Scope 1・2排出削減計画の考え方と実務ステップを、目標設定から再エネ導入、ロードマップ設計まで体系的に解説。本記事は、GHGプロトコル、Science Based Targets initiative(SBTi)、RE100 等の国際的枠組みの考え方を踏まえ、実務的観点から整理し、実行可能な削減計画づくりを支援します。
最終更新日:2026年3月9日
・ Scope 1・2の削減目標を求められている企業担当者
・ 中期経営計画と脱炭素をどう結びつけるか悩んでいる方
・ 再エネ導入やPPAの選択肢を整理したい方
・ SBTや投資家対応を見据えた計画を立てたい方
導入
「まずはScope 1・2から削減を進めましょう」。
近年、こうした言葉を耳にする機会が急激に増えました。実際、多くの企業にとって、Scope 1・2は排出量の把握が比較的容易で、削減施策も具体化しやすい“脱炭素の入口”です。一方で、いざ削減計画を立てようとすると、「どこまで減らせば十分なのか」「再エネは何から検討すべきか」「事業成長とどう両立させるのか」といった悩みが次々に出てきます。
本記事では、Scope 1・2排出削減計画を中期経営計画と一体で設計するための考え方と実務ステップを整理します。読み終える頃には、「自社の場合、何を優先し、どんな順序で進めるべきか」が具体的に描けるはずです。
Scope 1・2とは何か、なぜ最優先なのか
概要
Scope 1・2は、企業が自らコントロールしやすい排出領域であり、多くの制度・投資家評価で算定・報告が事実上求められています。脱炭素戦略の出発点として、まず全体像を正しく理解することが重要です。
- Scope 1は自社起源の直接排出
- Scope 2は購入電力等に伴う間接排出
- 多くの企業で最初に削減効果を出しやすい
- 国際基準・投資家対応の前提領域
Scope 1・Scope 2の基本整理
Scope 1とは、自社が保有・管理する設備や車両から直接排出される温室効果ガスを指します。代表例は、ボイラーや炉での燃料燃焼、社用車のガソリン・軽油使用、工業プロセス由来の排出などです。
一方、Scope 2は、他社から購入した電気・蒸気・熱の使用に伴う間接排出です。電力会社が発電時に排出したCO₂を、自社の使用量に応じて按分して計上するイメージになります。ロケーション基準(系統平均係数) と マーケット基準(契約・証書等に基づく係数) の2つで算定・報告することが求められています。
実務でよく感じるのは、「Scope 3の方が排出量は大きいが、まずScope 1・2をきちんと説明できないと先に進めない」という現実です。実際、多くの国・制度、そしてSBTやCDPなどの枠組みでは、Scope 1・2の信頼性ある算定と削減が前提条件になっています。
- 設備・車両・エネルギー購入契約を棚卸しする
- 算定基準(GHGプロトコル等)を統一する
なぜScope 1・2が「入口」なのか
Scope 1・2が優先される理由はシンプルです。企業自身が投資判断・運用改善によって排出量をコントロールできる範囲だからです。省エネ設備更新や再エネ導入は、コストや効果を比較しながら段階的に進めやすく、経営判断と直結します。
私自身、複数の企業の計画策定に関わる中で、「Scope 1・2の削減ロードマップが描けた瞬間に、社内の議論が前向きに進み出した」という場面を何度も見てきました。数値で説明できることが、経営層の理解を一気に高めるのです。
- まずは“自分たちで動かせる領域”に集中
- 成功体験をScope 3対応につなげる
目標水準と時間軸の考え方
概要
削減計画は、削減目標が曖昧だと絵に描いた餅になります。国際的な基準と、自社の事業計画をどうすり合わせるかが重要です。
- SBTが削減目標における事実上の国際基準
- 年率4.2%以上の排出量削減が一つの目安
- 2030年・2040年を見据えた二段階設計
SBTと1.5℃目標の実務的理解
SBT(Science Based Targets)は、気候科学に基づく削減目標として国際的に広く採用されています。絶対量削減(Absolute contraction)で1.5℃水準を採る場合、線形換算で年率4.2%相当が最低水準として扱われます。
ここで大切なのは、「SBTiからの正式な認定を取るかどうか」以前に、この削減レベルを自社の削減計画の物差しとして理解することです。多くの企業が、2020年前後を基準年に設定し、2030年に数十%台の削減、その先に2050年付近のネットゼロという二段階の時間軸を描いています。
- 基準年の選び方で削減率が上下する
- 事業成長率を必ず前提に入れる
事業成長と削減の両立
削減計画で必ず議論になるのが、「事業が成長するのに排出は減らせるのか」という点です。ここでは、対策なしの排出見込み(BAU)を一度しっかり描くことが有効です。
BAUと目標排出量の差分が、そのまま「削減ポテンシャル」になります。これを可視化すると、「省エネだけでは足りない」「再エネ導入が不可欠」といった現実が、数字として共有できます。
- BAUを置かずに議論しない
- 売上・生産量との相関分析を行う
削減計画策定のステップ
概要
Scope 1・2削減計画は、排出量見える化→削減目標設定→削減ロードマップ策定の順で設計するのが基本です。
- 排出量の正確な把握が出発点
- 削減必要量を定量で示す
- 年次ロードマップに落とす
排出量の見える化
最初のステップは、排出量の見える化です。基準年を定め、燃料や購入した電力、熱、蒸気使用量からScope 1・2排出量を算定します。算定自体は地味な作業ですが、ここを曖昧にすると後工程すべてが不正確になります。
実務では、環境部門だけで完結させず、設備・総務・購買部門と連携することが成功の鍵です。
- データ取得フローを標準化
- 算定根拠を必ず残す
ロードマップ策定
次に、省エネ、再エネ導入、燃料転換などの施策を洗い出し、「いつ・どこで・どれだけ減らすか」を年次で整理します。
この段階で、CAPEX・OPEX、想定CO₂価格、電力料金シナリオを併せて検討すると、経営判断につながる計画になります。
- 削減量と投資額を必ずセットで示す
- 実行順序を明確にする
再生可能エネルギー導入の実務
概要
Scope 2削減の中核となるのが再エネ導入です。調達手段と「追加性」の理解が重要です。
- 自家発電からPPAまで多様な選択肢
- RE100など国際動向を意識
- 追加性の確保が鍵
再エネ電力の調達手段
再エネ調達には、自家発電、コーポレートPPA(フィジカルPPAやバーチャルPPA)、電力サプライヤー契約、証書(日本では非化石証書やグリーン電力証書)など多様な手段があります。
近年は、追加性を明確に確保できるコーポレートPPAが注目されています。一方、初期投資や契約リスクもあるため、自社の電力使用規模・立地条件に応じた選択が必要です。
- 契約期間とリスクを必ず確認
- 排出係数の扱いを整理
「追加性」という考え方
追加性とは、新たな再エネ設備の建設を後押しするかどうか、という視点です。既存設備の電力を買うだけでは、社会全体の排出削減にはつながりません。
RE100など国際的枠組みでも、運転開始から15年以内の設備を重視するなど、基準は年々厳しくなっています。
- 長期視点での評価が必要
- 将来の基準強化を見据える
経営・ガバナンスと一体で進める
概要
削減計画を実行に移すには、経営との一体化が不可欠です。
- 中期経営計画への組み込み
- KPIとモニタリング体制
- ステークホルダー対応
経営計画との統合
Scope 1・2削減を環境施策で終わらせず、中期経営計画のKPIに組み込むことが重要です。取締役会での定期報告や、役員報酬との連動も有効とされています。
- 数値目標を経営KPI化
- 報告頻度を決める
ステークホルダー対応
投資家や取引先は、目標だけでなく「達成可能な道筋」を見ています。まずScope 1・2で信頼性の高い計画と実績を示すことが、長期的な信頼につながります。
- 開示内容の一貫性を保つ
- Scope 3への布石を打つ

