サステナビリティや脱炭素を考える上で、環境負荷が「どこで」「どのように」発生しているのかを構造的に捉えることは欠かせません。本記事では、産業連関表の基本的な仕組みを解説しながら、経済と環境のつながりを読み解くための視点を紹介します。
最終更新日:2026年3月16日
・サステナビリティ、ESG、脱炭素、資源循環に関心のある方
・環境や社会課題を「構造として理解したい」ビジネスパーソン
・政策・行政・調査業務などで経済データを扱う方
・産業連関表という言葉は聞いたことがあるが、具体的に何が分かるのか分からないと感じている方造と結びつけて考えたい方
導入
近年、サステナビリティや脱炭素、資源循環といった言葉が日常的に使われるようになってきました。一方で、「どこで」「どのように」環境負荷が生じているかを、経済全体の構造として捉えることは容易ではありません。
産業連関表は、産業同士の取引関係を通じて、経済のつながりを可視化するための統計です。本コラムでは、産業連関表の基本的な考え方を整理しながら、サステナビリティの視点で何が見えてくるのかを解説します。
経済は「つながり」でできている
私たちは日常的に「この産業が成長している」といった表現を使いますが、現実の経済で産業が単独で存在することはありません。自動車産業は鉄鋼や電子部品に支えられ、ITサービスは電力や通信インフラなしには成り立ちません。 経済は、無数の産業同士の取引が編み目のように絡み合ったネットワークです。ある産業の動きは、必ず別の産業へと波及します。産業連関表は、この複雑な「つながり」を一枚の大きな表として可視化した、経済の地図なのです。
産業連関表とは
産業連関表とは、一定期間(通常は1年)において、各産業が「どの産業から何をいくら買ったか(投入)」、そして「どの産業へ何をいくら売ったか(産出)」を整理した行列形式の統計です。
読み方のコツは、視点の方向にあります。
- 「縦(列)」に見る: その産業が製品を作るために、どの分野から原材料やサービスを調達したか(コスト構造)がわかります。
- 「横(行)」に見る: その産業の製品が、他のどの産業や消費者(家計)、あるいは輸出へと流れていったか(販売先)がわかります。
日本では総務省をはじめとする複数の省庁が共同で作成しており、経済全体の構造を把握するための最も信頼性の高い基礎資料の一つです。
産業連関表からわかること
産業連関表の最大の武器は、「波及効果」を定量的に計算できる点にあります。 例えば、ある新製品への需要が1億円増えたとします。すると、その製品を作るための原材料(1次波及)、その原材料を作るためのエネルギーや素材(2次波及)……といった具合に、経済全体に影響が連鎖していきます。
この性質は、サステナビリティを考える上で極めて重要です。なぜなら、環境負荷や資源消費は、目の前の最終製品だけでなく、その背後にある広大なサプライチェーン全体で発生しているからです。産業連関表を使えば、一見すると環境負荷が小さそうなサービス業であっても、その裏側でどれだけのエネルギーや資源が使われているかを構造的に把握できるのです。
排出量算定と産業連関表
現在、多くの企業が取り組んでいるScope 3(サプライチェーン排出量)の算定において、産業連関表は欠かせない存在です。
特に「カテゴリ1:購入した製品・サービス」の算定では、全てのサプライヤーから直接データをもらうことは困難です。そこで、「産業連関表ベースの排出原単位」(例:鉄鋼100万円あたり〇〇t-CO2)が活用されます。 「自社がいくら支払ったか」という金額データに、この原単位を掛け合わせることで、サプライチェーンの上流(1次、2次、その先)で発生している排出量を網羅的に推計できるのです。
平均から「自社実績」への進化 まとめ
一方で、産業連関表は万能ではありません。実務で活用する際には、以下の2点に注意が必要です。
- 「平均値」の壁: 産業連関表は業界の平均的なデータです。自社がどれだけ環境配慮型の原材料を選んでも、金額ベースの算定では「平均的な製品」として計算されてしまい、削減努力が数字に反映されにくいという弱点があります。
- タイムラグ: 統計の作成には時間がかかるため、最新の技術革新や急激な社会の変化が即座に反映されない場合があります。
まとめ:体系的な意思決定のために 産業連関表は、環境問題を「特定の産業」の責任にするのではなく、「社会全体の生産と消費のあり方」として捉える視点を与えてくれます。 まずは産業連関表で全体像を「見える化」し、負荷の高い箇所を特定する。その上で、重要なサプライヤーからは個別の「1次データ」を収集し、算定を精緻化していく――。このステップこそが、社会を体系的に捉えた、地に足のついた脱炭素経営への道筋となります。

