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SBTi短期目標におけるセクター別ガイダンス・報告・再計算の実務要点―SBTi短期目標(C22〜C28)から読み解く実務対応の要点-

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SBTi短期目標基準v5.3におけるC22〜C28を中心に、化石燃料の販売・流通に関わる企業が直面する要件と実務対応を解説。Scope 3目標、検証不可条件、定期レビューや再計算の考え方までを網羅。

この記事を読んで欲しい人

・化石燃料を「主業ではないが扱っている」企業の担当者
・Scope 3(特にカテゴリ11)への対応に不安がある方
・SBTiの「検証不可条件」に自社が該当しないか確認したい方
・目標レビューや再計算の判断基準を整理したい実務担当者

目次

導入

SBTiの基準改定が進む中で、化石燃料に関わる企業の立場は、年々シビアになっています。
「うちはエネルギー企業ではない」「売上の大半は別事業だ」──そうした認識が、SBTiの基準上は通用しないケースも少なくありません。

特に短期目標基準v5.3で明確化されたC22〜C28は、化石燃料の「販売・流通・利用」に関わる企業に対して、Scope 3目標の設定義務から、検証の可否、継続的なレビュー体制までを強く求めています。

本記事では、基準文言の解説にとどまらず、
「実務で何を判断し、どこでつまずきやすいのか」
「どの時点で再検証が必要になるのか」
といった現場目線の論点を整理します。読み終えた頃には、自社の立ち位置と次のアクションが明確になっているはずです。

C22:化石燃料を「売る・流す」企業に課されるScope3の重み

概要

「C22」は、化石燃料を販売・輸送・流通する企業に対し、Scope 3カテゴリ11(販売した製品の使用)について、1.5℃整合の総量または原単位削減目標を義務付ける基準です。

主なポイント(要約/サマリー)

・Scope 3カテゴリ11は必須で個別目標設定
・主業か否か、セクター分類は無関係
・1.5℃整合が最低条件
・顧客エンゲージメント目標は代替不可

「主業ではない」は免罪符にならない

SBTi実務で誤解が多いのが、「C22」です。
実際の現場では、「当社はエネルギー会社ではない」「燃料は付随的に扱っているだけ」という声をよく耳にします。しかし、「C22」はそうした整理を認めていません。

基準が見ているのは事業の性質ではなく、排出の実態です。
天然ガスや燃料を「販売・流通」した時点で、その燃焼に伴う排出はScope 3カテゴリ11として原則として企業の責任領域に入ります。

ここで重要なのは、

・主要事業かどうか

・セクター分類が何か

といった要素が、判断材料から外されている点です。

なお、SBTi CORPORATE NEAR-TERM CRITERIA Version 5.3より、以下の2点の注釈が追加されました。まず、個人的な利用を目的とした少量化石燃料製品(ライター、使い捨てキャンプ用ストーブ向けガスボンベ)については本要件の対象外と整理されていること。そして、販売・輸送・流通した化石燃料の燃焼によるスコープ3カテゴリ11排出量が、企業のスコープ3総インベントリの1%未満かつ100,000 tCO(2) e未満の場合も本要件は適用されないとされていることです。スコープ3目標設定の内容に大きく関与する要素であるため、SBTの検討の初期段階で、この2点の該当可否の確認を行う必要があります。

実務上のポイント

・「主業でない」は説明にならない
・SBT検討の初期段階で該当有無を確認する

67%カバー率と「追加目標」の現実

Near-term基準(C6)ではScope3全体で67%のカバー率が求められます。C22によりカテゴリ11の別建て目標が必須になるため、67%達成のために他カテゴリの追加目標が必要になる場合があります。

ここで注意したいのが、「顧客エンゲージメント目標は使えない」という点です。
「顧客に削減目標設定を促す」だけでは、「C22」の要件は満たせません。総量あるいは原単位削減目標として設定する必要があります。

実務では、

・カテゴリ11に対する総量あるいは原単位目標を軸に

・排出寄与の大きい他カテゴリを組み合わせ

・合算でスコープ3の67%以上のカバー率を確保

という設計が現実的です。

実務上のポイント

・カテゴリ11だけで67%に届くか確認
・足りなければ他カテゴリ目標を追加
・カテゴリ11の石油製品販売についてエンゲージメント目標は代替不可

C23:SBTiが「検証しない」企業の線引き

概要

「C23」は、化石燃料の生産・販売から一定以上の収益を得る企業について、SBTiが短期目標を検証しない条件を明示しています。該当すると、通常ルートでのSBT認定取得は不可能になります。

主なポイント(要約/サマリー)

・石油、天然ガス、石炭その他の化石燃料の探査・採掘・生産への直接関与は即対象外
・化石燃料の販売・輸送・流通または化石燃料企業向け設備・サービス提供からの収益50%以上の企業も対象外
・商業目的採掘活動における化石燃料資産由来収益5%超の企業も対象外

「検証不可」はペナルティではなく前提条件

「C23」は、化石燃料の生産や関連事業に深く関与する企業について、現行の枠組みでは目標の検証を行わないことを明確に定めた要件です。具体的には、収益比率に関係なく、石油・天然ガス・石炭などの化石燃料の探査、採掘、採掘準備、または生産に直接関与している企業は、SBTiによる目標検証の対象外となります。また、売上の50%以上を化石燃料の販売・輸送・流通、あるいは化石燃料企業向けの設備・サービス提供から得ている企業も、同様に検証されません。さらに、炭鉱や褐炭鉱などの化石燃料資産から商業目的の採掘によって5%以上の収益を得ている企業も対象外とされます。なおv5.3では、同セクターの企業について、現時点でコミットメントの受理および目標の検証のいずれも行えない旨が記載されています。

補足解説

SBTiが石油・ガスセクターの目標提出を受け付けていないのは、同セクター向けの基準(Oil and Gas Standard)の策定を一時停止しているためです。外部レビューにより技術的・方法論的な課題が残っていることが明らかになったことに加え、脱炭素化をより早く進めるため、企業や金融機関向けのネットゼロ基準など、影響範囲の大きい基準の開発を優先する判断がなされました。また、技術的な実行可能性や市場の成熟度を総合的に考慮した結果、現時点での標準策定は適切ではないと判断されています。なお、SBTiは化石燃料の段階的廃止へのコミットメント自体は維持しており、今後の作業計画の見直しの中で次の対応を検討するとしています。

これらの企業に対してSBTiは、通常の企業向け基準ではなく、該当するセクター別基準や専用スタンダードが存在する場合は、それに従うことを「must(義務)」として要求しています。

グレーゾーン企業が最初にやるべきこと

実務で悩ましいのは、「化石燃料企業に設備やサービスを提供している企業」です。
ここは「C23」でも特に注意が必要で、売上の50%以上を占める場合は検証不可となります。

グレーゾーン企業が最初にやるべきなのは、

・化石燃料関連売上の定義
・連結ベースでの割合
・将来の事業転換計画

を定量的に整理することです。

この整理を曖昧にしたままSBTi申請を進めると、後工程で止まるケースが多く見られます。

C24:セクター別ガイダンスは「補足」ではない

概要

「C24」は、セクター別ガイダンスが存在する場合、企業ネットゼロ基準・短期基準に優先して従う義務を定めています。該当ガイダンス公表から6か月以降は遵守が必須となります。

主なポイント(要約/サマリー)

・セクターガイダンスは公表から6か月以降は遵守が必須
・企業全体レベルでカバー率を評価
・複数セクター該当時は個別対応

「後から読む資料」では済まされない

セクター別ガイダンスは、「参考資料」的な扱いではなく、明確に必須要件であることに注意が必要です。特に、

・建物
・FLAG
・輸送(航空、海運、陸上、自動車製造)
・電力
・金融

・セメント、鉄鋼、化学 など、個別の目標設定、排出量算定手法が厳密に定義されているセクターは、企業全体の目標設計に影響することもあるため、SBTの初期検討段階で確認を行う必要があります。

実務上のポイント

・セクター該当性を事業単位で洗い出す
・セクターガイダンスの動向に注意を払う
・企業全体での目標設計を確認

C25:年次報告は「形式」ではなく「信頼性」

概要

「C25」は、企業に対して全社的な温室効果ガス(GHG)排出インベントリおよび、承認された科学的根拠に基づく目標(SBT)に対する進捗状況を、年次で公表することを義務付けている重要な要件です。これは単なる情報開示ではなく、継続的な信頼性確保が目的です。

主なポイント(要約/サマリー)

・年次での公開報告が必須
・SBT申請時に開示先を明確にする(CDPの活用を推奨)

「毎年実施」自体がハードルになる

実務者として感じる方が多いのは、年次報告は「一度作る」よりも「続ける」方が圧倒的に大変だということです。
特に組織や事業構造の変化、データソースの変更や推計方法の見直しが発生する場合には、基準年からの一貫性や今後の算定方法への影響を慎重に考慮しながら実施する必要があります。変更の記録は必ず残しておくことが透明性確保の観点で重要です。

開示先は「選び方」も重要

開示の方法について、SBTiは特定の媒体を強制してはいませんが、CDP気候変動質問書のような、標準化され比較可能性の高いプラットフォームを通じた開示を推奨しています。また、企業はSBTiへの提出フォーム上で、どの媒体(統合報告書、サステナビリティレポート、CDP、TCFD等)で情報を公開しているかを明確に記載する必要があります。

特に重要なのは、報告対象がSBTの目標バウンダリに限定されない点です。企業は、目標の対象となっていないScope 3カテゴリを含め、関連するすべてのScope 3排出量を網羅した完全なGHGインベントリ公表しなければなりません。これにより、部分的な削減成果のみを強調するのではなく、企業活動全体の排出実態を透明に示すことが求められています。 「C25」は、SBTを「設定して終わり」にしないための基盤であり、継続的な説明責任と排出削減の実効性を担保する中核的な要件と位置づけられます。

実務上のポイント

・開示先を固定化する
・CDPのような外部評価との連動も意識

C26〜C28:目標は「作って終わり」ではない

概要

C26〜C28は、必須の目標レビュー、再計算トリガー、公開期限を定めています。

主なポイント(要約/サマリー)

・5年ごとの必須の目標レビュー
・再計算トリガーは5%を超える重大な変化
・承認後6か月以内の公表義務

必須の目標レビュー ― SBTは「定期点検」が前提の制度(C26)

「C26」は、SBTiの目標が一度承認されれば終わりではなく、定期的に妥当性を確認し続けることを企業に求める基準です。具体的には、すべてのアクティブな目標について、少なくとも5年ごとにレビューを実施することが義務とされています。これは、気候科学や算定手法、SBTi基準そのものが進化し続けていることを前提とした仕組みであり、過去に「妥当」とされた目標が将来も通用するとは限らない、という考え方に基づいています。

レビューの結果、最新のSBTi基準を満たさないと判断された場合、企業は目標を更新し、再検証を受けなければなりません。なお、再提出時には、当時の基準ではなく再提出時点で有効な最新基準が適用される点も重要です。

「C26」では、現在アクティブな最も古い目標の初回検証日、もしくは全社目標が更新された直近の検証日を起点とすると定められています。複数目標を持つ企業ほど、この整理を怠ると期限管理が曖昧になりやすいため、早い段階で社内管理ルールを明確にしておくことが不可欠です。

トリガーによる目標再計算― 変化を放置しないための安全装置(C27)

「C27」は、企業活動や排出構造に重大な変化が生じた場合に、目標を見直す義務を定めた基準です。ここで重要なのは、「変化があったかどうか」ではなく、その変化が既存のSBT目標の前提を損なうかどうかという点です。SBTiは、特定の事象を「再計算のトリガー」として明示しており、企業はこれらに該当した場合、目標の再計算および再検証を行わなければなりません。

代表的なトリガーとしては、Scope 3排出量が全体の40%以上になった場合、GHGインベントリの連結手法を変更した場合、除外していた排出量が5%の重要性閾値を超えて変動した場合などが挙げられます。また、M&Aや事業売却、商品・サービス構成の大きな転換といった企業構造や活動の変化も、典型的なトリガーです。加えて、算定方法の見直しや重大な誤差の発見、将来予測や前提条件の大幅な変更も対象となります。 重要性判断の基準として、SBTiは一貫して5%の閾値を採用しています。基準年排出量全体で5%以上の変化となるような影響があれば基準年排出量の再計算が必要となり、目標バウンダリ内の基準年排出量が5%以上変化すれば目標再計算がトリガーされます。ただし、目標再計算の結果、最新基準に照らしても野心度やカバー率が満たされている場合には、必ずしも目標の再提出が求められるわけではありません。実務では、構造変更後の報告サイクル完了から1年以内という期限管理も含め、早期の影響評価が鍵となります。

実務上のポイント

・構造変化時は即影響評価を実施
・重要性の閾値である5%を超えるかを必ず試算
・目標再提出不要条件も確認

目標の検証と公表 ― 「承認後」が本当のスタート(C28)

「C28」は、SBTiによる目標承認後の情報公開に関する義務を定めた基準です。SBTiから承認を受けた企業は、その日から6か月以内に、SBTiの公式ウェブサイト上で目標を公表しなければなりません。これは任意ではなく「must」とされており、承認と公表は一体のプロセスとして扱われています。

実務上、意外と見落とされやすいのがこの6か月ルールです。社内では「承認取得=一区切り」という認識になりがちですが、SBTiの視点では、公表されて初めて社会的なコミットメントが成立します。そのため、6か月を経過しても目標が未公表の場合、原則として再度承認プロセスを経る必要が生じます。例外として、SBTiと書面で異なる公表期限について合意している場合のみ、再承認は免除されます。

この基準は、透明性と説明責任を確保するためのものであり、単なる形式要件ではありません。企業にとっては、広報・IR・サステナビリティ部門の連携が不可欠であり、承認日を起点とした明確な社内スケジュール管理が求められます。公表の遅れによって再申請が必要になれば、時間的・コスト的な負担は小さくありません。「C28」は、SBTが「作って終わりではない」制度であることを、最も端的に示す基準だと言えます。

まとめ

SBTi短期目標は「判断の連続」を前提とした実務制度である

概要

C22〜C28では、化石燃料への関与有無を厳格に判断し、Scope 3目標の必須化や事業モデルの線引き、セクター別ガイダンスの最優先化が示されます。承認後も年次報告や再計算が重視され、数値の変化理由を説明できる体制が求められる点が重要です。

主なポイント(要約/サマリー)

・SBTi短期目標は「一度作って終わり」ではない
・化石燃料への「関与有無」で厳格に判断される
・Scope 3カテゴリ11は個別の1.5℃整合目標が必須
・セクター別ガイダンスが最優先ルール
・判断の根拠を説明できる体制が重要

SBTi短期目標基準v5.3のC22〜C28を通して浮かび上がるのは、SBTが一度作って提出すれば終わる目標ではなく、継続的な判断と管理を求める実務制度だという点です。
特に化石燃料の販売・輸送・流通に関わる企業にとっては、「主業かどうか」「該当セクターかどうか」といった従来の感覚が通用せず、C22の適用除外(低容量・個人用途、またはカテゴリ11がScope3総量の1%未満かつ100,000 tCO2e未満)を除き、化石燃料の販売・輸送・流通への関与の有無で判断されます。

「C22」では、Scope 3カテゴリ11に対する1.5℃整合の個別目標が必須となり、顧客エンゲージメントによる代替は認められません。「C23」では、検証不可となる事業モデルが明確に線引きされ、早期の該当性整理が不可欠です。「C24」は、セクター別ガイダンスを「補足」ではなく最優先ルールとして位置づけ、企業全体での整合性を強く求めています。

さらにC25〜C28では、年次報告、定期レビュー、再計算、公表といった承認後の運用フェーズが制度の中心に据えられています。数値が変わること自体よりも、「なぜ変わったのか」「基準に照らしてどう判断したのか」を説明できる体制が問われます。

実務上の最大のポイントは、

・該当性判断を後回しにしないこと
・数値だけでなく前提・根拠を記録すること
・再計算や再提出が「例外」ではなく「想定内」であると認識すること

です。


SBTi短期目標は、完璧な初回設計よりも、変化に耐えうる判断プロセスを持てるかどうかが成否を分けます。本記事が、自社の立ち位置を冷静に整理し、次に取るべき実務アクションを考えるための一助となれば幸いです。

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