に最も大きく貢献しているサプライヤーを特定することを意味します。選定基準には、サプライヤーの排出水準、事業の規模、協働への意欲、排出量を削減する潜在能力が含まれます。最も効果的なアプローチは、排出が集中しているカテゴリーや地域に焦点を当てることです。目標にコミットするサプライヤーを特定することは、エンゲージメント努力の成功の鍵です。優先順位付けのプロセスは、企業がサプライヤーの排出量削減への取組を明確に伝えるための基盤となります。サプライヤーの選定は、排出量への影響が最大となる場所にリソースを集中させるための戦略的な決定です。
効果的なサプライヤー・エンゲージメントは、単なるデータ要求を超えた、継続的で建設的な対話と協働を必要とします。企業は、排出量削減を促進するための明確なコミュニケーションのフレームワークを構築しなければなりません。協働の形式には、共同のトレーニングや能力構築プログラム の実施、技術的な支援の提供、排出量の追跡と報告に関するガイダンスの提供が含まれます。インセンティブの提供は、サプライヤーの関与と達成を促す強力な手段となります。これには、長期契約の保証や優遇的な取引条件が含まれる場合があります。協働の目標は、サプライヤーが自主的に科学的根拠に基づく目標を設定し、達成できるよう支援することです。エンゲージメントの成功は、サプライヤーとの継続的な対話の質に依存します。インセンティブは、排出量削減を達成したサプライヤーへの長期契約や優遇的な取引条件を通じて、協働への動機を高めます。
サプライヤー・エンゲージメントの報告と透明性
サプライヤー・エンゲージメントの取組の成功を測定し、ステークホルダーへの説明責任を果たすためには、進捗の追跡と定期的な報告が義務づけられます。企業は、サプライヤーが科学的根拠に基づく目標を設定した数や、目標にコミットしたサプライヤーの割合など、特定の指標を使用して進捗を測定しなければなりません。追跡は年次で行われ、目標に対する進捗が正確に評価される必要があります。測定された指標を使用して、目標の達成に向けて企業がどれだけ前進しているかを示さなければなりません。報告の透明性を確保するために、データ収集の方法と使用された仮定を明確に文書化する必要があります。定期的な報告は、目標の設定と達成に関する企業の信頼性を維持するために不可欠です。目標にコミットしたサプライヤーの割合などの指標は、企業がどれだけ効果的にバリューチェーンに影響を与えているかを測ります。
サプライヤー・エンゲージメントの結果を公開し、その信頼性(クレディビリティ)を維持することは、企業の持続可能性リーダーシップを示す上で重要です。企業は、年次報告書やCDPなどのプラットフォーム を通して、サプライヤー・エンゲージメント目標と進捗に関する情報を開示しなければなりません。報告の信頼性を高めるためには、開示されたデータが正確で検証可能であることが必要です。ステークホルダーは、企業がスコープ3排出量の削減に真剣に取り組んでいることを期待しており、透明な報告はこの期待に応えます。報告の検証は、目標の設定と進捗の測定がSBTiの基準に適合していることを保証するために推奨されます。報告の正確性と検証可能性は極めて重要であり、企業の気候目標への真剣な取組を示します。この厳格な公開報告は、企業の排出管理における透明性を強化します。
サプライヤー支援のためのツールとリソース
多くのサプライヤー、特に中小企業(SMEs)は、排出量を測定し、削減するためのリソースや専門知識が不足しています。企業は、サプライヤーの能力構築を支援するために、体系的なトレーニングと教育プログラムを提供しなければなりません。これらのプログラムは、GHGインベントリの作成、削減計画の開発、排出量データの報告に関するガイダンスを提供すべきです。サプライヤーの規模や地域に合わせたツールや技術的な支援を提供することは、排出量削減を促進する上で重要です。能力構築は、サプライヤーが自主的に科学的根拠に基づく目標を設定し、その目標に向かって効果的に進捗するための基盤を築きます。能力構築プログラムは、GHG算定や削減計画の開発に関する専門知識を不足しているサプライヤーに提供するために不可欠です。技術的な支援とツールの提供は、削減努力を実行可能にします。
排出量削減への移行には投資が必要であり、企業はサプライヤーに対して資金調達の機会や経済的なインセンティブを提供することを検討すべきです。インセンティブメカニズムには、優遇的な融資条件、長期契約の保証、または排出量の削減を達成したサプライヤーへの報奨が含まれる場合があります。グリーン調達プログラムを確立することは、低排出の製品やサービスを提供するサプライヤーに対して市場の機会を提供します。コスト削減の機会を特定し、その情報をサプライヤーと共有することも、エンゲージメントの重要な要素です。資金調達とインセンティブの活用は、サプライヤーが変革を加速させ、排出量削減を自社の事業に統合するための実行可能な道筋を提供します。経済的なインセンティブは、サプライヤーが低排出の技術や慣行に投資するための障壁を低くします。グリーン調達プログラムは、低排出の製品やサービスに対する市場の需要を創出し、変革をさらに加速させます。
バリューチェーン全体の目標設定
スコープ3の目標設定は、データの収集と算定の複雑性から特に課題が多い領域です。スコープ3排出量は多くのカテゴリーに分類され、その中で購入した製品とサービス(サプライヤーに関連するカテゴリー)が排出量の大部分を占めることが多いです。企業は、自社のバリューチェーンの特性に合わせた適切なアプローチを選択しなければなりません。SBTiは、サプライヤーが自主的に科学的根拠に基づく目標を設定することを目標とする、サプライヤー・エンゲージメント目標を推奨しています。他のアプローチには、排出量の総量削減目標や、経済的原単位目標が含まれる場合があります。目標が科学的根拠に整合していることを保証するためには、スコープ3排出量の少なくとも2/3をカバーしなければなりません。サプライヤー・エンゲージメントは、企業がスコープ3排出量に影響を与えるための最も強力なツールであり、スコープ3の排出量が総排出量の大部分を占めることから、サプライヤーの削減努力は企業の長期目標に直接貢献します。
サプライヤー・エンゲージメントは、企業が長期の科学的根拠に基づく目標、究極的にはネットゼロ目標に到達するための不可欠な要素であり、戦略的な統合手段です。長期目標は、遅くとも2050年までにバリューチェーン全体のGHG排出量をネットゼロに到達させるための目標です。サプライヤーが短期目標を設定し、達成することは、企業の長期目標への貢献を保証します。ネットゼロの達成に向けて、企業はサプライヤーと協働して継続的な排出量削減の野心を維持し、時間軸を設定しなければなりません。長期的な協働と変革は、バリューチェーン全体で脱炭素化を加速させるための鍵です。企業は、サプライヤーに対して科学的根拠に基づく目標の設定を促すことで、バリューチェーン全体で継続的な野心を維持することを保証しなければなりません。この協働は、遅くとも2050年までにGHG排出量をネットゼロに到達させるための明確な時間軸と道筋を提供します。
企業がとるべき次のステップ
サプライヤー・エンゲージメントを成功させるために、企業は体系的なアプローチを採用しなければなりません。最初に、スコープ3排出量、特にサプライヤーに関連する排出量を正確に測定し、排出ホットスポットを特定します。次に、影響度に基づき、エンゲージメント努力の優先順位を決定します。そして、明確で測定可能なサプライヤー・エンゲージメント目標を設定し、SBTiの基準に整合させます。エンゲージメントの開始に際しては、サプライヤーに対して能力構築プログラムや資金調達の機会などの支援を提供し、協働を促進します。目標の達成に向けて進捗を定期的に追跡し、その結果をステークホルダーに対して透明に報告しなければなりません。このガイダンスの活用は、企業がスコープ3排出量の課題に対処し、持続可能なバリューチェーンを構築するための基盤となります。この一連の体系的なステップ(排出量の測定、戦略的な優先順位付け、協働、そして透明な報告)を通じて、サプライヤー・エンゲージメントの成功は達成されます。
サプライヤー・エンゲージメントの企業事例:H&M Group:再生可能エネルギーへの移行支援
H&M Groupは、サプライヤー・エンゲージメントの取組を通し、そのサプライチェーンにおける排出量削減を強力に推進しています。同社は、目標の達成に向けて、主要なサプライヤーに対し、科学的根拠に基づく目標の設定を要求しています。H&M Groupの協働は、特に製造拠点のエネルギー効率化、そして再生可能エネルギーへの移行に焦点を当てています。同社は、サプライヤーが低排出の技術や慣行にアクセスできるよう、技術的な支援を提供しています。この戦略は、サプライヤーの排出データ の収集を強化し、バリューチェーンの透明性を高めることを含みます。サプライヤーへの能力構築プログラムは、目標を設定し、達成するための専門知識を提供し、重要な役割を果たしています。H&M Groupの取組は、サプライヤーとの強固な関係を基盤としており、ファッション業界における排出量削減と持続可能な製造の変革を加速させています。サプライヤーの自主的な目標設定を促すことで、同社は長期的なネットゼロ目標への貢献を保証しています。
サプライヤー・エンゲージメントの企業事例:Salesforce:クラウドとハードウェアサプライヤーとの協働
Salesforceは、その事業の性質上、クラウドサービスやハードウェアに依存しており、これら主要なサプライヤーと協働することで、自社のネットゼロ目標を支援しています。同社は、特にクラウドおよびハードウェアのサプライヤーに対し、再生可能エネルギーの調達と利用を促すことに焦点を当てたエンゲージメント戦略を実行しています。これは、ITインフラストラクチャにおける排出量の削減がスコープ3目標達成の鍵となるためです。Salesforceのエンゲージメントアプローチは、サプライヤーの排出量の測定と報告の信頼性および一貫性を改善するためのツールとガイダンスの提供を含みます。同社は、サプライヤーの目標設定を積極的に支援し、排出量削減のロードマップを共有しています。この協働は、サプライヤーが自らの科学的根拠に基づく目標を採用し、排出量の大幅な削減に貢献することを可能にし、バリューチェーン全体の持続可能性を強化しています。Salesforceの事例は、サービス業や技術分野においても、サプライヤーとの戦略的な協働が不可欠であることを示しています。
サプライヤー・エンゲージメントの企業事例:AstraZeneca:革新的な支援と製造プロセスの改善
AstraZenecaは、医薬品業界におけるサプライヤー・エンゲージメントの革新的なアプローチを示しています。同社は、その広範なバリューチェーンに依存する事業特性を踏まえ、サプライヤーに対して排出量削減目標の設定を求めるだけでなく、排出量の削減を達成するための実際的な支援と協働を積極的に提供しています。AstraZenecaの戦略は、製造プロセスの効率化、再生可能エネルギーの導入、そして水の使用や廃棄物管理に関する持続可能性慣行の改善をサプライヤーに促すことを含みます。同社は、サプライヤーの排出量の追跡と報告を支援するためのデジタルツール を活用しています。この取組は、サプライヤーが科学的根拠に基づく目標に整合した目標を自主的に採用することを促し、サプライヤーの能力構築に大きく貢献しています。AstraZenecaのエンゲージメントは、強固なパートナーシップを通じて持続可能なサプライチェーンを構築し、企業の長期的なネットゼロ目標の達成に向けて重要な進捗を示しており、他の業界への模範となっています。
SBTiのサプライヤー・エンゲージメント・ガイダンスは、企業がスコープ3排出量の課題に対処するための体系的な枠組みを提供します。協働を通して、企業はサプライヤーに対して科学的根拠に基づく目標の設定を促し、能力構築と資金調達の機会などの支援を提供できます。H&M Group、Salesforce、AstraZenecaの事例が示すように、戦略的なエンゲージメントは排出量の大幅な削減を可能にし、企業の気候目標の信頼性とバリューチェーンのレジリエンスを強化します。企業はこのガイダンスを活用し、透明な報告と継続的な協働を通して、持続可能な未来への貢献を加速しなければなりません。
ウェイストボックスでは、サプライヤーエンゲージメント支援を実施しています。サプライヤーの皆様向けの説明会に始まり、排出量や排出削減目標に関するデータ収集方法(自社質問票やシステムの活用)、収集データの分析、自社のスコープ3への反映まで、一貫した支援が可能です。ぜひご相談ください。

