Scope1(スコープ1)は、サプライチェーン全体に占める割合だけを見れば、業種によっては大きくありません。それでも、算定の信頼性という点では最も重い領域です。購入電力(Scope2)や取引先の活動(Scope3)と違い、Scope1は自社の判断だけで増減できる唯一の排出だからです。本記事では、Scope1の定義・4つの排出源・計算式(具体例つき)・Scope2/3との境界・削減アプローチまでを、環境省やGHGプロトコルの一次資料に基づき、実務担当者がそのまま社内で使える水準で整理します。
監修者:株式会社ウェイストボックス 木塚晴久(環境ソリューション第1事業部 部長)
最終更新日:2026年6月21日
この記事を読んで欲しい人
- 排出量算定を初めて担当する方、基礎から体系的に固めたい方
- SHK報告やCDP・SBT対応で、自社のScope1を算定する実務者
- リース車・委託輸送・自家発電など、Scope1・2・3の境界判断で迷う方
- 環境省・GHGプロトコルの一次資料に基づいて算定根拠を確認したい方
- Scope1削減を、脱炭素計画やTCFD・SBTの開示に接続したい方
目次
- Scope1とは何か――定義とGHGプロトコル上の位置づけ
- Scope1の対象範囲――4つの排出源
- Scope1の算定方法と計算式
- Scope2・Scope3との境界をどう見極めるか
- Scope1削減の実務的アプローチと目標設定
- Scope1算定で間違えないための注意点
- よくある質問(FAQ)
- まとめ
- 参考資料
1. Scope1とは何か――定義とGHGプロトコル上の位置づけ
Scope1とは、企業が自社の活動によって直接排出する温室効果ガス(GHG)を指します。工場のボイラーや自家発電機、社用車の燃料燃焼、冷媒の漏洩など、自社が所有または管理する排出源から生じる排出が対象です。国際的な算定基準であるGHGプロトコル(A Corporate Accounting and Reporting Standard、WRI/WBCSD)では、温室効果ガスの排出を直接排出と間接排出に分け、Scope 1・2・3の3区分で整理します。Scope1はそのうち、事業者が所有または管理している排出源からの直接排出と定義されています。
図1 GHGプロトコルのScope1・2・3とScope1の位置づけ
3区分のうち、Scope2は購入した電力・熱・蒸気の使用に伴う間接排出、Scope3はそれ以外のあらゆる間接排出を扱います。Scope1はこの中で最も企業の裁量が大きく、設備更新やエネルギー効率化といった自助努力で直接削減できる領域です。逆にScope3は他社の活動に依存するため、自社のコントロールは効きにくくなります。Scope1・2・3全体の枠組みは、媒体内の記事「GHGプロトコルとは」で整理しています。
ここで押さえておきたいのは、Scope1の量的な大きさと、算定上の重要性は別だという点です。サプライチェーン全体ではScope3が大半を占める企業も多く、その場合Scope1の割合は相対的に小さくなります。しかし、Scope1は自社が直接コントロールできる唯一の領域であり、活動量データの粒度も最も高い領域です。ここの算定が不正確だと、Scope2・3の按分や開示全体の信頼性が揺らぎます。Scope1の正確な把握は、脱炭素経営の出発点であり、後続のScope2・3算定の土台になります。なお、国内の法定報告制度(SHK制度)とGHGプロトコルの関係は、媒体内の記事「SHK制度とGHGプロトコルの違い」で詳しく解説しています。
2. Scope1の対象範囲――4つの排出源
Scope1の対象は、企業や組織が直接管理する活動・設備・車両から生じる温室効果ガスの排出です。実務では、排出源を「固定燃焼」「移動燃焼」「プロセス排出」「漏洩排出」の4つに整理すると、算定の漏れを防ぎやすくなります(図2)。
図2 Scope1の対象となる4つの排出源
固定燃焼は、ボイラーや炉、自家発電機など、定置の設備での燃料燃焼です。移動燃焼は、社用車やトラック、構内のフォークリフトなど、自社が運行する車両の燃料燃焼を指します。プロセス排出は、燃焼ではなく化学反応に伴う排出で、セメント製造における石灰石の熱分解が代表例です。漏洩排出は、冷凍・空調・冷蔵設備からの冷媒の漏れで、ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)などの高い地球温暖化係数(GWP)を持つガスを含むため、量が少なくても影響が大きくなります。環境省・経済産業省の「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン」でも、サプライチェーン排出量はScope1・2・3の合計として定義され、Scope1は事業者からの直接排出と位置づけられています。
これら4つはいずれも自社の管理下で発生する排出であり、削減のための直接的な制御や投資判断が可能な範囲です。とくに漏洩排出は、定常的な燃料使用と違って見落とされがちなので、冷媒の補充・交換の履歴を記録し、算定対象に含めることが実務上の要点になります。
3. Scope1の算定方法と計算式
Scope1排出量は、活動量と排出係数を掛け合わせて求めます。「排出量=活動量×排出係数」という最も基本的な構造で、活動量は燃料や材料の使用量、排出係数は1単位あたりのCO₂換算量を表します(図3)。
図3 Scope1排出量の基本式と計算例(軽油1,000Lの場合)
たとえば自社で軽油を1,000リットル使用した場合を考えます。環境省・経済産業省「算定・報告・公表制度における算定方法・排出係数一覧」では、軽油の排出係数は2.62トンCO₂/キロリットル(=2.62 kg-CO₂/L)と定められています。したがって排出量は、1,000 L × 2.62 kg-CO₂/L = 2,620 kg-CO₂ となります。燃料の種類ごとに排出係数は異なるため、「燃料種類×単位」を正確に対応づけることが算定精度の根幹です。
メタン(CH₄)や一酸化二窒素(N₂O)など、CO₂以外のガスを排出する場合は、ガスごとに算定した排出量に地球温暖化係数(GWP)を掛けてCO₂に換算します。同じ排出係数一覧では、GWPとしてCO₂を1、メタンを28、一酸化二窒素を265とする値(IPCC第5次評価報告書に基づく)が用いられています。算定に必要なデータは、固定燃焼なら燃料使用量、移動燃焼なら運行距離や給油量、プロセス排出なら原材料使用量、漏洩排出なら冷媒の補充量・交換量です。これらを部門ごとに取得ルートを定めて集め、毎年同じ基準で更新できる体制を整えることが、再現性のある算定につながります。
4. Scope2・Scope3との境界をどう見極めるか
Scope1・2・3の区分は理論上は明確ですが、実務では「どこまでがScope1か」で迷う場面が少なくありません。判断の軸は、その排出を誰が運用・管理しているか、です。自社が設備や燃料を直接使用している排出はScope1、他者が発電した電力・熱を購入して使う排出はScope2、社外の活動に伴う排出はScope3、と整理できます(図4)。
図4 Scope1・2・3の境界――「誰が排出を管理しているか」で分ける
実務で迷いやすいのは、次のようなグレーゾーンです。社用車による燃料燃焼は、自社が車両を保有・運行管理していればScope1ですが、委託輸送の場合はScope3(カテゴリ4:輸送・配送)になります。自社設備の冷媒漏洩はScope1ですが、リース物件や委託管理設備は契約形態に応じてScope1またはScope3に分かれます。自社の燃料燃焼による発電はScope1で、その電力を他社へ売電した分はScope2またはScope3として扱います。判断を属人的に行うと、年度や担当者によって算定範囲が変わってしまうため、分類の判断基準を明文化した「算定境界マニュアル」を整えておくことが重要です。
なお、購入電力に伴うScope2の算定方法(ロケーション基準とマーケット基準の違いなど)は媒体内の記事「Scope2(スコープ2)とは?」で、サプライチェーン全体を15区分でとらえるScope3の全体像は「Scope3(スコープ3)とは?」で、それぞれ詳しく解説しています。Scope1〜3の全体と製品単位のCFPとの違いを整理したい場合は、媒体内の記事「企業の排出量算定(Scope1〜3)とCFPの違い」も参考になります。
5. Scope1削減の実務的アプローチと目標設定
Scope1は自社が直接管理できる排出領域のため、削減の効果が最も早く現れます。主なアプローチは、燃料転換・設備更新による効率化・冷媒漏洩対策の3つです(図5)。
図5 Scope1削減の3つのアプローチと管理サイクル
燃料転換は、重油から都市ガスへの切替や電化など、化石燃料からより低炭素な燃料・エネルギーへ移行する取り組みです。設備更新・効率化は、老朽設備の更新や運転最適化により燃焼効率を高めるもので、高効率ボイラーやヒートポンプの導入が典型です。冷媒・漏洩対策は、定期点検と低GWP冷媒への切替が中心になります。これらは単独で進めるよりも、「算定→削減計画→モニタリング→改善」という管理サイクルに組み込むと、効果を継続的に把握できます。
削減目標は、基準年・目標年・削減率を明確にし、総量(t-CO₂eq)ベースで設定するのが実務の基本です。SBTi(Science Based Targets initiative)の近接目標基準では、1.5℃の水準に整合させる場合、Scope1・2の絶対量を年率最低4.2%の直線的削減(Absolute Contraction Approach)とすることが求められます。自社の削減目標をこうした国際的な水準と整合させておくと、SBT認定やTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の開示にもそのまま接続できます。モニタリングは四半期単位で行い、前年との差分をグラフで可視化しておくと、設備投資の優先順位を定量的に判断できるようになります。
6. Scope1算定で間違えないための注意点
Scope1算定の正確性は、脱炭素戦略全体の信頼性を左右します。実務で押さえるべき注意点は、排出係数の更新と、算定の再現性の2つに集約されます。
第一に、排出係数は最新の公表値を使うことです。環境省・経済産業省の排出係数一覧は定期的に改定され、GWPの基礎となるIPCC評価報告書の版が変われば係数も見直されます。古い数値を使い続けると、実際より高く(または低く)算定される誤差が生じます。年度初めに算定テンプレートを最新版へ更新する運用を標準化しておくことが、監査やCDP開示での後戻りを防ぎます。
第二に、再現性を確保することです。Scope1は直接排出であるがゆえに、入力ミス1件が算定値全体に効いてしまいます。活動量データは部門横断で統一フォーマット化し、入力者と確認者を分けてダブルチェックを行うことが望まれます。Excelや社内システムで算定する場合は、年度ごとにロック版を保存し、計算式・排出係数・単位換算の変更履歴を残しておくと、第三者検証の際に算定根拠を提示できます。エビデンス(伝票・記録)は3年以上保管し、Scope1・2・3の算定テンプレートは別ファイルに分けて混在を防ぐことが、整合性を保つうえでの基本です。
7. よくある質問(FAQ)
質問:Scope1はどのくらいの頻度で算定すべきですか。
回答:報告は原則として年度単位で行いますが、削減目標の進捗確認には四半期単位のモニタリングが有効です。年次の算定と、四半期の進捗管理を分けて運用すると、設備投資の判断にも使えます。
質問:排出係数は前年のまま使っても問題ありませんか。
回答:推奨されません。環境省・経済産業省の排出係数一覧は定期的に更新されるため、年度ごとに最新値を確認し反映する必要があります。古い係数の使用は算定誤差の主な原因になります。
質問:冷媒漏洩の排出もScope1に含まれますか。
回答:はい。自社設備からの冷媒(HFCs等)の漏洩は、高いGWPを持つため量が少なくても影響が大きく、Scope1に算入します。補充・交換の履歴を記録し、算定対象に含めてください。
質問:委託先が運用する車両の燃料使用はScope1ですか。
回答:自社が車両を保有・運行管理している場合はScope1です。委託輸送の場合は、自社の直接管理下にないためScope3(カテゴリ4:輸送・配送)に分類します。契約形態で判断が変わるため、境界マニュアルで基準を定めておくと迷いません。
質問:Scope1の削減目標はどう設定すればよいですか。
回答:基準年・目標年・削減率を定め、総量(t-CO₂eq)ベースで設定するのが基本です。SBTiの近接目標基準では、1.5℃整合の場合にScope1・2を年率最低4.2%削減することが求められており、この水準に合わせると国際的な開示にも接続しやすくなります。
まとめ
Scope1は、自社が所有・管理する排出源からの直接排出であり、固定燃焼・移動燃焼・プロセス排出・漏洩排出の4つに整理できます。算定の基本式は「活動量×排出係数」で、排出係数とGWPは環境省・経済産業省の公表値を年度ごとに更新して使います。サプライチェーン全体に占める割合は業種によって小さくても、自社が直接コントロールできる唯一の領域であるため、ここの精度がScope2・3や開示全体の信頼性を支えます。
実務では、Scope2・3との境界をマニュアルで明文化し、グレーゾーン(委託輸送・リース設備・売電など)の判断基準を社内で固めておくことが、年度をまたいだ整合性を保つ鍵になります。削減は燃料転換・効率化・冷媒管理の3軸を管理サイクルに組み込み、SBTの1.5℃水準(年率4.2%)と整合させると、TCFDやSBTの開示にそのまま接続できます。Scope1を「正確に算定し、説明できる状態」に保つことが、脱炭素経営の確実な第一歩になります。
(執筆者:木塚)
参考資料
- GHG Protocol「A Corporate Accounting and Reporting Standard(改訂版)」(WRI/WBCSD、2004年):https://ghgprotocol.org/corporate-standard
- 環境省・経済産業省「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン」(グリーン・バリューチェーンプラットフォーム):https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/estimate_04.html
- 環境省・経済産業省「算定・報告・公表制度における算定方法・排出係数一覧」(SHK制度):https://policies.env.go.jp/earth/ghg-santeikohyo/calc.html
- 環境省「温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度(SHK制度)」制度概要:https://policies.env.go.jp/earth/ghg-santeikohyo/about.html
- SBTi「Standards and guidance(Corporate Near-Term Criteria 等)」:https://sciencebasedtargets.org/standards-and-guidance
- 媒体内:GHGプロトコルとは / SHK制度とGHGプロトコルの違い
- 媒体内:Scope2(スコープ2)とは? / Scope3(スコープ3)とは? / 企業の排出量算定(Scope1〜3)とCFPの違い


