SBT(Science Based Targets)におけるBVCMと中立化(Neutralization)の違いを、目的・タイミング・クレジット要件・実務判断の観点から解説します。ネットゼロ対応で混乱しやすいポイントを整理し、実務での使い分けが分かるガイドです。
・SBTやネットゼロ対応を任されているサステナビリティ・環境担当者
・カーボンクレジットの扱い方に不安を感じている実務担当者
・BVCMと中立化の違いを、社内説明・開示で正しく伝えたい方
導入
SBTやネットゼロに取り組む企業が増える中で、「BVCM(Beyond Value Chain Mitigation)」と「中立化(Neutralization)」という言葉を目にする機会も増えています。
どちらも「削減目標以外の取り組み」という印象があり、「結局どう違うのか」「クレジットを買えばどちらにも使えるのか」と戸惑う声を、実務の現場でよく耳にします。
実はこの2つは、役割・位置づけ・使えるクレジットが明確に異なる別物です。ここを曖昧にしたまま進めると、SBTi要件との不整合や、意図しない誤解を招くリスクもあります。 この記事では、SBTiの公式定義や最新の考え方を踏まえながら、BVCMと中立化の違いを実務目線で整理します。読み終えた頃には、「自社の取り組みはどちらに該当するのか」「どう説明すればよいのか」が、腹落ちして判断できるようになるはずです。
まず押さえたい:BVCMと中立化の基本的な位置づけ
概要
BVCMと中立化は、どちらもSBTの「削減の手段そのもの」ではありません。しかし、ネットゼロ達成に向けた流れの中で果たす役割は大きく異なります。まずは全体像から整理します。
・両者は「削減手段の代替」ではない
・中立化はネットゼロ達成の必須要素
・BVCMは任意だが強く推奨される行動
SBTにおける「削減目標」との関係
SBTでは、まず自社のScope 1・2・3における排出削減が最優先されます。ここで重要なのは、BVCMも中立化も、この削減義務を肩代わりするものではないという点です。
実務では「クレジットを買えば目標達成になるのでは?」という誤解が生じがちですが、SBTiは一貫してこれを否定しています。削減はあくまで自社の責任で行うもの。その前提の上に、BVCMや中立化が位置づけられます。
・クレジット購入=SBT達成ではない
・削減努力の代替として説明することはできない
・社内でも役割を明確に切り分ける
「似ているが別物」と理解するのが第一歩
BVCMと中立化は、どちらも「削減目標の外側」にあるため混同されやすいのですが、目的がまったく異なる点を押さえることが重要です。
中立化は「残ってしまった自社排出への対応」、BVCMは「世界全体の排出削減を前倒しで支援する行動」。この違いを理解するだけで、以降の判断がかなり楽になります。
・目的の違いを一言で説明できるようにする
・「最終対応」か「追加貢献」か、で整理する
中立化(Neutralization)とは何か:ネットゼロの最終段階
概要
中立化は、SBTiネットゼロ基準において「ネットゼロを名乗るために不可欠な要素」として定義されています。ここでは中立化の考え方と厳格な要件を解説します。
・対象は「残余排出」のみ
・除去型クレジットしか使えない
・ネットゼロ達成時点で必要
残余排出とは何を指すのか
SBTiでは、技術的・経済的に最大限削減しても、どうしても残る排出があると想定しています。これが「残余排出」で、目安としては基準年排出量の10%未満とされています。
中立化は、この残余排出に対してのみ実施される行為です。削減途中の排出を中立化で相殺することは、原則認められていません。
・中立化は「ネットゼロ到達時点」のみで登場
・ネットゼロに向けた削減途上での削減に対する使用はNG
・対象量を明確に定義する
なぜ除去クレジットしか認められないのか
中立化で使えるのは、大気中からCO₂を回収し、長期的に貯蔵する「除去型クレジット」のみです。再エネ導入などの排出回避型クレジットは使えません。
これは、「すでに排出されたCO₂」と向き合う行為が中立化だからです。将来排出を減らす行為では、理論的に釣り合わないという考え方に基づいています。
・排出回避系クレジットは中立化での使用不可
・クレジットでは永続性・貯蔵性の説明が重要
・クレジットの性質を必ず確認
BVCMとは何か:SBTを超える追加的な行動
概要
BVCM(Beyond Value Chain Mitigation)は、自社バリューチェーンを超えた排出削減・除去への貢献を指します。
・クレジット種類は、削減系・排出回避系・除去系すべてが対象
・SBT達成のための削減量としてはカウント不可
・世界全体への貢献が目的
なぜSBTiはBVCMを推奨するのか
SBTiがBVCMを推奨する背景には、「自社及び自社のバリューチェーン内の削減だけでは1.5℃目標に間に合わない」という危機感があります。自社削減を進めつつ、同時に世界全体の排出削減を加速させる必要があるのです。
BVCMは、企業がその役割を果たすための枠組みといえます。
・自社の削減とは切り離して考える
・追加性・貢献性を意識する
BVCMで認められる活動の幅
BVCMでは、再エネ支援、自然保護、技術開発支援など、非常に幅広い活動が対象になります。削減型・回避型・除去型のいずれのクレジットも含まれる点が、中立化との大きな違いです。なお、SBTiは、BVCMにおいても高品質で信頼性の高い取り組みが行われることを前提としています。
・活動内容のストーリー設計が重要
・「なぜこの取り組みか」を説明する
BVCMと中立化の違いを実務視点で整理する
概要
ここまでの内容を踏まえ、実務で判断しやすいように違いを整理します。
・目的・タイミング・使えるクレジットが違う
・社内外での説明文脈も異なる
判断に迷ったときの3つの軸
迷ったときは、①目的、②タイミング、③クレジットの種類、の3点で整理すると判断しやすくなります。
・「何のためか?」を最初に問う
・時系列で整理する
コミュニケーションでの注意点
BVCMを「中立化」と誤って表現すると、グリーンウォッシュと受け取られるリスクがあります。言葉の使い分けは非常に重要です。
・表現ルールを社内で統一
・開示文言は慎重にチェック
実務でよくある誤解と正しい考え方
概要
最後に、現場でよくある誤解と、その整理方法を紹介します。
・クレジット購入=中立化ではない
・BVCMは「便利な逃げ道」ではない
「クレジットを買っているから大丈夫」という誤解
削減努力を伴わないクレジット活用は、SBTの考え方とは真逆です。優先順位や対策順序を誤らないことが重要です。削減を最優先としつつ、削減と並行してBVCMを行い、ネットゼロ到達時に中立化を実施する、という整理で進めましょう。
・削減を最優先とし、削減と並行してBVCMを行い、ネットゼロ到達時に中立化を実施
BVCMをどう社内で位置づけるか
BVCMはコストではなく、企業姿勢を示す投資と捉えると、社内の理解も進みやすくなります。
・ESG・経営文脈で説明する
参考文献
[1] Beyond Value Chain Mitigation – Science Based Targets Initiative https://sciencebasedtargets.org/beyond-value-chain-mitigation
[2] The Corporate Net-Zero Standard – Science Based Targets Initiative https://sciencebasedtargets.org/net-zero
[3] カーボンクレジットとは何か? カーボンクレジットに関連する基礎用語を知ろうhttps://wastebox.net/column/trends/p6074/
[4] クレジット(排出権)|よくあるご質問

[5] 04. カーボンニュートラル・BVCM – 株式会社ウェイストボックス https://wastebox.net/netzero-neutral/

