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Scope3削減を前に進める サプライヤーエンゲージメントの設計と実践ポイント

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Scope1,2,3を算定し、削減目標を立てている企業にとって、次の課題は「いかにしてScope3を減らすか」です。本記事では、とくに排出影響が大きくなりやすいScope3カテゴリ1(購入した製品・サービス)に焦点を当て、サプライヤーと協働して排出係数そのものの改善につなげる「サプライヤーエンゲージメント」を、アンケート設計から実施後フォローまで具体的に解説します。

最終更新日:2026年3月9日

この記事を読んで欲しい人
  • サプライヤーエンゲージメントという言葉は聞いたことがあるが、具体的な取り組みについて知りたいという方
  • Scope3の削減に取り組みたいが、具体的な施策に困っている方
  • サプライヤーエンゲージメントを行う規模やアプローチを理解したい方
  • サプライヤーアンケートで扱う具体的なツールや参考にするべきガイダンスを知りたい方
  • 社内リソースが十分ではなく、現在は取り組めていないがサプライヤーエンゲージメントに興味があるという方
目次

導入

Scope3カテゴリ1の削減に向けた取り組みとしては、環境負荷の低い製品・サービスを優先的に選択する「グリーン調達」がよく知られています。一方で、もう一段“効く”手段として注目されているのが「サプライヤーエンゲージメント」です。

グリーン調達が“自社の購買行動の工夫”だとすると、サプライヤーエンゲージメントは“サプライヤーと一緒に脱炭素を進める仕組みづくり”です。サプライヤーと対話し、データを整え、改善の余地を見つけ、必要に応じて支援しながら、サプライチェーン全体で排出削減を進めます。これにより、自社だけでは手が届きにくい調達段階の排出にも、現実的にアプローチできます。

また、サプライヤーエンゲージメントを設計するうえでは、国際的な枠組みや先行事例の参照が有効です。特に、SBTiが公表しているガイダンス「Engaging Supply Chains on the Decarbonization Journey(Version 1.1, July 2025)」は、働きかけの考え方や段階的な進め方を整理した実務的な指針として参照されることが多い資料です。

本コラムでは、サプライヤーアンケートで「何を聞くべきか」、アンケート実施後に「どうフォローするべきか」まで、具体的なステップとして整理します。読み終えるころには、サプライヤーエンゲージメントの解像度が一段上がるはずです。

出典:SBT Engaging Supply Chains on the Decarbonization Journeyを基にウェイストボックスにて加工

「サプライヤーエンゲージメント」とは何か

概要

サプライヤーエンゲージメントは、ただの“データ回収”でも“お願いごと”でもありません。排出削減の成果をScope3に反映させるために、算定ロジック・データ・関係性をセットで整えていく取り組みです。まずは、考え方の核となるポイントを押さえます。 サプライヤー側で排出が下がったとしても、その効果が自動的に自社のScope3削減として表れるわけではありません。Scope3削減を実現するには、自社の算定ロジックを理解したうえで、サプライヤーの改善が適切に反映されるよう、算定方法やデータの取り扱いも段階的に整備していく必要があります。

サプライヤーエンゲージメントの考え方

サプライヤーエンゲージメントとは、原材料や製品・サービスを提供してくれているサプライヤーの皆さまと対話し、協力しながら排出量の把握や削減を進めていく取り組みです。

特に重要なのが、Scope3の中でも排出量が大きくなりやすいカテゴリ1(購入した製品・サービス)です。カテゴリ1の排出は、自社の工場やオフィスではなく、サプライヤーの製造工程やエネルギー使用によって発生しています。そのため、自社だけで削減しようとしても限界が出やすいのが実情です。

ここで大切なのは、「一方的にお願いする」のではなく、同じゴールを共有しながら進め方を一緒につくることです。たとえば、データの定義を揃える、回答負荷を下げる、必要な支援策を用意する、こうした工夫が、協働を現実のものにします。

1次データを使うということ

Scope3算定を始めたばかりの段階では、多くの企業が以下のような二次データで排出係数を設定しています。

  • 業界平均値
  • 国別平均値
  • LCAデータベースの代表値

これは悪いことではなく、初期段階では現実的で有効な方法です。ただし二次データは平均値なので、実際のサプライヤーの状況とズレる可能性があります。

同じ製品であっても、

  • 使用電力が再エネ中心かどうか
  • 設備の新しさ
  • 製造プロセスの違い
    によって、実際の排出量は大きく変わります。

そこで、サプライヤーから

  • 実際のエネルギー使用量
  • 生産量(可能なら製品別)
  • 排出量の算定結果(Scope1/2/3など)
    といった一次データ(実測・実態に基づくデータ)を共有してもらうことで、「平均的な排出係数」ではなく、そのサプライヤーに即した排出係数を使えるようになります。これが一次データ活用の基本です。

活動量ではなく排出係数そのものを削減する

Scope3排出量を減らす方法には、大きく分けて2つあります。

  1. 活動量(購買量・購買金額・輸送量など)を減らす

2. 排出係数(同じ活動量あたりの排出)を下げる

多くの企業では、金額ベースの経理データや重量・体積などの購買データを活動量として、産業連関表やAIST-IDEA等の二次データに基づく排出係数を掛け合わせる方法を採用しています。

ただし、二次データの排出係数は毎年勝手に下がるものではありません。この前提のまま削減目標だけを追うと、「活動量を減らす=事業規模を縮小する」方向に引っ張られてしまうケースも起こり得ます。

サプライヤーエンゲージメントの価値は、一次データを起点に、サプライヤーの改善(再エネ化、効率化、工程改善など)を“排出係数の低下”として捉え、Scope3算定にも反映しやすくするところにあります。事業と削減の両立を現実にするには、ここが重要な分岐点です。

100% 一次データにすることは現実的ではない

一次データは強力ですが、すべてを一次データに置き換えるのは現実的ではありません。初年度から多くのサプライヤーに詳細データを求めれば、相手の負担も社内運用の負担も大きく、継続できなくなるリスクがあります。

そこで、段階的に反映する考え方が必要です。一次データをScope3算定に取り込む方法として、代表的に「ハイブリッド法」と「全体換算法」があります。

  • ハイブリッド法:一次データが取得できた部分だけ二次データから置き換え、それ以外は二次データを継続利用する方法。考え方がシンプルで、導入しやすいのが利点です。
  • 全体換算法:一次データが得られた範囲をもとに、全体へ引き延ばして算定する方法。二次データを使わずに算定できる点はメリットですが、一次データの取得割合が低いと実態とかけ離れる可能性があります。

自社の目的(精緻化か、削減管理か、開示対応か)と取得状況を踏まえ、「まずはハイブリッドで進め、成熟に応じて拡張する」といった現実的な設計が望まれます。

出典:CDPウェビナー資料を基にウェイストボックスにて加工

「サプライヤーエンゲージメント」のステップ

概要

ここからは実務編です。サプライヤーエンゲージメントは、思いつきでアンケートを配るより、先に“勝ち筋”を決めた方がうまくいきます。ポイントは、何のために、誰に、何を、どう聞き、どう返すかを最初に設計することです。

どんなデータがほしいのか

サプライヤーエンゲージメントの目的は、Scope3算定や削減管理に活用できる「信頼性のあるデータ」を得て、削減行動につなげることです。そのため、収集対象となるデータの範囲と粒度を最初に整理しておきます。

実務上、まず押さえたいのは以下です。

  • サプライヤーのScope1・Scope2排出量(年度、境界、算定方法を含む)
  • 可能なら、サプライヤーの**Scope3(上流側)**の把握状況(カテゴリや範囲)
  • 算定から除外している排出源の有無、前提条件(拠点範囲、連結範囲など)
  • 原単位情報(売上高当たり、製品当たり等)
  • 第三者検証の有無、保証範囲(どの範囲が保証対象か)

この一式が揃うと、「数値の大小」だけでなく、「なぜその数値なのか」「改善の余地はどこか」まで見通しがよくなります。

また、一次データには大きく「組織ベース」と「製品ベース」の2つがあります。

  • 組織ベース:サプライヤーのScope1・2(可能なら上流Scope3も含む)を総売上などで割り、サプライヤー固有の排出係数を算出。購買金額に掛けてカテゴリ1を算定します。サプライヤー側の負担が比較的低く、進めやすい一方、製品ごとの差は表現しにくい。
  • 製品ベース:製品ごとのCFP(カーボンフットプリント)を用いて算定。精緻ですが、サプライヤー側負荷が大きく、対応できる企業が限られることがあります。

両者は排他的ではなく、成熟度に応じて併用も可能です。本記事では、取り組み初期〜中期でも現実的に進めやすい「組織ベースでの一次データ」を中心に説明します。

どんなサプライヤーにお願いするのか

取引先すべてに一律で依頼するのは現実的ではありません。まずは優先度の高いサプライヤーから確実に始めるのが定石です。代表的な選び方は次の通りです。

  1. カテゴリ1排出量(影響度)が大きいサプライヤーを優先
    自社Scope3に対する寄与が大きいほど、効果の説明もしやすく、社内の納得も取りやすいです。
  2. 業種・カテゴリでセグメントを切り、偏りを避ける
    特定業種に偏ると、取得データが特定の業界になりがちです。セグメントごとに一定数を選ぶと、分析(セグメント平均・成熟度比較)にも使いやすくなります。
  3. 将来重要になる調達先を早めに巻き込む
    今は排出量が小さくても、今後の調達計画で重要になるなら、早い段階から関係性をつくっておくと後が楽です。
  4. 脱炭素の成熟度/リスクも加味する
    サステナビリティ報告書、CDPスコア、第三者認証の状況などから、一定の見立てができます。成熟度が高い企業は早期に良いデータが取れる可能性があり、成熟度が低い企業は支援が必要だが改善余地が大きい可能性があります。

実務では、これらを組み合わせて「上位影響度+将来重要+数社の先進企業(ベンチマーク)」のように設計すると進めやすいです。

どんなアンケートを作成するのか

データ収集の方法は大きく2つです。

  • 標準化ツールを活用する(例:CDPサプライチェーン、EcoVadis等)
    既に回答経験があるサプライヤーも多く、設計・運用コストを抑えやすい点がメリット。一方で、自社の目的に完全一致しない、質問が広くて回答負荷が高い、といった課題もあります。
  • 自社独自アンケートを作成する
    目的に合わせて設計でき、必要な情報に絞れるのがメリット。一方で、設計力と運用力(回収、問い合わせ対応、妥当性確認)が求められます。

以下のような要素をアンケートに含めると良いですが、すべてのデータを取得することは困難です。優先度を設定し、必須質問と任意質問を分けて設計するとスムーズでしょう。

  • 対象年度
  • 連結範囲/組織境界(拠点・子会社含むか)
  • Scope1排出量(数値、算定方法)
  • Scope2排出量(ロケーション/マーケットの扱い、数値)
  • 売上高(排出係数換算に使う場合)
  • 第三者検証の有無(あれば範囲も)
  • 使用電力の内訳(再エネ比率など)
  • 主要な削減施策(再エネ調達、設備更新等)
  • 排出原単位(売上高当たり等)
  • 算定から除外した排出源の有無
  • 上流Scope3の把握状況(カテゴリ範囲)
  • 製品CFPの有無、算定範囲、第三者保証の有無

こうして階層化すると、サプライヤーの成熟度の違いを吸収でき、回収率を落としにくくなります。また、こうした排出量情報の提示には、生産量や売上などの数字を推測される可能性があるため、慎重になるサプライヤーがいることも事実です。独自アンケートで収集する場合は、そういった点への配慮もしっかりしておく必要があるでしょう。

アンケートの実施

実施フェーズで効くのは、「社内の段取り」と「相手にとっての分かりやすさ」です。

1)社内合意を先に取る
サプライヤーエンゲージメントはサステナ担当だけでは回りません。購買・調達、会計・財務、必要に応じて経営層も含め、次を合意しておきます。

  • 取り組む意義(何のために、いつまでに、何を得たいか)
  • サプライヤーの選定方針
  • 回収〜妥当性確認〜反映までの役割分担
  • サプライヤーとのコミュニケーション体制(窓口、FAQ、説明会)

2)アンケート期間中は伴走が重要
未提出企業へのリマインド、問い合わせ対応、説明会など、現場対応が発生します。調達担当とサステナ担当が連携し、GHGに詳しくない担当者でも迷わない導線(説明資料、入力例、問い合わせ先)を用意するとスムーズです。

3)回収後に価値が出る(ここが本番)
アンケートは取って終わりではありません。回収後に、

  • データの妥当性確認
  • 結果のフィードバック
  • 次年度に向けた改善ポイントの提示
    を回すことで、継続的な削減につながります。

支援策としては、資料提供に加え、集合説明会、個別支援、eラーニングなどを組み合わせると効果的です。さらに、毎年進捗を見直し、Scope3構成変化を踏まえて重点サプライヤーを更新していくことで、取り組みが形骸化しにくくなります。

「サプライヤーエンゲージメント」で気を付けるべきポイント

概要

サプライヤーエンゲージメントがうまくいかない典型は、だいたい同じところでつまずきます。ここでは、実務で起きがちな“落とし穴”を先回りして潰します。

答えやすさ・データの準備しやすさには注意!

サプライヤー側は、複数社から同様の依頼を受けていることが多く、アンケートが重なると負担が急増します。取組状況や担当者の体制も会社によってさまざまです。だからこそ、アンケートは「汎用的で、工数を抑えられる設計」が重要です。

既存のデータ収集システム(CDPサプライチェーン、EcoVadis等)を使うのも一つの手です。ただし、標準化された質問は広範になりやすく、自社目的に合わない項目や、回答負荷が高くなる項目が含まれることもあります。

最終的には、取りこぼしのない“最小限”と、相手の負担を増やしすぎない“現実性”のバランスです。入力例・単位・境界条件の説明を丁寧にすると、回収率とデータ品質が同時に上がります。

アンケートを取って終わり、ではないので注意!

一次データを集めること自体はスタート地点です。サプライヤーエンゲージメントの目的は、協働して削減を目指すことにあります。来年、再来年と継続してこそ価値が出ます。

次年度以降もスムーズにデータ提供と改善の議論ができるよう、関係性を整えることが大切です。可能であれば訪問やオンライン面談で、取り組み状況や課題をヒアリングすると、次の打ち手が具体化します。

また、サプライヤーの取り組みレベルをスコア化し、進捗を体系的に管理するのも有効です。トレーニングの優先順位付けや、支援メニューの設計がやりやすくなります。表彰や評価シートへの反映など“インセンティブ”設計も現実的です。

データの信ぴょう性・妥当性には注意!

データ収集で重要なのは、集めたデータの信ぴょう性・妥当性の確認です。サプライヤーが時間をかけて回答してくれたとしても、単位違い、入力ミス、境界条件の取り違えがあると、現実的ではない排出係数になってしまうことがあります。

最低限、次をチェックすると事故が減ります。

  • 単位(t-CO2e、kg-CO2e、MWh、GJなど)の整合
  • Scope2のロケーション/マーケットの扱い
  • 対象年度・連結範囲・拠点範囲の整合
  • 異常値(急増急減)の理由確認

異常値を見つけた場合は、いきなり「間違いですか?」よりも、「想定される原因(単位・範囲・年度差など)」を添えて再確認を依頼すると、コミュニケーションがスムーズです。

まとめ

脱炭素経営は、Scope1,2,3を算定し、目標を設定したあとのアクションが本番です。その中でも多くの企業にとって排出割合の大部分を占めるサプライヤーの排出量を削減することは、サプライチェーンの脱炭素化の肝です。

サプライヤーエンゲージメントは自社だけでは完結しない、サプライヤーを巻き込む取り組みであるため、実施するハードルが高いと感じる担当者様も多いことでしょう。

当社はそうした企業の皆さまの伴走支援を行っています。お手伝いの方法は企業様のご要望によりそれぞれです。フルパッケージでご相談いただき、アンケート作成から回収後の分析までずっとお手伝いさせていただくケースもあります。一方で、アンケート質問内容だけ、仕組みづくりだけ、という部分的なご相談をすることで、次年度以降は自走していくという使い方もよくあるおすすめコースです。

「何から始めればいいかわからない」、「やってみたけれどもこれでいいのかわからない」など、お困りごとがございましたらぜひ一度ご相談ください。

(執筆者:久保・浦越)

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