カーボンクレジット制度で頻出する「ベースライン」「追加性」「可逆性」「二重計上」「永続性」を解説。制度や方法論の理解を深め、クレジットの品質と信頼性を見極めるための基礎知識を整理します。
・カーボンクレジット制度や方法論を体系的に理解したい方
・クレジット創出を検討しているプロジェクトデベロッパーの方
・クレジット購入にあたり、品質や信頼性を自分で判断できるようになりたい企業担当者の方
・CDPなどの開示において、カーボンクレジットに関する入力内容を正しく理解したい方
・表面的な説明ではなく、制度の思想や前提条件まで踏み込んで学びたい方
導入
カーボンクレジットを理解するうえで重要なのは、「削減量があるかどうか」だけではありません。その削減がどのように算定され、なぜ信頼できると判断されるのかを理解することが、クレジットの品質を見極める第一歩になります。
各クレジット創出制度や方法論の中では、「ベースライン」「追加性」「可逆性」「二重計上」「永続性」といった専門用語が頻繁に登場します。これらは単なる単語ではなく、クレジット制度の信頼性を支える根幹となる概念です。 本コラムでは、クレジット創出を行うデベロッパーだけでなく、クレジットを購入・活用する企業にとっても重要な頻出ワードを整理し、それぞれの意味と役割を分かりやすく解説します。
カーボンクレジット頻出ワード
ここで紹介する用語は各クレジット創出制度や方法論の中などで頻出する単語です。クレジット創出を行うデベロッパーは、これらの意味と役割を正しく理解したうえでプロジェクトの設計・申請を行う必要があります。 また、クレジット購入者にとっても、「なぜその要件が求められているのか」を知ることで、クレジットの品質や信頼性の価値を見極めるための重要な判断材料となることに加え、CDPにおいても使用したカーボンクレジットの詳細の入力をされる場合に理解しておく必要のある単語もあります。
ベースライン
ベースラインとは、「何もしなかった場合の排出量」を示す基準シナリオのことです。削減量はこのベースラインの概念を用いて、「ベースライン排出量―プロジェクト排出量」で算出されます。
ベースライン排出量の算定方法には複数の考え方がありますが、その中でも最も一般的に用いられているのが、「ベースラインシナリオ」による方法です。
ベースラインシナリオとは、気候変動の対策を特に考慮しなかった場合に、最も起こりやすいと考えられる将来の状況を指します。 例えば、再エネ導入プロジェクトにおいては、「再エネが導入されず、引き続き化石燃料が使用されている状態」が、ベースラインシナリオに該当します。
追加性
追加性とは様々な意味合いがありますが、よく使われる解釈として「そのプロジェクトがクレジット制度なしでは実施されなかったであろうこと」を証明することを指します。言い換えれば、“プロジェクトが存在することで初めて削減や吸収が生じた”という因果関係の証明です。
追加性が特に重要視される背景には、GHG排出量取引制度との関係があります。多くの国・地域では、排出量取引制度とクレジット制度がセットで導入されており、各施設は上限を超えた排出分を、クレジット制度で創出された「カーボン・クレジット」で相殺できる仕組みになっています。
ここで、クレジットは本来、排出量取引制度の対象外となるGHG削減・吸収量増大プロジェクトから創出されますが、もし「制度がなくても当たり前に行われていたはずのプロジェクト」を対象にクレジットを発行してしまうと、実際には世界全体の排出量が増加しています。例えば、補助金や市場要因によって自然に普及している再エネ設備を対象にしても、「制度がなくても導入されていた」と判断されれば、追加性は認められないということです。
なお、再生可能エネルギーであっても、地域条件や政策環境、技術成熟度によっては追加性が認められるケースもあり、個別の評価が必要です。
そのため、「このクレジット制度がなかったら行われなかったプロジェクト」であることを厳格に確認する必要があり、追加性はクレジット制度の根幹となる概念と言えます。
追加性の判断は、以下のような観点から行われます。
- 投資分析
プロジェクトが経済的に成立しない(投資回収できない)ことを証明し、カーボンファイナンスがなければ実行されなかったと説明する。 - 法的要因の考慮
既存の法規制や政策で義務化されていないことを証明する - 障壁分析
そのプロジェクトが、(資金面・制度面・情報面などの)ほかの選択肢にはないハードルに直面しており、カーボンクレジット収益の見込みがなければ、そのハードルを乗り越えられなかったことを示す分析 - 市場浸透度評価
その地域において、このプロジェクトがすでに一般的に行われているものではなかったことを示す分析 - 標準化されたアプローチ
一定の条件を満たすことで、自動的に追加的であるとみなすことができるアプローチ
可逆性
プロジェクトの中には、森林や土地利用の管理、地下貯蔵などの生物的または非生物的な吸収源に、炭素やGHGを除去・貯蔵することによって、大気中のCO₂排出削減を達成するものがあります。しかし、これらのプロジェクトによる除去・貯蔵は、森林伐採や山火事、事故や管理不全などに意図的または偶発的は事象によって、将来のある時点で再び大気中に戻される可能性を伴います。
このように削減効果が恒久的ではなく、一時的になる可能性があるリスクを「可逆性リスク」と呼びます。
このような可逆性リスクに対しては、「バーファーブールの設定」、「モニタリング体制」や偶発的な事象が起きた際の「補填の手段」などプロジェクト設計に含まれる緩和策を合わせて考え、対処する必要があります。
二重計上
オフセットに用いられる削減量が他の目標や排出上限にすでに含まれている場合、二重計上が生じてしまいます。
二重計上を避けるためには、削減量の帰属、所有権、使用権を明確に定義し、同じ削減量が複数の主体によって同時に使われることがないよう、厳格な管理が求められます。
永続性
前節で説明した可逆性リスクと密接に関連する概念が「永続性(耐久性)」です。
カーボン市場において、「永続性」および「耐久性」とは1トンの二酸化炭素の削減または除去を表すカーボンクレジットが、どれだけ長く大気中にとどまるかという点を指します。
これらのクレジットはさまざまな種類のカーボンプロジェクトによって創出されますが、すべてのプロジェクトが削減されたCO₂が恒久的に隔離され続けることを保証できるわけではありません。一部のプロジェクトでは、クレジットが販売または償却された後に、貯留または回避されたCO₂が再び大気中に放出されるリスクがあります。これが「リバーサル」と呼ばれるリスクです。リバーサルはカーボン市場において広く認知されたリスクですが、そのリスクへの対処方法やリバーサルが起きた場合の責任の所在は、プロジェクトの種類やクレジット制度によって異なります。
そのため、高品質ラベルを付与するICVCM(ボランタリー・カーボン市場のためのインテグリティ評議会)では、以下のいずれかを満たすことを条件としており、「永続性」はクレジットの品質を左右する極めて重要な概念と位置づけられています。
- 削減・除去が科学的に恒久的であることが証明されているプロジェクトであること
- または、リバーサルリスクを適切に管理し、リバーサルが発生した場合に補償できる仕組みが備えられているプロジェクトであること
なお、永続性や耐久性は実務上「長期固定」と表現されることもありますが、どの程度の期間をもって「十分に長期」とみなすかについては、国際的にも現在進行形で議論が続いている部分になります。

