CDPのサプライヤーエンゲージメント評価(SEA/SER)は、企業がサプライチェーン全体でどれだけ戦略的に気候変動対策を進めているかを測る指標です。本記事では評価の仕組み、スコアリングの考え方、実務対応の要点を解説します。
・CDP回答やScope3対応を担当しているサステナビリティ・調達部門の方
・「サプライヤーエンゲージメント」が評価にどう影響するか知りたい方
・SEA/SERで評価を上げるための実務ポイントを整理したい方
導入
CDPへの回答を続けていると、「自社の排出量管理はある程度できてきたが、サプライチェーンはどう説明すべきか」という壁に突き当たることが少なくありません。実際、近年のCDP評価では、Scope1・2だけでなく、Scope3、特にサプライヤーをどこまで巻き込めているかが強く問われています。
その象徴が「サプライヤーエンゲージメント評価(Supplier Engagement Assessment/旧SER)」です。これは単なる参考指標ではなく、CDPが企業の気候対応の成熟度を測るうえで重視する、気候変動質問書のサプライチェーン関連回答のみを抽出して算出する副次的指標です。
本記事では、SEA/SERの基本的な位置づけから、評価項目の考え方、スコアが決まるロジック、そして実務で何を準備すべきかまでを体系的に整理します。読み終えたときに、「自社はどこが弱く、次に何をすべきか」が具体的に見えることを目指します。
サプライヤーエンゲージメントとは何か
概要
CDPにおけるサプライヤーエンゲージメントとは、企業が自社のサプライチェーン全体、とくにScope3排出に対して、どれだけ計画的・継続的に働きかけているかを示す概念です。
・自社単体ではなくバリューチェーン全体が評価対象
・情報収集だけでなく、削減に向けた働きかけが重視
・Scope3対応の「実行力」を測る指標
CDPがサプライヤーを重視する理由
CDPがサプライヤーエンゲージメントを重視する背景には、排出構造の現実があります。多くの製造業・小売業では、Scope3が全体排出量の7~9割を占めることも珍しくありません。いくら自社工場での省エネを進めても、調達先の排出が減らなければ、気候変動対策としては限定的です。
そのためCDPは、「どれだけサプライヤーに関与しているか」を企業の本気度を測る重要な指標と位置づけています。単なるアンケート配布ではなく、対象範囲の設定、要求水準、支援策の有無まで含めて評価する点が特徴です。
実務でよくある誤解は、「サプライヤーが対応できないから仕方ない」という考え方です。CDPの視点では、対応できないこと自体よりも、「その状況を把握し、どう支援・改善しようとしているか」が問われます。つまり、完璧な成果よりも、戦略とプロセスの一貫性が重要なのです。
・Scope3排出の構造を定量的に把握する
・サプライヤー関与を「前提条件」として整理する
・結果よりプロセス説明を重視する
情報開示からエンゲージメントまでの段階性
サプライヤーエンゲージメントは一足飛びに高度化できるものではありません。CDPも、企業の成熟度に応じた段階的なアプローチを前提としています。
初期段階では、排出量やエネルギー使用量の把握を目的とした情報開示要請が中心になります。次の段階では、Scope3算定への反映や、排出削減目標の共有が進みます。さらに成熟すると、SBT設定の要請や、再エネ導入、共同削減プロジェクトといったエンゲージメントフェーズに移行します。
重要なのは、「どの段階にあるか」を自社で明確に認識し、それをCDP回答の中で正直に説明することです。無理に先進的に見せようとすると、かえって回答の整合性が崩れます。
・エンゲージメントの段階を整理する
・実態に合ったレベルで説明する
・次のステップを明示する
Supplier Engagement Assessment(SEA)の位置づけ
概要
SEA(旧SER)は、CDPの気候変動質問書の回答をもとに、サプライヤーエンゲージメントに特化して算出される独立評価です。
・通常のCDPスコアとは別枠で算出
・フルバージョンの質問書回答企業が対象
・年1回リーダーボードが公表される
通常スコアとの違い
多くの担当者が混乱しやすいのが、通常のCDP気候変動スコアとSEAの違いです。気候変動スコアは、ガバナンス、リスク管理、排出実績など幅広い要素を総合的に評価します。一方、SEAはその中からサプライチェーン関連の設問だけを横断的に抜き出して評価します。
つまり、SEAは気候変動スコアとは別枠で算出されるため、同じ企業でも「総合評価(気候変動)」と「サプライヤーエンゲージメント(SEA)」の結果が必ずしも一致しない点に注意が必要です。自社対策が進んでいても、サプライヤー対応が弱ければSEAは伸びません。
・SEAは独立指標として捉える
・スコア構造の違いを社内で共有する
リーダーボードの意味
CDPはSEAで高評価(例:SEAスコアA)となった企業を、条件を満たす場合にリーダーボードとして公表します。掲載には、顧客要請や資本市場要請に対して「公開回答」していること等が前提条件として示されています。
実務上は、「なぜ選ばれたのか」を読み解くことが重要です。多くの場合、評価されているのは革新的な施策よりも、調達・経営・環境部門が連動した地道な取り組みです。
なおSEAスコアは原則として外部公表されず、例外的にA評価となった場合に公表対象となります。
・表彰事例をベンチマークに使う
・派手さより再現性を重視する
評価対象となる主な項目
概要
SEAは、ガバナンス、Scope3目標、サプライヤーエンゲージメントなど、複数領域にまたがる質問群を束ねて評価します。
・ガバナンスと戦略の位置づけ
・Scope3算定・目標設定
・エンゲージメントの範囲と深さ
ガバナンスと戦略
サプライヤーエンゲージメントは、現場任せでは評価されません。取締役会や経営層が、サプライチェーンの気候課題をどう監督しているかが問われます。
調達方針や評価制度にどう反映されているかまで説明できると、評価は大きく変わります。
・経営レベルの関与を明示する
・調達ルールとの連動を整理する
Scope3とサプライヤーエンゲージメント
SEAでは、「どのサプライヤーと、どこまでエンゲージメントしているか」が重要です。全社一律ではなく、排出量や支出額に基づく優先順位付けが評価されます。
・重点サプライヤーを定義し優先順位付けを行う
・カバー率を定量的に示す
スコアリングの考え方
概要
SEAのスコアは、戦略性・体系性・実行プロセスを中心に評価されます。
・成熟度モデルに基づく評価
・プロセス重視
・要求水準の段階性
SEA評価のロジック
SEAは、企業のCDP回答(気候変動)に含まれるサプライヤー関連の設問をもとに、内容の網羅性や具体性、管理方法、取り組みの進捗といった観点から点数化され、A〜Fのスコアとして示されます。重要なのは、現実的な段階設定です。
・現状レベルを正確に把握
・無理な背伸びをしない
よくある誤解
「削減量(成果)をまだ示せないと評価されない」という誤解は根強いですが、SEAでは「削減実績の数字そのもの」だけで評価が決まるわけではありません。回答では、サプライヤーに対する働きかけの範囲や優先順位の付け方、要求事項、管理方法、取り組みの進捗を、どれだけ具体的かつ網羅的に説明できているかがスコアに反映されます。
・数値より説明の一貫性
・改善計画を示す
実務担当者が押さえるべきポイント
概要
SEA対応は、CDP回答の一部ではなく、調達・経営を含めた全社プロジェクトとして捉える必要があります。
・Scope3と調達の連動
・部門横断体制
・ストーリー設計
回答設計の実務
CDP質問書では、サプライヤー関連設問が複数モジュールに散らばっています。全体を一つのストーリーとして設計することが重要です。
・設問横断で整合性を確認
・社内情報を一本化
評価向上に向けた現実的アプローチ
いきなりリーダーボードを狙うよりも、まずは「サプライヤーとのエンゲージメントを実施していることを、質問上きちんと報告できている状態」をつくるのが現実的です。SEAでは、Dを超えるスコアの前提としてサプライヤーエンゲージメントの報告が求められます。
・閾値要件を把握する
・段階的改善を計画する
参考文献
[1] CDP Supplier Engagement Assessment Methodology 2025
[2] 2025 CDP Supplier Engagement Assessment Introduction
https://assets.ctfassets.net/v7uy4j80khf8/6H44HNCE7SYuavVDFbKYi6/c914269871b667deabc7dfafbb22307e/CDP_Supplier_Engagement_Assessment_Scoring_Introduction_2025.pdf
[3] CDP Supply Chain
https://www.theconsumergoodsforum.com/race-to-zero-hub-resources/cdp-supply-chain/
[4] CDP Supply Chain Membership Brochure 2025
https://assets.ctfassets.net/v7uy4j80khf8/6kjXZXmbyzkUPsK7JTJny5/6add79cc00c97308151de4cc1a6716ee/CDP_Supply_Chain_Membership_Brochure_2025.pdf

