日本は改定「地球温暖化対策計画」で、2035年度60%減、2040年度73%減(いずれも2013年度比)の新目標を設定し、NDCとして国連に提出。世界排出が過去最高となる中、企業が投資・調達・開示を2035・2040の時間軸で組み替えるための要点を整理します。
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- 2035・2040を前提に、設備投資・事業ポートフォリオ・競争戦略を見直したい方
- 自社の移行計画を「直線的な経路」で説明できる形に整えたい方
- 取引先要件(排出データ、再エネ、投資計画)への対応を、サプライチェーン全体で設計したい方
導入
脱炭素はもはや「やるかどうか」ではありません。設備更新、電力調達、原材料の選定、取引先への説明、金融機関との対話——企業活動の要所が、いま「どの水準まで、いつまでに下げるのか」という時間軸の問題に集約されています。その時間軸を社会全体で揃える“背骨”が、国が国際社会に示す削減目標であるNDC(国が決定する貢献)です。
日本は、1.5℃目標と整合する形で、2050年ネット・ゼロ、2030年度に2013年度比46%削減(さらに50%の高みに向けて挑戦)という目標を掲げてきました。足元の実績として、2023年度時点で2013年度比27.1%削減まで進んでいます。さらに2025年2月、改定「地球温暖化対策計画」で、2035年度60%削減、2040年度73%削減(いずれも2013年度比)という新たな目標が設定され、同日これがNDCとして国連(UNFCCC)に提出されました。
ここで重要なのは、2030の先に「2035」「2040」という到達点が置かれたことです。企業の投資や調達は、10年単位で固定化します。2035・2040が見えると、意思決定の評価軸も「2030に間に合うか」から、「2040まで説明できるか」へ変わります。
世界の温室効果ガスは増えている
国内の削減努力が進んでも、世界全体の排出が増え続ける限り、1.5℃目標との距離は縮まりません。2023年の世界の温室効果ガス総排出量は、前年比1.3%増の約571億トンCO₂eに達し、過去最高となりました。 世界の温室効果ガス排出が増加すると、1.5℃目標との乖離が拡大します。この乖離を縮小するため、各国は目標達成に必要な制度設計や支援策の見直し・強化を進めやすくなり、企業にとっては投資判断の前提(要件・コスト)が変化する頻度が高まります。
同時に、取引先や投資家は、将来目標の表明にとどまらず、削減手段と投資計画を含む実行可能な移行計画(設備更新、電力・燃料の切替、投資額とスケジュール)を重視する傾向が強まります。
こうした要請が企業単体にとどまらないのは、取引先自身も自社の削減目標や顧客要件を満たす必要があり、調達先の排出が取引先の排出実績・説明責任に直結するためです。その結果、排出削減の説明と改善は、自社の事業活動に加え、部材・原材料・物流・外部委託など取引関係を含む範囲まで求められやすくなります。
日本の新目標 ー新目標が示す意味
冒頭でも述べたように、日本は、2025年2月に閣議決定された改定「地球温暖化対策計画」で、2035年度に60%削減、2040年度に73%削減(いずれも2013年度比)という中期目標を新たに設定し、同日この目標をNDCとして国連(UNFCCC)へ提出しました。
この中期目標の意味は、「数字が増えた」こと自体よりも、2030→2035→2040→2050が、1.5℃目標と整合する「直線的な経路」として接続された点にあります。直線的経路とは、2030の達成をゴールにするのではなく、2030以降も同じ方向で削減を積み重ね、2050ネット・ゼロへ連続的につなぐ設計です。
足元の状況として、日本の2023年の温室効果ガス排出・吸収量(排出から吸収を引いた値)は10億1700万トンCO₂eで、前年度比4.2%減、2013年比27.1%減です。減少要因として、電源の脱炭素化(再エネ+原子力が3割超)や、製造業の国内生産の減少に伴うエネルギー消費量の減少などが挙げられています。
ここから導ける実務上の含意は、「削減を継続すればよい」とう一般論ではありません。論点は次の二つです。
第一に、直線的な経路が示されると、削減は「景気や生産量の変動で一時的に下がる局面があっても、長期としては下げ続けることが前提になります。2023年度の減少要因に「国内生産活動の減少」が含まれるということは、排出が経済活動の増減に影響され得ることを意味します。いたがって、2035・2040の目標を現実に達成するには、景気循環や需要変動に左右されにくい削減手段――例えば電力の低炭素化を前提とした電化、省エネ、燃料転換、工程改善など――へ、削減の重心を移していく必要があります。減少の要因に「電源の脱炭素化」が挙げられている点は、まさにこの方向性と整合します。
第二に、中期目標が置かれたことで、企業の意思決定は「2030までの対策」で完結しにくくなります。設備・インフラ・サプライチェーンは一度決めると長期間固定化し、更新のタイミングも限られます。2035・2040という到達点が明示されると、投資判断は「今の規制に合うか」だけでなく、更新後の資産が2035・2040の経路と整合するかという観点で評価されやすくなります。つまり、直線的経路は、企業の脱炭素を「追加施策」だけでなく「資産更新と経営管理の問題」に引き上げる概念です。
参考文献
「令和7年版 環境・循環型社会・生物多様性白書」(環境省)full.pdf

