数千万円の生産設備を1台導入したのに、その排出量を「購入金額×業種平均の係数」で見積もる――Scope3カテゴリ2(資本財)の算定で、多くの担当者が最初に抱く違和感です。なぜ設備そのもののデータを使わないのか。本記事では、その理由をGHGプロトコルScope3標準の規定と実務の両面から整理し、4つの算定方法と将来の精緻化に向けた道筋まで示します。
監修者:株式会社ウェイストボックス 木塚晴久(環境ソリューション第1事業部 部長)
最終更新日:2026年6月22日
この記事を読んで欲しい人
- サステナビリティ・ESG担当としてScope3開示を担う方
- Scope3カテゴリ2(資本財)の算定方法に迷っている実務者
- 設備投資の排出量をどう扱うべきか整理したい方
- 支出ベース算定から精度を上げる道筋を知りたい方
- カテゴリ1とカテゴリ2の切り分けに不安がある方
目次
- カテゴリ2(資本財)とは何か――対象と会計処理
- カテゴリ1とどう切り分けるか
- なぜ業種別(支出ベース)の排出係数が使われるのか
- 4つの算定方法と精緻化の道筋
- 日本の実務――排出原単位データベースと年次変動
- よくある質問(FAQ)
- まとめ
- 参考資料
1. カテゴリ2(資本財)とは何か――対象と会計処理
Scope3カテゴリ2は、報告年に購入・取得した資本財(capital goods)の製造に伴う上流(cradle-to-gate、原材料調達から製造完了まで)の排出量を対象とします。資本財とは、長期間にわたって使用される最終製品で、財務会計上は固定資産(PP&E:plant, property, and equipment)として扱われるものです。GHGプロトコルの技術ガイダンス(Technical Guidance for Calculating Scope 3 Emissions)は、設備・機械・建物・施設・車両などを例として挙げています(図1)。
図1 Scope3カテゴリ2(資本財)の対象と会計処理
ここで実務上とくに重要なのが、会計処理の考え方です。財務会計では、資本財は耐用年数にわたって減価償却・償却されます。しかしScope3の算定では、製造に伴う排出量を年々に按分せず、取得した年に全額(cradle-to-gate全量)を計上します。これはカテゴリ1(購入した製品・サービス)と同じ扱いです。なお、資本財を使用する段階での燃料の燃焼はScope1、購入電力・熱・蒸気・冷熱の使用はScope2で計上します。一方、調達燃料や購入電力等の上流工程、送配電損失などScope1・2に含まれない燃料・エネルギー関連排出は、該当する場合Scope3カテゴリ3で扱います。Scope1〜3の全体像は、媒体内の「Scope3とは?」で整理しています。
2. カテゴリ1とどう切り分けるか
購入したものをカテゴリ1(購入した製品・サービス)とカテゴリ2(資本財)のどちらで算定するかは、しばしば迷いやすい論点です(図2)。GHGプロトコルScope3標準は、中間製品(他の製品に組み込んで加工・製造に使う投入物)と最終製品(そのまま消費される製品)、そして資本財を区別しています。資本財は、組み込まれるのでも消費されるのでもなく、会社が長期にわたって自ら使う最終製品です。
図2 カテゴリ1とカテゴリ2の切り分け
GHGプロトコルは、ある購入品を資本財(カテゴリ2)とするか購入した製品・サービス(カテゴリ1)とするかは、企業自身の財務会計の手続きに従って判断するよう求めています。そして、カテゴリ1とカテゴリ2で同じ排出を二重計上しないことを明確に求めています。つまり、固定資産として計上するものはカテゴリ2、それ以外の購入品はカテゴリ1、という財務会計上の区分をそのまま使うのが原則です。あわせて、検収、固定資産計上、建設仮勘定から本勘定への振替、稼働開始など、どの時点を「取得」とみなすかを、自社の財務会計手続と整合させて一貫して定めておくことが実務上のポイントになります。
3. なぜ業種別(支出ベース)の排出係数が使われるのか
本題に戻ります。資本財の排出量を、設備そのもののデータではなく業種別(支出ベース)の排出係数で見積もるのには、相互に関連する4つの理由があります(図3)。
図3 業種別(支出ベース)係数が使われる4つの理由
第一に、データの入手性です。資本財は設備・建物・車両などそれぞれ仕様が異なり、サプライチェーンも多段で複雑です。製造時の一次データ(原材料・工程別の排出量)は通常公開されておらず、一点ごとのLCA(ライフサイクルアセスメント)データを網羅的に整備することは現実的ではありません。そのため、業種平均で代表させる手法が現実解になります。
第二に、制度上の正当性です。GHGプロトコルScope3標準とその技術ガイダンスは、カテゴリ2の算定方法として、購入金額に業種平均などの二次的な排出係数を掛ける「支出ベース法(average spend-based method)」を明示的に認めています。とくに算定の初期段階では、企業が合理的な努力で入手できる最善のデータを用いることが想定されており、支出ベースの算定は制度的に正当なアプローチです。
第三に、比較可能性・一貫性です。対象物ごとに、ある設備は詳細LCA、別の設備は推定、また別の設備は未算定、というように精度がばらつくと、年度間の比較や社内のKPI管理が難しくなります。業種別係数を使えば、算定ルールの一貫性と再現性を保てます。なお、Scope3標準自体が、同一企業の経年比較のために設計されており、企業間の単純比較には向かないとされている点も、この一貫性の重要さを裏づけます。
第四に、目的への適合です。カテゴリ2算定の本来の狙いは、「どの調達領域が排出量に大きな影響を及ぼしているか」を把握することにあります。個別設備の精密なLCAを行うこと自体が目的ではありません。まず業種平均で全体の傾向をつかむことが、目的に照らして合理的です。なお、金額ベースの排出原単位(産業連関表に基づく原単位)の仕組みそのものは、媒体内の「『カテゴリ1』算定の要、産業連関表とは?」で詳しく解説しています。
4. 4つの算定方法と精緻化の道筋
支出ベース法は唯一の方法ではありません。GHGプロトコルの技術ガイダンスは、カテゴリ2の算定方法として4つを挙げており、データの精度に応じて段階的に高度化できる構造になっています(図4)。
図4 カテゴリ2の4つの算定方法と精緻化の道筋
GHGプロトコルの技術ガイダンスは、カテゴリ2の算定方法として、サプライヤー固有法(supplier-specific method)、ハイブリッド法(hybrid method)、平均データ法(average-data method)、支出ベース法(average spend-based method)を示しています。支出ベース法は、購入金額に業種別の排出係数(円あたりのCO₂)を掛けて推計する、最も着手しやすい入口の方法です。平均データ法は、購入した資本財の数量や質量に、その製品の平均的なLCAデータを掛けて算定します。ハイブリッド法は、サプライヤーから配分されたScope1・Scope2排出量や、原材料・燃料・電力の使用量などの活動データを集め、不足する部分を二次データで補う方法です。そしてサプライヤー固有法は、個別製品のcradle-to-gate排出量の一次データをサプライヤーから直接収集する、最も精度の高い方法です。
GHGプロトコルが想定しているのは、これらを段階的に使い分ける道筋です。まず支出ベースで全体像をつかみ、排出への影響が大きいと分かった領域から、平均製品法やサプライヤー固有法へと精緻化していきます。いまは支出ベース・業種別の算定であっても、将来的に対象物別の一次データへ移行するロードマップを描けることが理想です。排出係数データベースの位置づけは、媒体内の「IDEA排出係数とは?」も参考になります。
5. 日本の実務――排出原単位データベースと年次変動
日本でカテゴリ2を支出ベースで算定する際は、環境省・経済産業省が整備する排出原単位データベース(サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等の算定のための排出原単位データベース)がよく使われます。このデータベースには「資本財の価格当たり排出原単位」が含まれており、最新版はVer.3.6(2026年4月リリース)です。資本財の購入金額(建設費用など)に、この価格当たり排出原単位を掛けて算定するのが一般的な実務です。
もう一つ、日本の制度で押さえておきたいのが計上のタイミングです。環境省グリーン・バリューチェーンプラットフォームのカテゴリ区分では、カテゴリ2の例として「生産設備の増設」を挙げ、複数年にわたって建設・製造される場合には、建設・製造が終了した最終年に計上すると整理しています。これはGHGプロトコルの「取得した年に全額計上する」という考え方と整合します。
この「取得年に全額計上」という会計処理には、実務上の留意点があります。大型の設備投資は数年に一度しか発生しないことが多く、その年だけカテゴリ2の排出量が突出します(図5)。GHGプロトコルは、こうした年々の大きな変動について、例外的・非経常的な投資であることを公開報告で注記し、適切な文脈を補うことを推奨しています。年度比較の際に「カテゴリ2が急増した」と誤解されないよう、背景を併せて開示する姿勢が望まれます。
図5 取得年一括計上による年次変動のイメージ
6. よくある質問(FAQ)
質問:高価な設備なのに、なぜ設備そのものの排出データを使わないのですか。
回答:設備ごとに仕様が異なり、製造時の一次データが通常入手できないためです。GHGプロトコルは支出ベース法(購入金額×業種別係数)を認めており、初期段階の算定として制度的に正当です。影響の大きい資本財から、サプライヤー固有データへ段階的に精緻化していくのが現実的です。
質問:購入品をカテゴリ1とカテゴリ2のどちらに入れるか迷います。
回答:自社の財務会計に従って判断します。固定資産(PP&E)として計上するものはカテゴリ2、それ以外の購入品はカテゴリ1です。重要なのは、同じ排出をカテゴリ1とカテゴリ2で二重計上しないことです。
質問:設備を使っているときの電力や燃料はカテゴリ2に入りますか。
回答:いいえ。資本財の使用に伴う燃料の排出はScope1、電力の使用に伴う排出はScope2で計上します。カテゴリ2が対象とするのは、あくまで資本財の製造に伴う上流(cradle-to-gate)の排出です。
質問:減価償却に合わせて、排出量も複数年に分けて計上してよいですか。
回答:いいえ。GHGプロトコルは、資本財の排出量を減価償却・割引・按分せず、取得した年に全額計上することを求めています。環境省・経済産業省のサプライチェーン排出量算定に関する整理でも、複数年にわたって建設・製造される資本財は、建設・製造が終了した最終年に計上するとされています。
質問:大型投資の年だけ排出量が跳ね上がってしまいます。問題でしょうか。
回答:取得年に全額計上する以上、年次変動は避けられません。問題というより、説明の工夫が必要です。GHGプロトコルは、例外的・非経常的な資本投資であることを公開報告で注記し、文脈を補うことを推奨しています。
まとめ
Scope3カテゴリ2(資本財)で業種別の排出係数が使われるのは、妥協ではなく合理的な選択です。資本財は設備・建物・車両など多様で、製造の一次データが入手しにくいため、購入金額に業種平均係数を掛ける支出ベース法が現実解になります。GHGプロトコルがこの方法を認めており、算定の一貫性・再現性を保ちつつ、影響の大きい調達領域を把握するという目的にも合致します。
同時に、カテゴリ2には固有の作法があります。資本財の製造に伴う上流排出を取得年に全額計上すること、使用時の排出はScope1・2で扱うこと、カテゴリ1と二重計上しないこと、そして大型投資の年の変動は注記で文脈を補うことです。支出ベースはあくまで入口であり、平均製品法・ハイブリッド法・サプライヤー固有法へと段階的に精緻化していく道筋を描けることが、これからの実務の目標になります。
(執筆者:木塚)
参考資料
- GHG Protocol「Corporate Value Chain (Scope 3) Accounting and Reporting Standard」(WRI/WBCSD、2011年):https://ghgprotocol.org/corporate-value-chain-scope-3-standard
- GHG Protocol「Technical Guidance for Calculating Scope 3 Emissions」Category 2: Capital Goods(2013年):https://ghgprotocol.org/scope-3-calculation-guidance-2
- 環境省・経済産業省 グリーン・バリューチェーンプラットフォーム「Scope3排出量とは(カテゴリ区分)」:https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/estimate_03.html
- 環境省・経済産業省 グリーン・バリューチェーンプラットフォーム「排出原単位データベース」(Ver.3.6、2026年4月):https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/estimate_05.html
- 媒体内:Scope3(スコープ3)とは? / GHGプロトコルとは / 「カテゴリ1」算定の要、産業連関表とは? / IDEA排出係数とは?


