SBTi Servicesポータル完全ガイド:登録手順・機能・申請フローを徹底解説 詳しくはこちら

Scope1の算定で目にするGWP100aとは ―100年時間軸の地球温暖化係数と「版」による違いを実務目線で整理

  • URLをコピーしました!

GWP100aは、温室効果ガスの排出量をCO₂換算するために使う「100年時間軸の地球温暖化係数」です。ただし、その数値はIPCCの評価報告書の版(AR4・AR5・AR6など)ごとに異なり、どの版を使うかで集計値が変わります。日本の算定・報告・公表制度(SHK制度)は現在、第5次評価報告書(AR5)の値を採用しており、メタンは28、一酸化二窒素は265です。本記事では、CO₂換算の仕組みから、主要ガスのGWP値、版による違い、100年という時間軸の意味と限界までを、Scope1算定の実務目線で整理します。

監修者:株式会社ウェイストボックス 木塚晴久(環境ソリューション第1事業部 部長)
最終更新日:2026年6月22日

この記事を読んで欲しい人

  • 自社のScope1排出量算定を担当している方
  • GHG算定やカーボンフットプリント業務に関わり始めた方
  • GWP100aという用語は知っているが、背景まで理解できていない方
  • 算定ツールの出力で「GWP 100a」という表記を見かけて意味を確認したい方
  • どのIPCC評価報告書の値を使うべきか整理したい方

目次

  1. なぜCO2換算が必要か――性質の異なる複数のガス
  2. GWPとGWP100a――100年時間軸と「a」の意味
  3. 主要ガスのGWP値とCO2換算の計算例
  4. GWPには「版」がある――AR4・AR5・AR6で値が変わる
  5. 100年という時間軸の意味と限界
  6. 実務で押さえるポイント
  7. よくある質問(FAQ)
  8. まとめ
  9. 参考資料
目次

1. なぜCO2換算が必要か――性質の異なる複数のガス

Scope1(自社が所有・管理する設備や活動からの直接排出)には、二酸化炭素(CO₂)だけでなく、メタン(CH₄)、一酸化二窒素(N₂O)に加え、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、パーフルオロカーボン(PFC)、六ふっ化硫黄(SF₆)、三ふっ化窒素(NF₃)といった代替フロン等の複数種類の温室効果ガスが含まれます。これらは、国内の算定・報告・公表制度(SHK制度)が対象とする7種類の温室効果ガス(CO₂、CH₄、N₂O、HFC、PFC、SF₆、NF₃)に対応します。工場のボイラーや加熱炉での燃料燃焼、社用車の燃料使用、冷凍・空調設備からの冷媒の漏えいなどが、その発生源です。これらのガスは、大気中での寿命や赤外線を吸収する能力といった物理的性質が大きく異なります。

たとえばメタンは、大気中での寿命は比較的短いものの、単位質量あたりの温暖化効果は二酸化炭素よりはるかに大きいガスです。一方で二酸化炭素は、単位質量あたりの効果は相対的に小さいものの、大気中に長期間とどまり続けます。性質の異なるガスを「CO₂が何トン、メタンが何トン」と単純に足し合わせても、地球温暖化への影響を正しく評価することはできません。そこで、各ガスの温暖化への寄与を共通のものさしで重み付けし、二酸化炭素に換算した値(CO₂換算、t-CO₂e)として合算します(図1)。この共通のものさしがGWP(地球温暖化係数)です。

二酸化炭素・メタン・一酸化二窒素・代替フロン等(HFC・PFC・SF6・NF3)の7種類のガスを、GWP(地球温暖化係数)で重み付けし、CO2換算(t-CO2e)として合算・比較できるようにする流れ。図1 性質の異なる複数ガスをCO2換算でまとめる

2. GWPとGWP100a――100年時間軸と「a」の意味

GWP(Global Warming Potential:地球温暖化係数)とは、ある温室効果ガスが一定期間に地球温暖化へ与える影響を、二酸化炭素を1とした相対値で表した指標です。たとえばメタンのGWPが28であれば、同じ質量の二酸化炭素と比べて、その期間を通じた温暖化影響が28倍であることを意味します。GWPを使うことで、複数種類のガスを「CO₂換算値」という共通の単位に置き換えて集計・比較できます。

GWP100a(あるいはGWP100、GWP-100)とは、排出後100年間にわたる温暖化影響を積算したGWP値を指します(図2)。「a」はannum(ラテン語で「年」)を表し、時間軸が年単位であることを示す表記です。LCAやカーボンフットプリントの算定ツールでは、特性化係数(characterization factor)の名称として「GWP 100a」と表示されることが多く、Scope1を含む排出量算定でこの表記を目にします。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)やGHGプロトコルでは、この100年という時間枠が標準的に用いられており、企業の排出量算定・報告では事実上の標準となっています。短期的な温暖化影響を重視する場面では、20年で評価するGWP20が参照されることもあります。なお、IPCCやGHGプロトコルの資料では「GWP100」「GWP-100」「100-year time horizon」といった表記が用いられますが、いずれも同じ100年時間軸の考え方であり、GWP100aと意味は変わりません。

GWP100aは排出後100年間の温暖化影響を二酸化炭素を1として相対化した値。「a」はannum(年)。GWP100(100年)は国際的な標準の時間枠で企業の算定・報告で事実上の標準。GWP20(20年)は短期の温暖化影響を重視する場面で参照。図2 GWP100aの意味と時間軸

3. 主要ガスのGWP値とCO2換算の計算例

日本の算定・報告・公表制度(SHK制度)では、温室効果ガスごとのGWP(地球温暖化係数)が政令で定められています。現在採用されているAR5の値では、二酸化炭素が1、メタンが28、一酸化二窒素が265、六ふっ化硫黄(SF₆)が23,500、三ふっ化窒素(NF₃)が16,100などとなっています。フロン類はガス種ごとに値が定められ、たとえばHFC-134aは1,300です。CO₂換算は、各ガスの排出量にそのガスのGWP100を乗じて合算する、という単純な式で求めます(図3)。

CO2換算排出量(t-CO2e)=Σ(各ガスの排出量×そのガスのGWP100)。計算例(AR5):メタン1トン×28=28 t-CO2e、一酸化二窒素1トン×265=265 t-CO2e、六ふっ化硫黄1トン×23,500=23,500 t-CO2e。図3 CO2換算の算定式と計算例(GWP100・AR5)

計算例のとおり、メタン1トンはCO₂換算で28トン、一酸化二窒素1トンは265トン、六ふっ化硫黄1トンは23,500トンに相当します。フロン類や六ふっ化硫黄のように極めてGWPの大きいガスは、質量がわずかでもCO₂換算では大きな値になります。冷媒の漏えいや六ふっ化硫黄を扱う設備があるScope1では、これらのガスの管理が排出量の精度に直結します。

4. GWPには「版」がある――AR4・AR5・AR6で値が変わる

実務で特に注意したいのが、GWPの値はIPCCの評価報告書の版ごとに異なるという点です(図4の比較表)。GHGプロトコルが公表するGWP値表によれば、メタンの100年GWPは第4次評価報告書(AR4)で25、第5次評価報告書(AR5)で28とされています。一酸化二窒素はAR4で298、AR5で265です。最新の第6次評価報告書(AR6)では、メタンが化石起源(fossil)で29.8・非化石起源(non-fossil)で27.0、一酸化二窒素が273と更新されています。AR6でメタンが2つに分かれているのは、化石燃料由来のメタンが大気中で酸化して二酸化炭素になる効果を上乗せするかどうかの違いです。GHGプロトコルのGWP値表(2024年8月版)では、化石起源の値は、石油・ガスシステムや石炭採掘などの化石燃料の漏えい排出と、メタン中の炭素が化石由来となる工業プロセス(カーバイド製造やエチレン製造など)に用いると整理されています。一方、固定燃焼・移動燃焼を含むその他のメタン排出には、非化石起源の値を用います。化石燃料の燃焼に伴うメタンであっても、酸化で生じる二酸化炭素は燃焼由来の二酸化炭素として別途計上されるため、化石起源の高い値を当てると二重計上になるからです。なお日本のSHK制度はこの区分を用いず、メタンは一律28(AR5)として算定します。

GWP100の版別比較表。CO2は全版で1。メタンはSAR21・AR4 25・AR5 28・AR6 29.8。一酸化二窒素はSAR310・AR4 298・AR5 265・AR6 273。六ふっ化硫黄はSAR23,900・AR4 22,800・AR5 23,500。日本のSHK制度はAR5値を採用。図4 GWP100の版別比較(評価報告書ごとに値が変わる)

同じガスでも版によって値が違うため、どの版を使うかで集計したCO₂換算値が変わります。GHGプロトコルが2024年8月に更新したGWP値表(バージョン2.0)では、AR6値が最新値として追加され、最新値(AR6)の使用が推奨されています。ただしGHGプロトコル自体が単一の版を一律に強制するわけではなく、報告先の制度やプログラムが特定の版を指定している場合は、その指定に従うのが実務の基本です。日本のSHK制度は現在、政令に基づきAR5の値(メタン28、一酸化二窒素265)を用いるため、GHGプロトコルに基づく任意開示とSHK制度報告とで、使用するGWPの版を明示して使い分ける必要があります。社内外で複数の年度・部門の数値を比較する際も、使った版を揃えること、揃っていない場合はその旨を明示することが欠かせません。

5. 100年という時間軸の意味と限界

100年という時間軸は、科学的に唯一の正解というわけではなく、国際的な合意のもとで採用されてきた実務上の基準です。国や企業をまたいだ排出量の比較や、長期的な気候安定化目標との整合を考えると、100年がバランスの取れた時間枠として定着してきました。一方で、この時間軸には限界も指摘されています。とりわけメタンのような短寿命のガスは、時間軸の取り方で見え方が大きく変わります(図5)。

メタンのGWPは20年(GWP20)で約84、100年(GWP100)で約28(いずれもAR5)。同じメタンでも時間軸で値が約3倍違う。短寿命ガスは100年でならすと相対的に小さく見える。近年はGWP*など別指標の研究も進む。図5 100年時間軸の限界(メタンの20年と100年)

IPCC第5次評価報告書では、メタンの20年GWPは約84、100年GWPは約28とされています。同じメタンでも、短期の影響を重視する20年で見るか、長期でならす100年で見るかによって、評価が約3倍変わります。100年GWPは、短寿命ガスの排出変化がもたらす短期的な温暖化影響を相対的に反映しにくいという特性を持ちます。こうした課題を背景に、近年は短寿命ガスの扱いを改善する「GWP*(GWPスター)」など、別の評価手法の研究や議論も進んでいます。GWP100aを使う際は、国際的に合意された標準であると同時に、一定の前提と特性を持つ指標であることを理解しておくことが重要です。

6. 実務で押さえるポイント

Scope1の算定でGWP100aを用いるときの実務上の要点は、次のように整理できます。第一に、自社が報告する制度・枠組みが指定するGWPの版を確認することです。日本のSHK制度に基づく報告であればAR5の値を用います。第二に、社内の経年比較や部門間の集計では、使うGWPの版を統一することです。版が混在すると、削減したように見えても実際は係数の違いによる変動であった、という誤解を生みます。第三に、算定結果を開示する際は、使用したGWPの版(および時間軸)を明記することです。SHK制度とGHGプロトコルの違いのように制度間で前提が異なる場合もあるため、どの基準で算定したかを示すことが信頼性につながります。冷媒や六ふっ化硫黄のようにGWPの大きいガスを扱うScope1では、こうした係数の管理が排出量の精度を左右します。

7. よくある質問(FAQ)

質問:GWP100aとGWP100は違うものですか。

回答:同じものを指します。「a」はannum(年)を表す記号で、100年時間軸であることを示しています。LCAやカーボンフットプリントの算定ツールでは「GWP 100a」と表記され、IPCCやGHGプロトコルの文脈では「GWP-100」「GWP100」と書かれることが多いだけで、意味は同じです。

質問:AR6が出たのに、なぜAR5の値を使うのですか。

回答:報告先の制度・枠組みがどの版を採用しているかで決まるためです。日本のSHK制度は現在AR5の値を政令で定めています。最新の科学的知見はAR6ですが、制度が採用する版に従って算定するのが原則です。将来、制度がAR6へ更新される可能性はあるため、動向は確認しておくとよいでしょう。

質問:GWP20はどんなときに使いますか。

回答:メタンのような短寿命のガスについて、短期的な温暖化影響を重視して評価したい場合に参照されます。ただし、企業の温室効果ガス排出量の算定・報告で標準的に用いられるのはGWP100です。GWP20を併記する場合は、どちらの時間軸かを明示します。

質問:GHGプロトコルはどの版のGWPを求めていますか。

回答:GHGプロトコルのGWP値表(2024年8月版)では、AR6値が最新値とされ、最新値(AR6)の使用が推奨されています。ただし制度やプログラムが別の版を指定している場合は、その指定に従います。日本のSHK制度では政令で定められた地球温暖化係数(AR5)を用いるため、GHGプロトコルに基づく任意開示とSHK制度報告とで、使用したGWPの版を明示して使い分けることが重要です。GHGプロトコルの全体像は「GHGプロトコルとは」を参照ください。

まとめ

GWP100aは、排出後100年間の温暖化影響を二酸化炭素を1として相対化した地球温暖化係数で、「a」は年(annum)を意味します。性質の異なる複数の温室効果ガスを、各ガスのGWP100を乗じてCO₂換算(t-CO₂e)にまとめることで、合算・比較が可能になります。Scope1では、燃料燃焼によるCO₂だけでなく、メタンや一酸化二窒素、冷媒・六ふっ化硫黄といったGWPの大きいガスも対象になります。

最も注意すべきは、GWPの値がIPCCの評価報告書の版(SAR・AR4・AR5・AR6)ごとに異なる点です。日本のSHK制度は現在AR5(メタン28、一酸化二窒素265)を採用しています。経年比較や部門間集計では版を統一し、開示時には使用した版と時間軸を明記することが、Scope1算定の信頼性を支えます。Scope1の全体像は「Scope1とは」、制度ごとの前提の違いは「SHK制度とGHGプロトコルの違い」を参照ください。

(執筆者:木塚)

参考資料

この記事が気に入ったら
いいねしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次