SBTi Servicesポータル完全ガイド:登録手順・機能・申請フローを徹底解説 詳しくはこちら

IDEA排出係数とは?物量ベース原単位の仕組みとScope3カテゴリ1を「削減」につなげる使い方

  • URLをコピーしました!

物量ベースの仕入データにIDEA排出係数を掛け、毎年カテゴリ1の排出量を出している。けれど、この数字は本当に前進につながっているのか――算定を続けるほど、多くの担当者がこの違和感に行き当たります。本記事では、IDEA排出係数とは何かを整理したうえで、それを「報告のための数字」で終わらせず「削減の出発点」に変える使い方を、現場目線で考えます。

監修者:株式会社ウェイストボックス 木塚晴久(環境ソリューション第1事業部 部長)
最終更新日:2026年6月22日

この記事を読んで欲しい人

  • Scope3カテゴリ1の算定を担当するサステナビリティ・ESG・環境担当者
  • IDEA排出係数で算定はしているが「次に何をすべきか」に迷っている方
  • 金額ベースと物量ベースの原単位の違いを整理したい方
  • サプライヤーとの対話や一次データ活用をどこから始めるか悩んでいる方
  • 算定が「報告作業」になっている感覚に違和感を覚えている方

目次

  1. IDEA排出係数とは何か
  2. 金額ベースと物量ベース――2つの原単位の系統
  3. なぜカテゴリ1でIDEAが広く使われるのか
  4. IDEAの限界――数字は出るが前進の実感がない
  5. IDEAを「出発点」として使いなおす
  6. よくある質問(FAQ)
  7. まとめ
  8. 参考資料
目次

1. IDEA排出係数とは何か

IDEA(Inventory Database for Environmental Analysis)は、産業技術総合研究所(AIST)が開発したLCA(ライフサイクルアセスメント)用のインベントリデータベースです。製品やサービスを1単位生産・利用したときに、平均的にどれだけの温室効果ガスなどが排出されるかを「排出原単位(排出係数)」として整理しています。現在はサステナブル経営推進機構(SuMPO)がライセンスを販売する有償のデータベースです。LCAソフトウェアMiLCA等でも利用されており、クラウド版MiLCA v3に標準搭載されているのはIDEA v3.4です(搭載バージョンは利用環境により異なるため、利用時に確認します)(図1)。

IDEA排出係数とは。産業技術総合研究所が開発、SuMPOがライセンス販売(有償)、物量ベースの積み上げ型LCI、日本の平均値、原材料からサービスまで網羅、単位プロセス公開で透明性が高い。図1 IDEA排出係数とは(LCIデータベースIDEA)

IDEAの特徴は、日本国内の生産・サービスの実態を反映した平均値であること、原材料から加工品・サービスまで幅広く網羅していること、そして製造プロセスの入出力データ(単位プロセスデータ)の開示性により、ライセンス利用者がデータの前提を確認しやすいことです(ただし有償のデータベースであり、全データが無償で一般公開されているわけではありません)。最新版はVer.4.0で、Ver.3系では約5,000種類の製品・サービス(データセット数で約5,250)を収録しています。日本の実務において、物量ベースの排出原単位としては事実上の標準的な二次データとして広く使われています。

2. 金額ベースと物量ベース――2つの原単位の系統

IDEAの位置づけを正しく理解するには、排出原単位に2つの系統があることを押さえる必要があります(図2)。一つは金額ベース(産業連関表ベース)の原単位で、購入金額に「円あたりのCO₂」を掛けて算定します。もう一つが物量ベース(積み上げ型)の原単位で、数量・質量・体積・エネルギー量・輸送量・サービス単位など、データセットごとに定められた物量・機能単位に「単位あたりのCO₂」を掛けて算定します。IDEAは後者の代表です。

排出原単位の2つの系統。金額ベース(産業連関表ベース、購入金額×円あたりCO2、入手容易・物価変動の影響)と物量ベース(積み上げ型、数量・質量×物量あたりCO2、IDEA等、モノづくりと相性がよい)。図2 排出原単位の2つの系統――金額ベースと物量ベース

金額ベースは入手が容易で網羅性が高い反面、購入金額を起点にするため物価変動の影響を受けやすいという性質があります。物量ベースは、製造プロセスを積み上げて算定するため、モノづくりの実態と相性がよく、近年の物価上昇局面でも数量を起点にできる利点があります。なお、IDEA自体も、統計(エネルギー統計・工業統計・産業連関表)やプロセスデータを積み上げて構築されており、産業連関表を入力の一部に用いている点には留意が必要です。金額ベース(産業連関表)の原単位の仕組みそのものは、媒体内の「『カテゴリ1』算定の要、産業連関表とは?」で詳しく解説しています。

3. なぜカテゴリ1でIDEAが広く使われるのか

Scope3カテゴリ1(購入した製品・サービス)の算定では、原材料、部品、外注加工、業務委託など、数も種類も膨大な購入品目を扱います。排出量は「活動量×排出係数」で求めますが、すべてのサプライヤーから一次データ(実測の排出量)を集めることは、時間的にも関係性の面でも現実的ではありません(図3)。

カテゴリ1算定の式。活動量(購入量・購入金額)×排出係数(IDEA等の二次データ、物量あたりCO2)=排出量(カテゴリ1の推計値)。一次データの取得が難しいカテゴリ1ではIDEAが算定を成立させてきた。図3 カテゴリ1算定におけるIDEA排出係数の位置づけ

そこで多くの企業は、購入数量や購入金額にIDEA排出係数を掛け合わせる方法を採用しています。この方法は完璧ではありませんが、算定を「回す」ことができるという点で、現場を確実に支えてきました。とくにモノづくりを行う企業にとっては、物量ベースの係数が豊富なIDEAは、金額ベースの原単位と比べても活用しやすい二次データと位置づけられます。資本財(カテゴリ2)でも支出ベースの算定が広く使われており、その理由は媒体内の「Scope3カテゴリ2(資本財)はなぜ業種別の排出係数で算定するのか?」で整理しています。

4. IDEAの限界――数字は出るが前進の実感がない

一方で、算定を続けていると、ある違和感が生まれてきます。排出量という数値は毎年出るものの、それが実務上の前進なのかどうかが分からない、という感覚です。その背景には、IDEAが日本の平均的な生産・サービス構造を前提とした二次データであるという性質があります(図4)。

二次データの限界。同じ鋼材を仕入れる場合、省エネ・工程改善で製造するサプライヤーAと従来工程のサプライヤーBがあっても、IDEAは品目別の日本平均値のため同じ係数が適用され、個々の工程改善は平均に吸収され数字に現れない。図4 二次データの限界――個社の削減努力が数字に映らない

たとえば、同じ「鋼材」を仕入れる場合、省エネや工程改善で実際の排出を抑えているサプライヤーと、従来の工程のままのサプライヤーであっても、購入量に同じ品目別の平均係数を掛ける限り、算定結果は変わりません。個々の工程改善は平均値の中に吸収され、数字には現れません。これは品目別の平均値である二次データを使う以上、避けて通れない事実です。その結果、排出量管理は次第に「改善のための手段」ではなく「報告のための作業」に近づいていきます。IDEA排出係数そのものが問題なのではありませんが、IDEAを「答え」として扱ってしまうと、思考が止まってしまうリスクがあります。なお、IDEAは主に日本国内の製品・サービスの平均値を反映したデータベースであり、輸入材や海外拠点で製造された製品にそのまま適用すると、各国の電源構成・燃料・技術水準・物流条件の違いを十分に反映できない場合があります。海外調達品については、利用可能であれば地域別データや海外版データベース、サプライヤー固有データの利用を検討します。

5. IDEAを「出発点」として使いなおす

では、IDEA排出係数をどう使えばよいのでしょうか。答えは単純で、IDEAを最終的な答えにしないことです。IDEAが本来持っている価値は、削減量を正確に評価することではなく、排出量の全体像を整理し、「どこが重たいのか」を見つけることにあります。カテゴリ1の排出量のうち、どの原材料・品目が大きな割合を占めているのか、原単位が特に高く放置すると影響が大きいのはどこか――IDEAは、そうしたポイントを浮かび上がらせる「地図」の役割を果たします(図5)。

IDEAを答えでなく出発点に。①全体像を把握、②重い領域を特定、③一次データへ(主要サプライヤーと対話し実データを取得)、④削減につなげる。IDEAはどこが重いかを映す地図。図5 IDEAを「出発点」に――削減へつなげる流れ

進め方はシンプルです。まずIDEAでカテゴリ1の全体像を把握し、その中から影響の大きい領域を特定します。そして、その一部について、サプライヤーとの対話や一次データの取得を検討します。すべてを一度に変える必要はありませんが、次に踏み出す場所を意識的に選ぶことが重要です。二次データに頼ること自体は悪いことではありません。ただし、それを使うこと自体が目的になってしまうと、カテゴリ1の排出量管理は前に進まなくなります。Scope3カテゴリ1は二次データを活用した算定から始まりますが、削減に本気で向き合うなら、いずれ産業連関表の原単位やIDEAだけでは足りなくなります。その前提を忘れずにいることこそ、現場のサステナビリティ担当者に求められている役割だといえます。

6. よくある質問(FAQ)

質問:IDEA排出係数と産業連関表ベースの原単位は何が違うのですか。

回答:産業連関表ベースは金額ベース(購入金額×円あたりのCO₂)、IDEAは物量ベース(質量・数量・体積・エネルギー量・輸送量・サービス単位などの物量・機能単位×単位あたりのCO₂)が中心です。物量ベースは製造プロセスを積み上げて算定するため、モノづくりの実態と相性がよく、物価変動の影響も受けにくいという特徴があります。

質問:IDEAは無料で使えますか。

回答:いいえ。IDEAは産業技術総合研究所が開発し、SuMPOがライセンスを販売する有償のデータベースです。なお、環境省・経済産業省の排出原単位データベースにもIDEA由来の値が取り込まれており、公的なデータベースとあわせて参照されます。

質問:IDEAで算定していれば、削減の進捗も測れますか。

回答:何が反映されるかで分けて考える必要があります。購入量の削減、材料・品目の置換、製品構成の変化は、IDEAを使った算定にも排出量として反映されます。一方で、同じ品目に同じ平均係数を適用し続ける限り、個々のサプライヤーの省エネや工程改善による削減は係数に反映されず、数字には現れません。サプライヤー固有の削減効果まで示すには、影響の大きい領域から一次データやサプライヤー固有データへ切り替えていく必要があります。

質問:一次データへの切り替えは、どこから始めればよいですか。

回答:まずIDEAで全体像を把握し、排出量に占める割合が大きい品目や、原単位が特に高い品目を特定します。その重点領域について、主要なサプライヤーと対話し、実データの取得を検討するのが現実的な順序です。

質問:二次データのまま算定を続けるのは問題ですか。

回答:算定の出発点として二次データを使うこと自体は問題ありません。問題になるのは、二次データを使うこと自体が目的化し、削減につながらないまま「報告作業」で止まってしまう場合です。IDEAは出発点であって到達点ではない、という位置づけを保つことが大切です。

まとめ

IDEA排出係数は、産業技術総合研究所が開発しSuMPOがライセンス販売する、物量ベースの積み上げ型LCIデータベースです。日本の実務では、物量ベース原単位の事実上の標準として、Scope3カテゴリ1の算定を支えてきました。金額ベース(産業連関表)と並ぶ二次データの系統であり、モノづくりの実態と相性がよい一方で、日本の平均値であるがゆえに個々の改善努力が数字に映らないという限界も抱えています。

大切なのは、IDEAを「答え」ではなく「出発点」として使いなおすことです。IDEAで全体像を把握し、影響の大きい領域を特定し、そこから一次データやサプライヤーとの対話へと踏み出す。この順序を意識することで、カテゴリ1の算定は「報告のための作業」から「削減のための手段」へと変わっていきます。IDEAは、どこが重いのかを映す地図であり、その地図を読んで次の一歩を選ぶことが、現場の担当者に求められる役割です。

(執筆者:木塚)

参考資料

この記事が気に入ったら
いいねしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次