CDPスコアを左右する「エッセンシャルクライテリア(必須要件)」とは何かを、気候変動質問票を中心に実務目線で解説。総合スコアが付与される仕組みやA-/A獲得に必要な要件例、対応の考え方を整理します。
最終更新日:2026年3月9日
・CDPでC止まり・B止まりが続いている担当者
・点数は足りているのに総合スコアが上がらない理由を知りたい方
・A-/A(Leadership)を本気で目指す企業の実務責任者
・CDP質問票の回答を「戦略的に」設計したいサステナ担当者
導入
CDPの総合スコアが思うように上がらない——。
その相談を受ける中で、近年特に増えている原因が「エッセンシャルクライテリア(Essential Criteria)」の取りこぼしです。
実際、回答内容を見てみると「点数的にはB相当」「A-スコアでもおかしくない」ケースであっても、必須要件を一つ満たしていないために総合スコアが下位レベルのままとなっていることが少なくありません。
2024年以降、CDPは従来Aリストのみに適用されていた、「その総合スコアで必要とされる要件」を、新たに気候変動質問書のA-スコア以下にも設けました。これにより、高得点=高スコアという単純な構図ではなくなり、「必須要件を満たしているかどうか」についても必ず確認すべきポイントとなっています。
本記事では、CDPのエッセンシャルクライテリアの考え方から、レベル別の位置づけ、A-/A(Leadership)を狙う際の代表的な要件例、そして実務での使い方までを体系的に解説します。 ※Essential CriteriaはFull corporate questionnaire対象(SMEには適用されません)。
※こちらもぜひご覧ください。➡「なぜCDPのスコアはBで止まるのか」
CDPのエッセンシャルクライテリアとは何か
概要
エッセンシャルクライテリアとは、CDPにおいて各スコアレベルに到達するために必ず満たす必要がある最低要件です。どれか一つでも欠けると、得点に関係なくスコアが下位レベルに制限されます。
- スコアレベルごとに「落第ライン」が設定されている
- 得点が足りていても必須要件を満たさない場合は総合スコアは上がらない
- 2024年以降、影響力が大きくなった評価要素
「必須要件=減点項目」ではないという誤解
エッセンシャルクライテリアは、よく「減点される条件」と誤解されがちですが、正確にはそうではありません。
CDPの考え方では、これはその評価段階に立つ資格があるかどうかを判断するための関門です。 たとえばC(Awareness)レベルでは、「リスクおよび/または機会を特定し、評価し、管理するためのプロセスを確立していること」が前提条件になります。これが確認できなければ、いくら他の設問で点を稼いでもCには進めません。
この構造は、大学の単位取得と進級の関係に似ています。期末試験の点数が良くても、必修科目を落とせば進級できない——それと同じ仕組みです。
- エッセンシャルクライテリアは「加点」ではなく「到達条件」
- 一つの未充足が全体スコアを止める
- 回答の質より「存在しているか」が問われる設問も多い
なぜ2024年以降、重要度が急上昇したのか
2024年以降、CDPはエッセンシャルクライテリアを気候変動質問書の主要レベルに拡張しました。この背景には、企業の環境対応について、単に回答項目を埋める形式的な開示ではなく、環境リスクや機会の特定、戦略や行動への反映といった本質的な取り組みが十分に示されていないケースが見られたことに加え、気候変動や自然資本の喪失といった環境問題の深刻化により、より実効性が高く、緊急性と変革性を伴う対応を企業に求める必要性が世界的に高まっていることがあります。
- 重要な開示項目を全スコア水準で確実に満たすことが求められる
- 形式的な回答では評価されず、実効性のある対応が前提
- 今後も環境対応の要件は厳格化する前提で考える
総合スコア(D〜A)とエッセンシャルクライテリアの関係
概要
CDPはD(Disclosure)からA(Leadership)まで4段階(各スコアの-も含めると8段階)で評価され、それぞれに対応するエッセンシャルクライテリアが設定されています。上位に行くほど、要件は質・網羅性ともに高度になります。
- 各レベルに「最低限クリアすべき条件」がある
- 各レベルで設定された必須要件を満たせないと、そのレベルのスコアに制限される
- 上位要件は下位要件の積み重ね
Awareness(C)で止まる企業の典型パターン
Cレベルの必須要件は「リスク・機会を特定・評価・管理しているプロセスがあること」です。
ここで多いのが、「リスクは認識しているが、評価・管理プロセスが無い」ケースです。
実際には、リスクの把握や対応は行われているものの、全社的な評価基準、優先順位付け、管理体制や見直しプロセスが整備されていないケースが見られます。
- リスク認識だけでは不十分
- プロセス・頻度・責任主体を明示
- 文章量より構造の明確さが重要
Management(B)で求められる「実装」の壁
Bレベルでは、リスク評価に加えて「管理しているか」が問われます。気候変動に関し、認識・管理プロセスの説明と、少なくとも1つの重大なリスクについて戦略・財務への影響を開示し、管理プロセスの所在を明らかにすることが必須要件の一部として組み込まれています。現在および将来に影響を及ぼす少なくとも一つのリスクについて、その財務上の影響や想定される影響の大きさ、ならびにそれを管理・軽減するための対策を、直接操業・上流・下流のいずれかを含むバリューチェーン上のプロセスとして示せていない場合、必須要件を満たすことはできません。
特に多いのが、3.1.1や3.6.1の回答項目のうち、いずれかに回答することができず回答すべき欄に空欄を残してしまっているパターンです。必須項目が未入力のままだと「complete row」として扱われず、エッセンシャルクライテリアの判定対象にならない(=スコア上限がかかる)ことがあります。まずは3.1.1や3.6.1の質問で要求されている項目すべてに回答できるよう、網羅的にリスクや機会に対する管理を行う必要があります。
※3.1や3.6において「リスク/機会の評価未実施」あるいは「リスク/機会の評価中」と回答された場合は上記の限りではありません。
また、取締役会で気候変動について取り上げる頻度や気候変動が考慮されているガバナンスメカニズムを回答する必要があります。これは、気候変動をどの程度戦略的に重要な課題と位置づけ、取締役会レベルでどの程度の説明責任とコミットメントを持っているかを示すものです。
- 回答すべき項目に未回答が1つでもあるとNG
- 評価に加え、バリューチェーン上での管理・軽減プロセスが必要
- 取締役会による関与とガバナンスは具体的に示す
Leadership(A-/A)で求められる必須要件の全体像
概要
Leadershipレベルでは、戦略・ガバナンス・目標・検証のすべてが高水準で統合されていることが必須となります。一つでも欠けるとA-以上には到達できません。
- 1.5℃整合の移行計画が中心要件
- 排出量の網羅性と検証が厳格
- 「公表されているか」が重要
1.5℃整合の移行計画が「軸」になる理由
近年のLeadership必須要件で最も重視されているのが、1.5℃整合の移行計画です。
これは単なる排出削減計画ではなく、企業戦略全体が脱炭素にどう適応していくかを示すものです。そのため、計画には、ガバナンス、投資計画、リスク管理、KPIが一貫して紐づいている必要があります。
A-レベルにおいては、企業は、1.5℃目標に整合した、またはその他の温度目標に基づく気候移行計画を有するか、2年以内にその策定を計画している必要があります。さらにAリストでは、単なる計画ではなく、ガバナンス・責任体制、進捗管理が統合された、公開可能な移行計画が求められます。
- 移行計画は戦略文書として整理
- 部門横断の整合性が重要
- 未策定の場合は早期の策定を目指す
排出量開示・第三者検証の落とし穴
Scope1・2の95%以上検証実施、Scope3の1つ以上のカテゴリーでの検証実施は、Leadershipでは事実上の前提条件です。
ここで多いのが、「検証は一部(例:国内単体)のみ」「Scope3の検証を実施していない」といったケースです。次のAリストでの必須要件(Scope1・2の100%検証とScope3の1つ以上のカテゴリーで70%以上検証)も見据えながら、計画的に検証割合を高めていくことが望ましいといえます。
Scope3でどのカテゴリーを対象にするかについては、必須要件では規定はありませんが、採点基準の方でセクター別にカテゴリーの規定がありますので、対象カテゴリーを限定する場合にはご注意ください。
- 検証範囲は事前に確認
- 除外は最小限に
- Scope3はまずは1つのカテゴリーから対象に
テーマ別(気候・水・森林)に異なる必須要件の考え方
概要
エッセンシャルクライテリアはテーマごとに適用範囲や厳しさが異なります。気候変動が最も広範で、水・森林は上位レベルのみ対象です。
- 気候変動は全レベル(A、A-、B、C)に適用
- 森林・水はLeadership(A/A-)とA Listが中心(適用条件あり)。
- 事業内容による影響差が大きい
気候変動は下位レベルの取りこぼしに要注意
気候変動は全レベル(A、A-、B、C)に必須要件が設定されています。
そのため、一つの抜け漏れが総合スコアに直結しやすいテーマです。 多くの企業で、まずここを重点的に確認するのが合理的です。
- 気候は最優先で確認
- 下位レベル要件こそ重視
- 年次変更に注意
森林・水は上位レベルでの確認
森林・水については、現時点ではA-/Aレベル中心ですが、対象セクターや適用対象(Corporate full questionnaire)に条件がある点に注意が必要です。
特に森林では、森林破壊や自然生態系の転換を行わないこと等について、期限を伴う公開方針としての明確なコミットメントが必須になります。
※森林・水はFull corporate questionnaireが対象で、原則として金融サービスを主業とする組織は適用外。
- 回答対象であれば早期対応が必須
- コミットメント公表が鍵
ハイスコア獲得のための実務的アプローチ
概要
エッセンシャルクライテリアは「評価基準」にとどまらず「設計図」として使うのが実務上有効です。必須要件を満たさない項目については早急に対応することが、企業の環境問題への取り組みを戦略レベルに引き上げ、投資家からの信頼確保にも寄与します。
- 必須要件から逆算する
- チェックリスト化が有効
- 毎年アップデート前提
チェックリストとして使う発想
多くの先進企業では、当年度のCDP回答提出後にエッセンシャルクライテリアの一覧を確認し、要件を満たしていない項目を早期に特定したうえで、次年度の回答に向けて速やかに対応策の検討・実行に着手しています。
いくらテクニカルに点数を積み上げることができても、実際に取り組んでいない事項を回答で補うことはできません。重要なのは、点数を「取りに行く」前に、評価を「落とさない設計」を行うことです。これこそが、最も効率的で確実なアプローチと言えます。
- 回答提出後にエッセンシャルクライテリアの未達項目を確認
- 各必須要件に対し、実施内容と根拠(証拠)を一つずつ整理
- 年次での比較・点検により、対応漏れや後退を防止
「高得点だが低スコア」を防ぐために
実務で最も避けたいのが、「昨年より内容は良いのに総合スコアが下がる」ケースです。
その多くは、必須要件の変更・追加に気づいていないことが原因です。
- 当年度のエッセンシャルクライテリアを毎年確認
- 前年踏襲の思い込みは危険
- 外部視点のレビューも有効
参考文献

